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作ってみて考えた【薬膳備忘録2】

中医に基づく食養生、薬膳について理解を深めていくと、自分の体調に沿う食材を選ぶ事が増えたり、無性に食べたい食材がある時に「なんで私はそれを求めているんだろう?」と考えるようになった。

私は子供の頃から羊が大大大好きで、選択肢に羊があれば迷うことなく羊を選ぶし、年がら年中ガツガツと羊を食べていた。でも今は真夏にはほとんど食べなくなった。というのは、羊の肉は薬膳的分類ではかなり強めの温性、なんなら熱性と分類されていて、食べると身体を中から熱くし、陰陽の陽を活性化させる性質だと知っただけでなく、夏場に控えるだけで多少夏が過ごしやすくなったと実感することができたからだ。もともと苦手で耐え難い暑い夏だけれど、大好きな羊を少し控えるだけで少しマシになった気がする……というか、暑い時期には暑気払いに向く食材がある。夏だけでなく、旬の食材はその季節を過ごしやすくする力を持っていたりするのだ。例えばスイカ。スイカは水分補給をしてくれて、身体にこもった熱を逃がす力がある。夏に食べない理由がないし、暑い夏に食べたいなあと思うことが多いのは当然のことなのだ。
そういう意味では、羊は涼しくなった秋以降が出番。これから続く冬なんて最適! というわけで、私は嬉々として羊に手を伸ばすのである。

また、料理のレシピを見た際に、主に中国、韓国と昔ながらの日本のものには、先人たちの知恵に適った組み合わせなんだなあと感心することもしばしば。薬膳という視点が私に備わったからで、まず「(新しい近代的な食材でなければ)ほぼすべての食材に温める・冷ます・中庸に分けられる性質があり、陰陽五行論に基づく5つの味に分けられる」という点で食材の組み合わせを見ることが増えてきた。

noteでも大活躍で秋には初のレシピ本を上梓され、ますますメジャーになられた酒徒さんには、livedoorブログで中国の家庭料理を紹介されていた頃からお世話になっている(一方的に)。酒徒さんが軽快かつ小気味よく紡ぐ言葉に心が踊り、レシピと写真で食欲をくすぐられ、既知の料理でもその作り方が新鮮だったり、未知の料理は未知なりに酒徒さんの言葉に従って作って楽しんでいた。が、薬膳を学ぶようになって、中国では食養生という考え方が今でも家庭の中でしっかりと生きているんだなあと感じるようになった。食材の組み合わせやその料理が主に食べられる季節が、それを教えてくれたのだ。理に適っている、まさにその言葉が当てはまる。だから、酒徒さんが教えてくださるレシピには二重どころか複合的に楽しませていただいていると言いたい。

そこで羊の登場である。著作の『あたらしい家中華』には掲載されていないけれど、羊と大根のスープなるものがnoteのマガジンでも紹介されていて、冬のごちそうと紹介されたそのスープが前々から作りたくて仕方なかった。なぜか前の冬はその機会に恵まれなかった。それがついに先週、ようやく、満を持して! 作ることができた。大根と骨付きマトンが揃ったのだ。

このスープ、美味しい。ものすごく美味しい。間違いなく美味しい。骨付き羊と大根を煮込んで塩で味付けするだけなのに、実に味わい深い。リピ確定! と食べてすぐにウキウキしたのだけれど、半分も食べないうちに不思議なことが起きていることに気がついた。
この時の私は数日前から激しい鼻水に悩まされていて、鼻のかみ過ぎで過敏になった内壁が傷ついて、それはそれは鼻の中が大いに荒れていた。鼻水が出る→鼻をかむ→鼻の中が傷つく→鼻血が出る、負のスパイラル。食べ始めたときもすすっていたのだが、食べているうちに鼻水がピタリと止まっている! その時は、羊の力で温まったからかなーと軽く考えており、翌日にはまた鼻水地獄に戻ってしまった。
その後、肉が3片あったので、3回に分けて食すこととなったのだが、2回めも同じことが起き、そして3回めの夕べ、やっぱり食べている途中で鼻水が止まって以来、瀧のように流れていた鼻水が治まっている。多少は出るので完治とは言えないまでも、無限地獄からは脱出している。

なんで?

そこで羊について深く考えることにした。

羊といえば、甘味で温性で脾と腎に帰経して、温中暖下と益気補虚。薬膳の師匠にいただいた食材表にこう書いてある。肺に帰経しているということは鼻にも影響はない、はず。効能の「温中暖下」は「胃を温めて暖かさが下がる」ってこと……? でもそれだと鼻には関係ないか。
ここに来て、師匠のお師匠様が監修された『薬膳食材大全』を開いてみた。あ、解に近づけるかも……。

こちらには羊の肉だけでなく、羊の骨と脊髄または骨髄の記載がある。髄も大好きだ。ほじくり出して食べる。

骨は腎に帰経して、効能に止血もあり、適応の最後に鼻血と書かれている。これが作用しているのか。
骨髄は甘味で涼性。強めの温性の羊の髄なのに涼性! これは衝撃的だ。帰経は記載がないけれど、効能に補陰填髄、潤肺沢膚、清熱解熱とある。肺が出てきた。「肺を潤して、皮膚も潤す」。皮膚を潤すということは、単純に受け取ればつややかにするという意味でだろうけど、皮膚を覆って護ってくれている衛気にも通じるのだろうか。それによって冬の寒気を寒邪に至らないように、かぜを引いてしまわないように護られるのだろうか。

そして私は大事なことを忘れていた、大根の存在を。肺に帰経していて、消食化痰と下気寛中。お師匠様の本では止血もある。肺経は鼻にも通じている。効能だけ見ると食事や大腸に続く経路に影響しているだけのように見えるけれど、肺経であるならば鼻水にも効果があってもおかしくない。
ということは、羊と大根の組み合わせで、体を温めながら化痰して、同時に熱を持ってるところは清熱してくれて、鼻血も止めてくれて……って、止まらない鼻水に困ってる時に最適な組み合わせということなのではないか?
ともかく、いま私の鼻は非常に快適である。

引き続き、実験が必要だ。この冬は、かぜを引きかけて鼻水が出始めたら、骨付き羊と大根を買ってこよう。

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