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『楽園の楽園』伊坂幸太郎(中央公論新社)
人工知能『天軸』が暴走を始め、大規模停電、ウイルスの蔓延、巨大地震など、世界が混乱に陥った。天軸の開発者である科学者が、対応に出向き、事態は収束したが、その科学者の行方がわからなくなってしまう。彼女を見つけるべく集められたのが、五十九彦、三瑚嬢、蝶八隗の三人。三人は、「人間はどんなことにも理由を探したくなる生き物だ」などという雑談をしながら、天軸のあるという楽園を目指す。
辿り着いた楽園で、天軸の暴走が止まっていた真の理由が明らかになる。これまでの三人の雑談がしっかり回収されて、こんな短い話で! こんな深いことが! と、ちょっと鳥肌が立つ。人間社会に警鐘を鳴らす寓話のような話。終わっていく世界の中、井伏鱒二『山椒魚』の蛙の台詞「今でもべつにおまえのことをおこってはいないんだ」が、希望の余韻を残す。
悪くはない。さすが伊坂さんです。悪くはないけど、『ラッシュライフ』とか『砂漠』のような作品をまた読みたいなーと思ってしまう。年をとった書き手として、そういうのは、子供っぽく思えちゃうのかなあ。