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『ショートケーキ。』坂木司(文春文庫)
オーディブル。ショートケーキにまつわる五篇。一話目、二人の女の子がホールケーキを買う店のアルバイト店員が二話目の主役で、三話目はその先輩バイト、四話目の子育て中のママは三話目のバイトの話を聞き、四話目、二十八歳の会社員が淡い恋心を抱くのが二話目のお姉さんという具合に、ゆるくつながっている。ミステリの作家さんだと思っていたが、そういうわけでもなかった。ままならない日常のちょっとしたご褒美に、ショートケーキが現れる。聞きながら、やわらかいスポンジ、甘い生クリーム、甘酸っぱいいちごが、食べたくなっている。
しかしオーディブル。読みたい本が、ハードカバーで出たばかりの新刊が、どんどん入ってくる(村山由佳さんの『PRIZE』買おうと思ってたけど、五月に入るようなのでそれを待つことにする)。これじゃあほんとにみんな、本を買わなくなっちゃうよ? と、思うが、オーディブルで聞いているときは、本を読んでいるという気はしないんだな。ただ、物語を摂取してるというか。あらすじを採取してるというか。こちらが働きかけなくても、流れ込んでくるから。それに対して、本を読むという行為は能動的で、読んでいる時間そのものが幸せだったりする。目が文字を追い、それを手掛かりに頭の中に像を結び、ぐっと心が動いたり、素敵な表現を何度も味わったりする。そして、読み終わった時の満足感。もうちょっと読んでいたかったという気持ちになることもある。食べ物を口に入れ、かみ砕き、味わい、飲み込むのと似ているかもしれない。