大変な思いや小さな成功体験が、後に自信をくれる話。
シフォンケーキをメインに
様々なケーキがショーケースに並ぶ、
東京の小さなケーキ屋さん。
クリスマスの時期はマジでキツい。
睡眠時間は3時間ほど。
交代で仮眠を取りながら、
ひたすらにケーキを作る……。
憧れていた東京生活とは大違いの日々。
給料は手取りで10万あるかないか。
パティシエってこんな日々なの?
って思いながら過ごしてました。
お昼は賄いがあるので、
朝は1番に出勤し、
売れ残りのケーキで空腹を満たす。
寮のアパートは6畳1DKの風呂無し。
お風呂は2日に1回、歩いて30分の銭湯へ。
大して仲良くもない同僚と2人で共同生活。
夜はスーパーやコンビニの安売りパン。
朝は5時出勤。
後から出勤してくる先輩達のタイムカードも
押さなければいけない謎ルールのせいで、
遅刻は絶対に出来ない。
たまにちょっと遅刻すると、
ボロカスのように痛ぶられる。
そんな生活を1年程続けているうちに、
徐々に先輩達が辞めていく。
原因はドSのチーフのせい。
普通は店長とか呼ばれる立場なのに
なぜかチーフと呼ばれていました。
某有名洋菓子店出身でバツイチ。
不機嫌な時は手が出るのが当たり前。
機嫌が良くても、
何かとちょっかいを出しては笑っている。
白のコックコートの上から、
なぜ分かるのか
ピンポイントで乳首をつねり、
悲鳴を聞いては笑っている人でした。
しかし、そんな生活に耐えていると
自然と対応力が付いてくるんです。
今は近寄ったらダメだなとか、
今なら話しかけても大丈夫だなとか。
顔色伺ったり、性格を見抜いた上で、
空気を読めるようになっていました。
先輩が少しずつ居なくなっていくと、
自然と任される仕事が増えていきます。
化学反応の塊と言っても過言ではない
ケーキ作り。
製菓学校に通ってきた先輩達と違い、
完全にOJTで仕事を覚えました。
当然、スポンジがなぜ膨らむのかとか、
カスタードにしっかり火を通す理由なんて、
当時は教えてももらえないし、
勉強する余裕すらない。
朝起きて、仕事して、帰って寝る。
ただ言われたことを素直に聞き、
横目でやり方を真似をし、やってみる。
それだけ。
そんな毎日を過ごしながら、
繰り返し同じ作業をしていると
急に上達する瞬間があります。
コツを掴むというヤツですね。
例えば、スポンジに生クリームを塗る作業。
業界用語で「ナッペ」といいます。
生クリームの状態や下塗りの加減、
上塗りする時の生クリームの固さの違い。
パレットナイフのしなり具合。
そして、いかに手早く手数を減らして
仕上げるか。
シフォンケーキは形が台形で
真ん中に穴が開いています。
型から抜くのも、ナッペをするのも
普通のスポンジケーキより
段違いに難しいんです。
そんな些細なことに
気付けるようになってくると、
1個のシフォンケーキを仕上げる時間が
いつの間にか早くなっていました。
ナッペする時間が短くなると、
生クリームの状態も変化が少ないので
口当たりが滑らかで美味しく感じます。
それを見ていたチーフから、
「お前、上手くなってきたな。」
と褒められることがありました。
とても嬉しかったです。
ほんの小さな成功体験でした。
でも自信になった。
そんな辛く大変な思いや、
小さな成功体験の積み重ねが
いつのまにか大きな自信となって、
後輩が出来た頃には、
チーフと変わらないスピードで
仕上げれるようになっていました。
辛い日々を我慢した先にある、
些細な喜び。
昔、耐え切ったあの状況よりは
まだマシじゃん!って言い聞かせて。
そんな日々があったからこそ、
今の自分があるのだと
考えています。
普段は割とのほほ〜んと
過ごしていますけどね!笑