岡田有希子 「十月の人魚」 (1985)
当時彼女のファンであった私は、彼女の死から心の整理が就くまで20年以上の歳月が必要でした。
1986年4月8日、その日は高校が休みで、私は自宅でのんびりしていました。そして「笑っていいとも」を見ていたときに「岡田有希子自殺」のテロップを見て絶句。以来、20年近く彼女の音楽はおろか、私が彼女のファンであったことも、口外することはありませんでした。
そう、確かに私は心の整理に20年以上の月日を要したのです。このnoteやブログでは何度か彼女のことに言及した記事を書いてきましたが、その初稿が2007年8月17日。YouTubeというツールのお陰で今では簡単に彼女の過去の映像を振り返ることが出来ます。素晴らしい時代になったものです。
岡田有希子が芸能活動していた時期は2年とホントに短い期間だったんですね。その間オリジナルアルバムは4枚発表してますが、私がリアルタイムに購入していたのはデビューアルバム「シンデレラ」とセカンドアルバム「Fairy」のみ。「十月の人魚」と「ヴィーナス誕生」は聴けずじまいでした。彼女のオリジナルアルバムは、未だにヤフオクでも比較的高値で取引されており(つまりそれだけ内容に価値がある訳ですが)、なかなか購入する機会もなかったのですが、今から10年くらい前にようやく本作も購入することが出来ました。
ジャケットでもお分かりの通り、この当時、彼女は髪をショートにし、かつ先行シングル「哀しい予感」でマイナー調の曲にチャレンジするのです。この「哀しい予感」は本作にも収録されている竹内まりや作詞作曲の楽曲ですが、従来のまりや調の明るいポップスではありません。彼女もデビューして1年が経過し、大人への階段を上るべく、意識的にこうしたプロデュースとなったと思われますが、当時の私はこの転換を全く受け入れることが出来ませんでした(そして今もこの髪型は彼女に似合っていないと思ってます)。だからこそ本作も買うことはなかったのです。
ちなみに今この「哀しい予感」を聴き返して、イントロが前年にヒットしたフィリップ・ベイリーとフィル・コリンズがヒットさせた「Easy Lover」のアレンジにソックリであることに気付きました。当時はこんなことにも気付かなかった・・・。
そしてこれも本作を購入して気付いたのですが、このアルバムのトップには驚愕の曲が収録されてました。
①「Sweet Planet」・・・、作曲は小室哲哉!!
そう、小室さん、実はこの曲と⑩「水色プリンセス」の2曲がメジャー提供した初めての楽曲だったのです。小室さんが提供した渡辺美里の「My Revolution」のヒットでさえこの翌年の1986年。TMの「Get Wild」が1987年。つまり当時の小室さんは新進気鋭の音楽家だった訳で、その新人を大胆に、しかもアルバムトップとエンディングに起用したところに、当時の岡田有希子の制作スタッフのセンスを感じます。
今聴くと①「Sweet Planet」は歌いだしから小室節を感じさせますね。メロディの転調具合なんかも・・・。それを上手く歌いこなすユッコもGood!
②「みずうみ」、③「花鳥図」はチューリップの財津和夫作。ちなみに松田聖子の「チェリーブラッサム」から「白いパラソル」(1981年)は財津さんの作品。そしてユッコは松田聖子と同じサンミュージック所属で、翌年にはSEIKO作詞の「くちびるネットワーク」が初のオリコン1位を記録します。
本作には竹内まりやさんが提供した曲は2曲(作詞は3曲)収録されてますが、それが④「哀しい予感」と⑤「ロンサム・シーズン」。やはり竹内まりやさんもユッコの死には衝撃を受け、心の整理に10年を要したと仰ってました。そしてまりやさんは自身のアルバム「Quiet Life」で「ロンサム・シーズン」をカバーし、その歌詞カードには「This song is dedicated to the memory of Yukiko Okada」と記されてありました。
この「ロンサム・シーズン」こそ、彼女の名作であって、「哀しい予感」ではなく、こちらをシングルとしていたら、また違った形になっていたかもしれませんね。1年前まで初々しく歌っていたユッコが、実に大人の女性のように歌いこなしてます。
松任谷正隆氏作曲の⑥「流星の高原」はどちらかというと正統派アイドルソングとでもいいましょうか、ヒット性の高いメロディの作品です。
やたらとドラムがタイト。ひょっとしたら叩いているのは村上ポンタさんでしょうか(このアルバムには演奏者のクレジットがないので、誰が演奏しているのか、全く分かりませんが)。
同じく松任谷正隆氏作曲のアルバムタイトルトラックの⑨「十月の人魚」は私のお気に入りの1曲。
スローテンポな、そしてユッコのヴォーカルはどこか甘いムード漂う歌い方がいいですね。セカンドアルバムではかなり打ち込み系サウンドが聴かれましたが、ここではバックの演奏も生演奏のような、カッチリしたサウンドで、間奏のサックスもいい感じです。どこかアダルトムードな感じもいいですね。
このアルバムでのユッコは明らかにファースト・セカンドとは違う表情を見せてくれます。1歳年を取っただけで、こんなにも変わるものかと。そして松田聖子のアルバムがそうであるように、ここでも作曲陣は錚々たる顔ぶれで、アルバムとしてエバーグリーンな佇まいを見せてくれてますね。