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『旅する練習』乗代雄介(講談社文庫)
誰か忘れてしまったが「宝物のような本」と絶賛していた書評を読んで、読もうかどうしようか、やっぱり読むべきかと考えていたのだけどようやく読んだ。中学受験に合格したばかりの亜美ちゃん(あびちゃん)の魅力がすごい。サッカーが好きで、サッカーをやるために受験をして、オムライスが大好きな楽観的な女の子。ちょうどコロナで学校が休校になってしまい、もろもろ予定が飛んでしまったころの話。小説家の叔父さんと亜美ちゃんは、合宿所から拝借してきてしまった本を返すために、鹿島まで徒歩で旅をすることにする。道中叔父さんは風景を描写し、その間、亜美ちゃんはリフティングをして待っている。その回数も、書き込まれている。
とちゅうで知り合った女の人の心を溶かしたのも、亜美ちゃんの魅力があってこそ。互いに新しい一歩を応援し合うことを約束して別れる。全力で生の方向を向いている亜美ちゃん。だから最後のページを読んだ時はもう、ほんと、「ずるいよ・・・」しかなかった。解説にはこの旅について、「ただ時間が流れただけの無意味な数日でしかない。とんでもない。生きるとはそういうことだーー」と、ある。読後はきっと誰でも、胸に亜美ちゃんが棲みついている。