『イニシエーションラブ』乾くるみ(文春文庫)
これほど売れてる本はないだろうから、もうネタばれしてもいいよね?うちにあるのは2007年4月第1刷の、2009年7月第27刷だった。初めて読んだ時は、こっわ、えっぐ、と思ったので、どのようにだましていたのか検証しがてら再読したところ、そうこわくもえぐくもなかった。まあ、知ってるからでしょうが。遠距離恋愛になって、不安や不満などが出てきた時期に新たな出会いがあり、並行して付き合っている期間があって、結局別れたという、おそらくよくありがちな恋愛模様だが、書き方によって、こう見せることができるか、という。わー、すごいねー。書いてる人は、書いているとき、ちゃんと客観的に読者がどう思うのか、わかっているのが、やっぱりすごい。こういうどんでん返しっぽいの、考えて書くことあるけど、書いている最中に全部知っちゃっているので、自分の書いたものを初読みの感じで味わえない。
今回読んでて思い出したのが、山本文緒さんの『ばにらさま』だった。女の子慣れしてない男の子と、手練れの(という言い方でいいのか)女の子の恋愛で、女の子の本音がSNSで露になる。山本さん最後の作品集である『ばにらさま』(文春文庫)は他の作品も素晴らしい傑作で、もうこの人の小説が読めないのだと悲しくて呆然としてしまった。