2024.11.3 NEO PIANO GAMERS 感想文
0 はじめに
2024年11月3日 約1年ぶりの浜離宮朝日ホールで、久しぶりのNEO PIANOシリーズ「NEO PIANO GAMERS」(以下 ネピゲー)が開催され、弾丸ツアーで行ってきました。出演者は、事務員G、ござ、瀬戸一王(敬称略)。
ここ2年ほど専門外の業務での長時間勤務を強いられ、不条理な毎日にヒリヒリしながらギリギリの精神力で過ごしているわたしにとって、人生は得るもののないRPGです。そんなこともあり、現実世界ではほとんどゲームをしない民なのですが、ござさんの美しい生ピアノが聴ける機会…そして、ござさんご自身がおそらく「あの日」の悔しさをピアノできちんと返すために、人知れず臥薪嘗胆のチャンスとして考えているであろうこのコンサート。…何をおいても駆けつける所存でチケットを取りました。
このnoteは、その私的な記録であり、ござさんが中心の文章であることを、初めにお断りしておきます。また、SNS等でのセトリ公表は遠慮してほしいとの主催者様の意向が初めに伝えられていたため曲名はぼかして書きます点を、ご理解いただければと思います。
1 承前
冬の浜離宮朝日ホールに来るのは、わたしは3回目。2021年「ござの日」、2023年中孝介コンサート「邂逅」、そして今回。冬とはいえ生暖かい海風の吹く海沿いで、ホールの周辺には山茶花が咲いていた。
さて、会場に到着し、ござさんや他の出演者様へのプレゼントを預けたのち、いざホールへ入ろうとして、さっきまで大事にサコッシュに入れていたチケットがないことに青ざめた。ついさっき、サイフを取り出した時に落としたんだと気がついて、その場所まで脳内では特定できたが、もう戻っている時間はなかった。
繰り返しになるが、この2年というもの、業務に多大な時間を割かれて精神的な余裕がなく、これまでにないほど忘れ物やうっかりが激増しているわたしだが、ついに大事なチケットまで失せ物にするか…としばし落ち込んだ。ただ、元々座席運がとんでもなく悪かった(最後列w)チケットだったので、えいやっと当日券を購入、 16列目ど真ん中という座席を手に入れた(次からeチケットで購入します。eチケット最高)。これはSS席、人生はRPGだと納得し、いざ馴染みのホールへ移動する。
会場には若い方がかなりいて、ゲーム音楽という性格と共に瀬戸さんファンの熱量を感じる。舞台上には、スタインウェイが2台、横並びにV 字を描くように配置されている。下手には屋根付きピアノ、上手側は屋根なし小さめスタインウェイで、どこからも弾き手が見えるような工夫なのだと思った。ただし2台ピアノの演奏者は耳も相性も良くないといけない配置かも…などと思い、瀬戸ござブラザーズ(仮称)の2台ピアノへの期待が高まっていく。
本公演は録画されているとのアナウンスがあって、確かにカメラは設置されていたが、ピアノ筐体内部へのマイクはなく、生音なのだとわかる。贅沢!!!
2 ござさんソロ①〜口開け・スペシャルメドレー
2ベルの後、下手袖入口付近で微かに人の声がして、元々静かな会場がさらに静まり返る。客電が落ちると、なんとござさんがお一人で登場し、会場は満場の拍手に包まれた。ござさん、Winter Specialのときの、アースカラーの大きめジャケットにベージュ系のマドラスチェックのだぶだぶパンツ。シャツはオフホワイト、ノーネクタイで、何とも優しい雰囲気。
デビューしたての役者みたいに丁寧すぎるほどのお辞儀を四方にした後、いつものように下手の椅子にストンと軽やかに座るやいなや、しっとりした「前奏曲」(プレリュード)から始まる、植松伸夫さんへのリスペクトを感じる10曲ほどの同一ゲーム曲メドレー。
会場を温め、手をしっかり鍵盤に馴染ませるような壮麗な長いアルペジオの美しい前奏曲から、なめらかに軽やかな次の曲に移行すると、今度は軽やかに左手の四つ打ち。その四つ打ちの精度といい左手の跳躍といい、トップバッターの緊張などないかのようにいきいきと弾いていらして、正面のわたしの座席からは、軽やかにリズムを刻む手が全く無駄のない美しい動きなのがよく見えた。短調に移調したり同音連打で繋いだりベースで繋いだりと繋ぎまで洗練されていて、相変わらずピアノ1台とは思えないリズムを刻みながら、これぞ「NEO PIANO GAMERS」といったメドレーで、コンサートのコンセプトやゲームの世界観を伝える超一流の「口開け」のメドレーになっていると思った。
特に絶大な人気を誇る、切ないピアノ曲がござさんの手にかかると、本当にリリカルで哀愁に満ちていて、しかも浜離宮朝日ホールが3回目ということもあるのだろうが、ホールの残響音まで計算され尽くした譜で、シンプルなのに音の重なりや響きが信じられないほど美しいのだ!
まだ冒頭だというのに啜り泣く人が何人もおり、わたしも涙腺が緩んでしまった。トレモロから繋いで、最後に前奏曲に戻ってくるところまで完璧に世界観を描ききった、神構成メドレーだった。
2‘ MC①
感動の演奏を終えたござさん、会場からの万感を込めた大きな拍手に対してお辞儀をするのだが、恥ずかしそうにペコペコしたり、マイクがなく動線に迷ったのかくるりと回ったりして、会場中の微笑みまで誘いこむ天性の愛嬌(落語だとフラと言うあれ)を発揮。まるで、演奏者集合前の、挨拶の露払いまでなさっているかのようだった。
そうしているうちに、袖から事務員Gさんと瀬戸一王さんがマイクを持って登場し、ござさんにマイクを手渡し。
MCの都度、事務員G(以下G)さんがMCの中心となるわけだが、Gさんがほぼセンターに立っているのに比べ、ござさんは瀬戸さん寄りの下手側ピアノの前、瀬戸さんは限りなく袖に近い位置wに立っていて、物慣れない感じなのが何とも微笑ましい。弾くと凄いのに、その落差たるやw
まずGさんが、口開けのござさんのメドレー曲をゲーム名と共に紹介しつつ、コンサートの趣旨を説明。
G「これまでNEO PIANOなんたらシリーズ(とおっしゃっていたと思う)を作ってきた。今日は人員が足りない。」「ジャケットの色、3人被らなくて良かったね!打合せなかったけど。和菓子っぽい」
トークの間、ござさんは脚がブラブラしていてすっかりリラックスモード(なのかな)。きっと、Gさんにトークをお任せできて演奏に集中できるから安心なのだろうと、見ているほうもなんだかほんわか落ち着いてしまう。
G「瀬戸くんは、ピアノがゲームみたい(に難易度高い)だもんね」
Gさん、うまく2人にも水を向けながらなめらかにトーク。
G「瀬戸くんはスマブラな人だよね?」 瀬「そうですね」 一問一答の瀬戸さんw。
G「ござくんは?1番やったのは?」 ご「ぼくは…スプラトゥーンですかね」 同じく一問一答のござさんw。
G「僕もスプラかなあ…あれやばいよね」 ご「やばいっす!時間溶けますね」
一問一答で収まってしまう柿衣さんと煉り抹茶さんとのトークがほとんど続かず、1日12時間やったことがあるオチまでついた烏羽玉・Gさんの話は本当に見事で面白く、すっかり聞き入りながら、この和菓子3人男子でバランスが取れているんだなあと思った。
3 瀬戸一王さんソロ
そして瀬戸さんソロ。若い観客が食い入るように見ていた瀬戸一王さんソロの1曲目は、「この世のすべての曲の中で1番好きな曲」とYoutubeに書いていた有名RPGゲームの曲から。亡くなった作曲家を偲ぶような、荘厳で華麗で切なさが胸に迫る演奏。ダイナミクスコントロールが効いていてグランドピアノが手に馴染んでる。
続いて同じゲームの戦闘曲。この時の左手のトレモロの力強さ!音圧も素晴らしかった。Gさんが「ピアノもゲーム」と仰っていた意味がよくわかる弾き込み具合。
このソロの間に瀬戸さんのMCが入ったのだが、演奏の音数に比べて言葉数少ないのが可笑しかった。この人も、第一言語がピアノなのだな。
瀬「今日の流れを書いた紙に『MC』と入っていてびっくりした。完全に忘れていたw」
と言って、狩りゲーであるゲームから3曲目の紹介。
これも有名なゲームから激し目の曲で、瀬戸さん最初からアクセル全開で弾いていて、度肝を抜かれた。
やや反響音が重なり合い、ベース音が残ってしまう気がしたが、それほどの音数になるのは、おそらく、曲を再現する音を10指で弾けるだけそのまま楽譜に落とし込むという「無理ゲー」を極めた結果なのだろう。なのに、本人はいたって涼しげな顔で弾ききったのが素晴らしかった。同じゲーム曲をもう1曲弾いたと思う。
瀬戸さん、手足が長いとは思っていたけどあらためて見ると手が大きい!そのリーチを活かした情熱的な演奏に、会場からは割れんばかりの拍手が響いた。瀬戸ゲーム曲は人気が高く叶わないことと思うが、もっと小さな反響の少ないホールで聴いてみたいと切に感じた。
4 事務員Gさんソロ①
続いてGさんが登場、ファンお待ちかねのソロピアノの前にトーク。
G「Budoさんから『Gさんって弾いてるより話している時間のほうが長いんですよね』と言われた。AIR-Gというラジオ番組を長くやっていて、話しながら次の繋ぎを考えてしまう癖がついた」「今日のセットリストの中では、僕のところはリラクゼーションタイム。お客様が1曲も知らない、ということがないようにと思っている」
そう謙遜していらしたが、客の反応を見ながら満足度を上げるプロデューサー業との掛け持ちで今回は臨んでくださっていることに、しみじみと感謝を感じるトークだった。
1曲目は、どうぶつをあつめる可愛らしいゲーム曲を、アンビエントでメロウなジャズ仕立てにしたもので、Gさんらしく心地よく、優しい音。誰もが知っている曲をchillにアレンジする選曲で、そこにもGさんの心配りがある。
2曲目はいりすさんから勧められたという、都市経営シミュレーションのゲーム曲で、わたしは初めて聴いた曲であったが、畳み掛けるメロディが単調にならず、しかも(多分だけど)和音が洒落ていて心地よかった。客層に合わせた選曲とともに、仲間のリクエストから選ぶのもさすがだなぁと思った。
3曲目はお父様に買ってもらったというファミコンゲームのRPGゲームのテーマ曲から。当時のゲーム自体の難易度から、1面しかクリアできなかったことや、容量の問題から3和音しか使えないにも関わらずアルペジオで工夫してあったことなど、ゲームにまつわるトークも、このコンサートに相応しいものだった。
そんなお話の後のGさんの演奏は、3拍子のかわいらしい曲に少しづつ和音の音数を増やしていきながらアルペジオで展開、ゲーム業界の方へのリスペクトの気持ちのこもったいい曲だった。
そして最後の4曲目。ノスタルジアシンフォニーの曲を演奏…!なんてこったい!Gさんのここまでの曲たちとは違う、メリハリの効いたGさんの本気のピアノは、ドラムンベースのドコドコしたリズムに、ヨナ抜きフレーズ?も入った渾身の演奏だった…!しかも速弾き!素晴らしかった。
ここで、再度ござさんが登場。Gさんと、Gさんの4曲目に関わるエピソードトーク。
G「あの話、していい?」
ご「あの話って何ですか?不安なんですけどw 」
と言いながら、次の演奏曲の「匂わせ」トークをなさり、
ご「Gさんのトークを参考にしたい」「引き伸ばして行けばいいんだなって」で会場の笑いを誘い、リラックスした雰囲気でソロ演奏に入った。
5 ござさんソロ②
再びござさんのソロピアノ。このコンサートは、割合演奏者の出入りが多かったが、ひとつにはそれぞれの曲バランス(雰囲気や難易度や盛り上がり)を考えたセトリにしてある、曲目重視のコンサートだからかと思う。さらにはゲーム音楽に難曲が多く、通して弾くには相当体力を使うこともあるだろう。また、何というか弾ききりで唐突に終わる楽曲もあることから、コンサート全体を俯瞰した結果なのだろうなぁと思わせられた。
いずれにしても再びのござさん。下手側のプリモのピアノの椅子を下げ、Gさんのトークも受けた本気度を感じる風情で弾き始めたのは、配信でも人気と思われる、佐々木博史さんの、ギターが印象的な100秒の楽曲。
早い!!!そして完璧な左手跳躍!!!
この楽曲はギターがメインの、ビーマニボス曲に相応しい爆速曲。6弦あっても大変そうなのに、それを88鍵上で表現するためにはこれほどの跳躍が必要で、かつ3連符、変拍子と、短いとは言え難易度高過ぎる。それを易々と(見えるほどに)弾いてしまうござさん…かっこよ…
下のリンクの動画(メン限)でも聴けるのでぜひ。
そして、そして遂に!!!
ござさんご自身も待ち望んだであろうあの名曲が遂にコンサートで演奏される日が!感情が上がりっぱなしになるのを抑えられないが、これを指先ひとつ見落としちゃいけないという理性で制御して舞台上のござさんを見つめる局面が遂にやってきた。
前半の、ゆったりしたアルペジオからのスタートは、不安定で美しい和音の中に左手ベース音がくっきり。このゆったりしたBPMにあって、跳ね返り音の美麗な豊かさは、ホールならではの心地よさ。やがて同音連打を経て徐々に音圧とテンションが上がり、速弾きからの急激なスロウテンポへのスイッチバックは正確無比。サビのメロと装飾音の一音一音、よく跳ねる左手まで美しさの極み。ここまでパワーを溜め、リラックスしながらテンションを温存してこその演奏の美!ブラボー!と讃える声がホールに幾つも響いたことを書き残しておく(もちろんわたしも讃えました)。
5' MC②
演奏後、ござさんはマイクを持ったものの「息が…アレなんで…!」と言葉が継げずゼェゼェされている中、Gさんが登場。
G「ようやっとでしたね」「あれは2021年9月、コロナが話題になっていた頃ですね」
に始まったのは、当時のとある素晴らしいコンサート本番3日前にござさんが当時の流行病に罹患した、あのこと。
ご「ぼくが、その、罹りまして」
G「関係者の方に呼ばれ、(先の曲)含め明後日までに」と言われてGさんと瀬戸さんに代打が回ってきたこと。Gさんは自分には無理と言いながら、缶詰で練習しまくったこと。…
そのGさんの練習漬けの様子を、「あのGさん(いつも洒脱で伊達でしっかり者の、という意味かと思う)の精神状態がボロボロで、本当に悪いと思った」と表現したのが、律儀なござさんらしく、わたしなどあのときを思い出してまた涙腺が緩んだのだった。
Gさんは、それ以来恩に着せていろいろやってもらっている、ござさん被害者の会だ、と笑いに紛らせてしまったが、あのときの漢気を思うと、ござさんならずとも恩に着る働きだったのではないか。大勢の、音ゲーファン、ゲーマーが集まるだろうコンサートにおいて、たった3日であの難曲を弾くわけだから…!
G「瀬戸くんもね、難曲をね!」 ご「そうなんですよ…!」
気がついていたけれど、あのときのござさんの不在をカバーしてくれたお2人が今日の出演者なのが胸熱で、何よりGさんの漢気を感じたあの当時を思い出し、大きく頷いて聞いたトークだった。
6 事務員Gさんソロ②〜ジャズピアノを知った曲
ござさんは一度はけて、Gさんが「曲名もないゲーム曲」をソロで。パソコンの、争いのないシミュレーションゲームなのだそうで、「ジャズピアノってこういうのかぁ」と意識した曲との紹介があった。
名前すらない曲とは言え可愛らしい曲で、左手にグッと力を込めるとき、Gさんの左肩が下がるところにGさんの思いがこもっていると思った。
7 事務員Gさん&瀬戸一王さんコラボ
ここで、瀬戸さんが密やかに登場。
G「2年前の被害者ですw」
と紹介して、ちょっと外すからよろしくと言って、Gさんは袖に消えていった。その間瀬戸さんのトーク。
瀬「被害者と言われたけど、僕にとってはおいしすぎる仕事だった。オーケストラと演奏したのは初めてで素晴らしい体験だったし、偉大な作曲家の方々にお会いできて、ござさんには感謝しかない」
と、口数の少ない瀬戸さんが、この日1番トークしたのがござさんへの感謝で、ござさんファンはみな落涙した(と思われる)。瀬戸さん、本当にいい人だなぁ…
そんなトークの合間に、Gさんが譜面台とアコーディオンを自ら抱えて再登場。この辺りからも、演者出入りの合理性よりも、セトリの構成を最優先に考えたコンサートなのだろうと察せられる。激しい曲と穏やかなのが交互で、とてもバランスがいいのだ。
ここで、Gさんのアコーディオンと瀬戸さんのピアノで2曲演奏。まずはアクションアドベンチャーゲームから、バンドネオン?使用のとある勇者のテーマ曲。曲に入る前に、アコーディオンの左手のボタンの説明までなさった、多芸なGさんの真骨頂で、瀬戸さんの右手の麗しさと共にワルツに聴き惚れた。
もう1曲は同じゲームのメインテーマ。とても麗しく勇壮なテーマ曲を、瀬戸さんの長い腕のリーチで堂々と弾いていて素晴らしかった。
8 ござさん&事務員Gさん2台ピアノ
ここで袖から出ていらしたござさんも含めての3人のゲーム推しトーク、わちゃわちゃ楽しそうだった。7の瀬戸Gコラボで弾いた曲の、元ゲームをやったほうがいい!という激推しである。
ご「本当にやったほうがいいです!…人生の大半を吸われますけどw」
…そう、熱く語られた当のGさんが遂にそのゲームをやってみた話が、最近noteに書かれていたのは記憶に新しい。
ところで、このトークの間、ござさんは上手ピアノのところにいて相変わらず少しGさんと距離感を保っていたのだが、その理由がちょっとしたことで判明する。ござさんはその時、彼にしては珍しく、紙の楽譜2枚とタブレットを持ち込んで、タブレットを真ん中にして、上手スタインウェイの譜面台に置いていた。後でわかったが、譜めくりせずに全て見通せる譜面。と、不意に紙の楽譜が1枚飛んでピアノの下に滑り込んでしまった。
ご「よいしょっ」
いつもの、飄(ひょう)けた感じで言いながらござさんは楽譜を拾い上げていたのだが、実は上手ピアノの譜面台のところに風が吹いていたのようなのである。そのためにござさんは上手ピアノに付いたままトークをしていたようなのだ。この、舞台風については後ほどまた改めて記す。
ここでGさんとござさんの2台ピアノになるのだが、その2台ピアノについてGさんは少しく持論を持っていて、少し前までは、2台ピアノの例はそれほどなかった、というのがそれだ。それに対してござさんが
ご「しゃべりすぎなんですよGさん。喋る数が多いと、失敗が増えますよ」…
配信者生活が長い、いわばインターネット老人(褒めてる)2人の私的なおしゃべりを聴いているようで、わたしは少しくすぐったかった。ござさんが時々Gさんを心配したり諭したりするのは、例えばGさんの配信において、無理な姿勢をするGさんに対して「腰を傷めますよ」と声をかけた例もそうなのだが、他の人ではなかなか言えないような家族の会話に似た親密さがあると感じる。
そして例えば「喋る数が多いと失敗が増える」なんていうのは、配信生活が長いこの2人には実に重みのある言葉なのだという気がするのだ(…というか、はい、わたしもすみません。気をつけます)。
事務員Gさんが今回板の上に乗ってくださったことで、ござさんの私的なおしゃべりを垣間見られたような気もするし、仲間意識のありようもわかって、二重に充実したコンサートであったと思っている。
それはともかく、Gさんとござさんの2台ピアノは本当によかった。楽しいアクションカーレースゲームから2曲弾いたのだが、どちらも明るい曲たちでGさんもござさんも心から楽しそうだった。その上、気の合う同士の遠慮ないアドリブが入って、風景が見えるようだった。上下入替しながら展開するのだが、例えば土管に入った効果音を入れたり、リズムキープしながら弾むような迫力のあるござベースに、Gさんが原曲のキーボードの軽やかなシュワシュワした音を入れたりしていた。Gさんもござさんを見て、ござさんもGさんを振り返りながら弾いていたのも音バランスがよくて幸せロードだった。
9 ござさん&瀬戸一王さん2台ピアノ
ここでGさんが袖に下がるのだが、ござさんが声をかけた。
ご「Gさんにお使いをお願いしたくて…、譜面が(風に)飛んじゃうんで」
舞台風という。演奏者様たちは凄い曲ばかりだから、おそらくステージ上は温風を止めているのでは。客席側は温風だから、舞台と観客席との間に温度差が生じることがあり、その温度差で空気が動く、それを「舞台風」という。場合によっては緞帳が煽られるほど大きく空気が動くのだが、その風の合流地点が上手ピアノのあたりだったのかも知れず、それで紙の譜面が飛ぶのだと思う(知らんけど)。
「譜面が飛ぶ」は、記憶が飛ぶことではなく、文字通り紙が飛ぶ風の勢い。会館の方が譜面押さえを持ってきてくださり安心。あれ、ござさんの熱量が風を起こしたとも言える(言えない)。
「本日は事務員Gのトークイベントにおいていただきありがとうございます」で会場爆笑に誘う瀬戸さんに、ご「トークに関しては勉強になる」と言ってから、違う!と必死にリアクションしている間にGさんが出てきたのが、本当に漫才みたいで会場は大爆笑。
G「次のコーナーで2人で演ったら終わりです」と言うと、若い男子複数名が「えーーーー」って応えたのがよかった。おばちゃんも同じ気持ちだよ…
それに対して、「月日は百代の過客にしてって言いますからね」と応じて袖に引っ込むGさん、博識だなぁ…
そして、最後ということはつまり、次の瀬戸ござ2台ピアノが、ずっとずーっとござさんが練習していた例の曲ということだ…期待が高まる。
ご「瀬戸さんから楽譜もらって1ヶ月間、この曲の記憶しかない。音の密度、音楽の密度…」
瀬「ござさんにRPしているファンの中でこの曲を当てていた勘のいい方がいた」「ござさんは迷わずエグい楽譜を選んだ」
…ふむふむ、有用な情報ありがとうございます瀬戸さん!ただ、ござさんサイドから「どっちもえぐいことに変わりはない」と伺ってはいましたよ…
ご「登山コースを間違えた。わんこそば形式で(次から次と)楽譜が来る」
瀬「1週間くらい前w」
と、すごい話が満載である。つまり、瀬戸さんはギリギリまでその曲の採譜を密度詰めつめに詰めて譜面にし、ござさんはできた譜面から順に練習していた。だからいわゆる「通し練習」の回数が少なく、それであんなにウンウン唸っていた?わけだ。
上手セカンドがござさん。2度、慎重にカフスを上に上げてから、瀬戸さんと顔を見合わせ、息を合わせてスタート。1曲目は、世界中で愛される可愛いモンスターの出てくるゲームのチャンピオン戦の曲。よほど暗譜する時間がなかったと見えて楽譜を確認しながらだが、ござさんはメロディと和音、中間音担当。グルーヴ感が心地よいし、早い指くぐりが美しくて見惚れていた。瀬戸さんはベースを担当。跳躍の戻りが早い!途中、上から下まで装飾音でキラキラキラ…と下りてくるところがあったのだが、滑らかで力強くて、チャンピオン戦にふさわしい生命力がある。相性のいいピアニストたちだと思う。
2曲めに入る前、瀬戸さんが「ふう!」と一息。
2曲目は悲壮感と美しさが同居する戦闘曲で、このコンサートから50日後くらいに2台ピアノの渾身の動画として瀬戸さんのチャンネルに上がっている。2台ピアノの頂点だと思っている。
1曲目とは変わり、ござさんがベース!うううう美しい!
楽譜を見ている、と先に書いたけれど、左手のベースはノールック、瀬戸さんのこだわりを汲みつつ、正確無比な拍感でもって全体の演出的な色付けをしているのはござさんという気がした。
瀬戸さんの音はキンとみなぎる華麗なピアノ音が上品で、速弾きも長い指が楽しそうに躍動している。17時間以上かかったという採譜の、瀬戸さんの緻密な楽譜に先導された、2台のピアノの音の粗密の組み合わせの確かさは他に類を見ない。「ロッシュ限界」というのは、2つの星の潮汐力によって破壊されない限界距離らしいが、弾いている双璧の引き合う力は相性が抜群であり、まとまり感、なじみ感が素晴らしかった。最後2人で顔を見合わせて終了!素晴らしかった。 会場からはブラボーの声が多く上がり、立ち上がって拍手をする波も広がっていく中、2人は満足げに立ち去って行った…
10 アンコール
割れんばかりの拍手の中、やがてGさんが譜面台を持って登場。瀬戸さんも、自分編曲の2曲の出来が嬉しかったのか、楽しそうにぴょんぴょん跳ねながら登場されたから、大の男性に失礼だがめんこかった。瀬戸さんは下手ピアノ、Gさんは「こんなに拍手をいただけるなんて…」と嬉しさを口にし考えを巡らしながらアコーディオンを自分で持ちに行った。もしかしたら、袖の(きっとゼェゼェしている)ござさんと、何か話でもしたのだろうか。
そして始まったアンコール…だけど1周したところでGさんがアコーディオンを持ったまま立って袖に行き、アコーディオンではなくござさんの手を引いて登場してくれた。ありがとうGさん…
Gさんとござさんの2ケツは、GさんのTwitter(現X)にも上がったけど、いいよね仲良しで。
Gさんとござさん、当然即興だと思うけれど、上下入れ替えしながら一気に華やぎアンコールに相応しい仕上がり。弾き終えた3人は、満足気に立ち去ったのだけれど、客電が点いても拍手は鳴り止まず、やがて驚いた顔で3人が再登場。瀬戸さんはやはりスキップしながら登場(きゅん)。
「ありがとうございました!こんなに拍手をいただけるとは思っていなかったので…」とGさん。でも脳内コンピュータはすごい勢いで回転しているらしく、すぐにござさん・瀬戸さんに耳打ち。
観客が耳打ちに遠慮してシーンと静まると「拍手してていいですよ、聞こえちゃうんで」。そして始まったのは、伝統的民謡をゲーム曲に使用したもので、ねぴふぁび以来のあの曲を3人で。下手プリモにGさん、上手ピアノの右に瀬戸さん、左にござさんで連弾。Gさんは2人の手を見ながら、ござさんもGさんを見たり瀬戸さんを見たりしながら楽しそうに弾いていたのが幸せだった。
Gさんが初めに、「1曲も知らない」ということがないようにしたい、と観客への配慮を見せていたのだけれど、最後に「1曲も知らなかったという方いますか」と聞いたところ、手は上がらなかった。Gさんの企画のねらいは達成されたみたいでそれも本当によかった。素晴らしい演奏が盛りだくさんのコンサートに満足の吐息をつきながら、夜の東京を急ぎ後にした。…
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
11 終わりに
2024年ござさんの生ピアノの聴き納めは、とても素晴らしい体験だった。あのまま消えるのが本当に惜しい出色の出来の楽曲が多かったと思うが、その後、本文中に埋め込んだ通り、Gさんのnote記事や、瀬戸ござ2台ピアノ動画のアップなど、あれで終わるのは惜しい、と思ったのは演奏者様もそうだったのかも知れないと思っている。
余談だが、わたしは、雑音でなく彼らの音楽自体にしっかりと耳を澄ませて生きていたい派なんだと近頃思っている。SNS上では、無愛想で無反応な人間だと思われているのは百も承知だけれど、わたしの舞台はSNS上ではなく、ここnoteにあると思っているのだから仕方ない。別のフィールドには召喚されないし召喚せず、自分らしい表現活動をしていきたい。そしてこれからも、彼らピアニストの表現活動に真摯に耳をすましていきたい。