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『いま、幸せかい?「寅さん」からの言葉』滝口悠生 選(文春新書)
2019年公開のシリーズ50作目、『お帰り 寅さん』を見てから、『男はつらいよ』にハマった口です。時はコロナ禍、それまでの49作を、配信でほぼ見てしまった。滝口さんの小説は何作か読んでいて好きなほうだったので、寅さんマニアと知って、「わあ!」と、思った。妾の子で中学中退、怒りっぽいし、すぐに拗ねるし、えらそぶる、場を仕切ろうとする、迷惑な伯父さん。だけど、「人生にはもっと楽しいことがあるんじゃないかなって思わせてくれる人なんですよ」と言われ、慕われる寅さんの魅力の一端が、この本で知れると思う。
古い話だから、女の幸せは結婚、男が働き、女がそれを支えるという価値観の世界なんだろうなーと勝手に思っていたけれど、意外とそうではなく、女の自立について先進的な姿勢を示していた。それにまつわる名セリフのシーンも、一章としてまとめている。滝口さんの選ぶシーンも、さすがだなあーと思う。
年を取ったからだろう、寅さんに似た根無し草で、フーテンの風子を自称する女の子に言った次の台詞に、ジーンとしてしまった。
「こんなつまんないことを経験して、何になるんだよ、ええ? ましてお前、女じゃねえか、そうだろう。風子ちゃんよ、悪いことは言わねえ、なっ。お前この町で一生懸命働いてな、真面目で正直な男をつかまえて世帯持て。そりゃ長い間には多少退屈なこともあるだろうよ。でもな、五年、十年たって、ああ、あん時寅さんの言ってたことはやっぱり本当だったんだーーきっと思いあたる時があるよ、なっ」