『冬の光』篠田節子(文春文庫)
父が遺体となって海から上がった。父には家族を裏切った過去があり、数年前に、家族の前で、その女と絶縁させられている。海に落ちたのは、四国八十八カ所の遍路帰りのフェリーであり、遍路は、東北の震災の被害者の慰霊のためだった。彼はその前に、被災地でボランティア活動をしていた。純粋な慈善活動かと思いきや、かつての愛人がそこで罹災し、亡くなっていることを知って、未婚アラサーの次女が、父が何を考えていたのか調べるため、残された手帳を元に、四国の遍路を回ってみることにする。
「お母さんよりも不美人でお母さんより老けてるのに、伸ばした髪をポニーテールなんかにしてて、外国映画見出てきそうなきつい感じの女だった」と、長女の評する愛人とは、何者なのか。父目線で語られる、父と愛人の40年に及ぶ近づいたり離れたりの軌跡。それは、娘たちが思っていたのとは違う。女は大学時代、ともに学生運動をした同士であり、彼女はその後も女の権利のため、闘い続けてきた。一方、父は思想を捨て、企業戦士となったものの、最終は閑職に追いやられてしまう。
自殺と思われた父の死の真相。彼が最後に見たものとは。
なんとも重厚な話だった。
が、どうであれ、家族の他に、40年以上も思っていた女がいるというのは、(自分の親だったら)ないなー、と思った。