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『レジデンス』小野寺史宜(角川文庫)
『タクジョ』とか『ひと』とか、誠実に生きる市井の人を書く作家という印象の作家さんですが、この作品は不穏な空気に満ちている。デビュー前、野生時代新人賞の最終候補に残ったものの、受賞はしなかった作品の改稿らしい。暴力にセックス。人が溜め込んだ鬱憤がこれでもかというぐらい吐き出されて、どっと心が重くなる。場所は東京湾を埋め立ててつくられた人工の街。高くそびえるマンションが林立し、一方、画一的な戸建てのゾーンもある。居酒屋、パチンコなど、子供に悪影響を及ぼすものは排除され、スーパー、コンビニぐらいしかない。海岸もあるが、遊泳は禁止されている。そもそも、広がるのは、工場の排ガスやゴミに汚染された泥のような海。
そのマンションに暮らす優等生の中学生は、深夜、一人歩きの女を襲って現金を奪うことを日常的に行い、またべつの中学生は、仲間たちと夜な夜なチャリパクの犯人をつかまえては、正義の名の元にボッコボコにしている。かつて、夜道を歩いていた時、前を歩く女性が痴漢と勘違いして駆け足になったことに理不尽な怒りを覚え、追いかけたところ、車にはねられ大けがを負った、それで就職できずに深夜バイトをしているフリーターもいる。マンションの別の階に住む、継母と同年代の女の元に通い、セックスをしている三流大大学生もいる。母親は不動産会社の営業を家に連れ込み、女子高生はウリをやっている。
「興奮は、簡単には冷めない。
罠の成功ということもあるが、昨日の自室での体験もまた今になっておれの気分を高揚させてる。こんな状態が続いたら、小夜と顔を合わせたときに、充也のカノジョがおれにフェラチオしたよ、なんて口走ってしまいそうだ。」
チャリパク犯人を完膚なきまでに痛めつけた後の、中学生の、あまりに身勝手なモノローグ。ちなみに充也は兄で、小夜は母親のこと。
人間は、こういうものを抱えている。
それを知っているから、今の小野寺さんの小説には、あたたかさがあるのかなーと思った。