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『異常 アノマリー』エルヴェ・ル・テリエ(ハヤカワepi文庫)

面白かった。興奮した。素直にそう思う小説に出会ったのは久々だ。群像劇がもともと好きだというのもあるけれど、読みながらわくわくが止まらない。が、なんでだろう。始まりは、一人の殺し屋の仕事の様子が書かれている、普通の小説だ。なのに、すごく、話に入り込める。文体だろうか。解像度だろうか。

まず、第一章では何人かの人物の、三月と六月の様子が描かれる。殺し屋、作家、映像編集者、癌患者、7歳の少女、弁護士、歌手、建築家。彼らは彼らの生活を送っている。共通するのは、三月にパリからニューヨークへ飛ぶ同じ飛行機に乗り合わせたことだ。その飛行機は、ニューヨークへ着陸する少し前、大きな乱気流に巻き込まれ、尋常ではないほどに揺れたため、誰の記憶にも残っている。その三月から六月の間に、別れた恋人もあれば、手遅れの状態で癌が発見されたものもあれば、作品を残して自殺したものもある。歌手はヒット曲に恵まれ、三月の時点では考えられなかったほどのセレブな暮らしをしている。そんな彼らの元にFBIやら国家警察やらが、やってくる。一体何が起こったのか、読みながら期待が膨らんでいく。

一章ラストにそれが明かされるのだけども、期待以上だった。なんだそれ。どういうこと? 前のめりになって、二章に突入する。ネタバレはするよ、自分のためにというつもりでこれまでnoteを書いてきたが、こればかりは止めておきます。偶然見かけた人の、読書の楽しみを奪いたくない。異常事態が発生した後のそれぞれの始末も、いろんなバリエーションがあり、ドキドキした。いやあ、よくこんなこと、考えたな。面白かった。事態に対する科学的考察や宗教的解釈みたいなのが入ってきて、そこはちょっとむずいなと思ったけども、読み飛ばしてもまあ問題ない。そこそこ厚い文庫だけど、翻訳小説は苦手な人もいるかもだけど、ぐいぐい読めるから安心してください。なんか面白いことないかなーと思っている人は、読んだ方がいい。とにかく楽しめるから。

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