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なぜ、三大栄養素なのか

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栄養素とエネルギー分子

人のエネルギー源である糖質、脂質、たんぱく質(3大栄養素)はいずれも有機化合物です。それらは、炭素、酸素、水素から出来上がっています。3大栄養素が細胞内で代謝されることによって、はじめて人が利用できるエネルギー分子が作られます。

糖質、脂質、たんぱく質は人が最もたくさん必要とする栄養素なので3大栄養素とよばれる事は、先に述べた通りです。この3大栄養素以外にも、ビタミンやミネラルなど人体に必要な栄養素はたくさんあります。

この人のエネルギー源である糖質、脂質、たんぱく質はいずれも有機化合物です。それらは、主に炭素、酸素、水素(場合によっては窒素や硫黄などの元素も含まれます)が、互いに共有結合でつながって、出来上がっています。糖質、脂質、たんぱく質が細胞内で代謝されることによって、はじめて人が利用できるエネルギー分子が作られます。

糖質の役割は何か?

もっとも基本的で代表的な糖質はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)です。フルクトースは名前の通り果実などに含まれていて、天然の糖質の中では一番甘い糖です。そして、面白い事に冷やしておくと、より一層甘く感じられます。グルコースは、ブドウ糖注射製剤として日本薬局方に収載され、医療現場では昔からおなじみのもので、点滴でよくつかわれます。注射剤から想像できると思いますが、体力が低下している人、つまりエネルギー不足の人に対してその血液中にグルコースを流し込むと元気が出ます。このことから、グルコースはエネルギー分子生成と何か関連があるように考えられないでしょうか?

グルコースやフルクトースなどの糖質は、光合成と呼ばれる絶妙な方法で二酸化炭素(炭酸ガス)を原料にして植物が合成しています。光合成には、水と光エネルギーが不可欠です。光エネルギーによって、水から電子と陽子そして酸素分子が遊離します。そして、植物の葉緑体は電子と陽子からいずれもエネルギーに富んだATP(アデノシン3リン酸)とNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を合成します。さらに、その分子内に取り込まれたエネルギーを基に二酸化炭素を還元してすくロース(ショ糖)を作り、それを分解することでグルコースとフルクトースを産生しています。

ところで、このATPは、人においても、生きるために合成し続けなければならないエネルギー分子そのものなのですが、人体では残念ながら植物が作ったATPを利用することはできません。

光合成の流れを考えると、ATPとNADPHに取り込まれた太陽などの光エネルギーは、まず二酸化炭素(CО2)を固定して生じる炭素三個で構成される化合物に保存されます。次に、スクロースを経て誘導される炭素六個からなるグルコースやフルクトース(どちらもC6H12O6)分子内の共有結合エネルギー(化学エネルギー)として保存されることになります。

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つまり、植物が合成したグルコースなどの糖質は、エネルギー保存運搬体ということになります(脂質やたんぱく質も同様です)。

この宇宙に存在するエネルギーは新たに生み出すことも消費することもできません。単に光から熱に、あるいは運動などへとエネルギーの形が変化しているだけにすぎません(熱力学第1法則:エネルギーは作り出すことも消し去ることもできない)。

人は光合成をすることができませんので、ペットボトルを片手に日光浴をしているだけではおなかがすいてくるばかりです。したがって、食事という行為で、エネルギー源つまりエネルギー保存運搬体が補給されない限り、ひもじく感じるのは当然のことです。

グルコースなどに保存された化学エネルギーを、人は生きるために摂取する必要があることはこれで理解できたと思います。では、人は砂糖水を飲んだり果物を食べたりしているだけでよいのでしょうか。生体内に十分量のエネルギー源を取り込み、生きるために必要なATP分子を絶やすことなく合成し続けなければならないはずなのですが。

食べる糖質とは何か?

植物はグルコースを重合させ、体内にでんぷんとして貯蔵しています。これは植物自身が生きるためのエネルギー源ですから、植物は独立栄養を営んでいます。しかし、それを横取りする立場の人にとっては、植物に依存した従属栄養で生きることになります。おそらく人は、必要に迫られて、進化の過程でデンプンをおいしく感じるようになったのでしょう。勿論、フルクトースを豊富に含む果物なども食べますが、それだけではなかなか十分なエネルギー源にはなりません。生きるために必要なエネルギーを獲得するためには、グルコースがたくさん詰まったデンプン食が効率的なのは明らかです。

デンプンは、グルコースがたくさん結合した化合物で重合体といいます。動物の筋肉や肝臓に存在するグリコーゲンも、グルコースの重合体です。動物は食べた植物デンプンの余剰分をグリコーゲンとして蓄えていますから、動物の肉を食べることは間接的に植物デンプンを摂取したことになります。前の記事でも説明しましたが、グルコースの重合体(多糖類)は消化管で消化分解されてグルコースとして血液中に吸収されます。つまり、化学エネルギーを保持したグルコースが血液中に取り込まれることになります。

多糖類にはデンプン以外に、ペクチンや寒天、セルロース、キチン、こんにゃくマンナンなどがあります。しかし、これらは人の消化酵素で分解することができません。食べることができますから満腹感を感じる利点はありますが、単糖と呼ばれるグルコースやフルクトース、ガラクトースにまで分解されないと血液中に吸収することができません。

単糖とは、糖質の基本単位です。そして、人はこれらの単糖(構造的に一番簡単な糖)と人体に約60兆個もあるすべての細胞内で分解します。つまり、これが、糖質の代謝であり、その糖質の代表格がグルコースなのです。そして、その目的はグルコース内に保持されているエネルギーを高エネルギー化合物であるATPに転換することにあります。フルクトースやガラクトースなども、代謝の過程でグルコースと同様の代謝中間体を経て分解されていきます。

人がおいしく感じるのはグルコースが詰まっているデンプンや甘い砂糖や果糖、そして乳糖などです。砂糖はグルコースとフルクトースガ結合した2糖類ですし、乳糖はガラクトースとグルコースが結合した2糖類でどちらも消化管で分解されます。なぜ分解されるのかというと、前の記事で述べたとおり単等に分離する酵素、スクラーゼとラクターゼを、人は小腸の微細毛表面に備えているからなのです。またグルコースの2糖類である麦芽類も、マルターゼによってグルコースに分解されます。

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ところで、グルコースの注射剤が多用されていることから、食べる場合もグルコース溶液でよいように思われますが、1日に必要なだけの糖質の摂取量を飲むと、間違いなく下痢を起こします。十分糖質をとるためには、人の消化管へ多糖類のデンプンやグリコーゲンとして送り届ける必要があります。人は、進化の過程で低分子の単糖と高分子の多糖類をうまく使い分けるようになったということでしょう。ちなみに、人が2糖類の砂糖を食べるようになったのはごく最近のことです。

どのようにしてエネルギーを取り出すのか?

人が食べる多糖類や2糖類などと、消化管内で分解されて生じる産物の種類と量を考えると、血液中に取り込まれる単等の大半はグルコースということになります。グルコースは血液中の主たる糖質(血糖)であり、健常成人のその空腹時濃度は70~110g/dlとされています。血糖の主成分はフルクトースでもよかったのでしょうが、なぜグルコースとなったのかその理由はいまだに謎です。しかし、いずれにせよエネルギー輸送分子が血中に取り込まれたのですから、グルコースを上手に分解すればエネルギー分子ATPを作り出すことができるのでしょう。

体内のすべての細胞は、積極的にグルコースを細胞内に取り込みます。グルコースは水溶性ですから、そのままでは細胞のバリアーである膜脂質二重層を通過できません。しかし、グルコース輸送担体という今井仕組みが備わっていますので、グルコースは血液から細胞内へ素早く入っていけます。この絶妙な仕組みに、インスリンとインスリン受容体が関与する細胞もありますし、運動負荷がグルコースの取り込みに大きく影響する場合もあることが知られています。その仕組みのおかげで、血糖値は基準範囲に保持され、また一過性に認められる食後血糖も、2時間もすれば元のレベルに戻るように調節されています。この血糖に維持については後で説明します。

細胞内に取り込まれたエネルギー保持分子のグルコースは、二酸化炭素が還元されて作られた有機化合物です。細胞がこのグルコースからエネルギーを取り出すためには、還元の逆反応つまりグルコースを酸化分解して二酸化炭素に戻してやればいいことになります。

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細胞内でグルコース(C₆化合物)は解糖系と呼ぶ代謝を受けます。解糖は文字の通り糖を分解する反応で、さまざまな酵素が触媒することにより進行します。しかし、残念ながら解糖系はピルビン酸(C₃化合物)が生じた所が終点で、二酸化炭素にまで分解することができません。とはいえグルコースが部分的に分解されるわけですから、エネルギー分子のATPがわずかですが合成されます。グルコース1分子あたり正味2ATPがその収量です(基質レベルのリン酸化)。解糖系の特徴は、酸素がなくても反応が進行する嫌気的な代謝系にあります。おそらく地球上に酸素が出現する前に出来上がった代謝系だと考えられます。微生物から人まで、この解糖系を利用していることは、生命を考える上で興味深いことです。ところで、たった2ATPの収率で生きていくことは不可能です。解糖系の最終産物、C₃化合物のピルビン酸にはまだまだ太陽エネルギーが保存されたままになっています。そして解糖系以外にも、細胞内にはもう一つうまい仕掛けがあります。ここで、ミトコンドリアが登場してきます。

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ミトコンドリアは、その昔、バクテリアが細胞内へ侵入してきて共生した産物だと考えられています、いろいろな本を見ると細胞の中に一つ二つのミトコンドリアが描かれていますが、本当は細胞1個当たり数百から数千個のミトコンドリアが数珠つなぎとなって存在しています。中でも、エネルギーを特にたくさん必要とする組織細胞では、膨大な数になります。

ミトコンドリアは外膜と内膜の二重構造になっていること、内膜は内側(マトリックス側)に陥没している(この部分はクリステと呼ばれています)こと、内膜の物質透過性は限定的であること、内膜には三つ目の仕組みである電子伝達系が装備されていることが特徴です。

話がややこしくなってきましたが、C₃化合物のピルビン酸はこのミトコンドリアのマトリックス内に取り込まれるのです。そして、マトリックス内で二酸化炭素にまで完全分解されます。この代謝系をクエン酸サイクルといいます。さて、肝心のエネルギーはどこへ行ってしまったのでしょうか?

クエン酸サイクルでは、グルコース一分子あたり2ATPが気質レベルのリン酸化で生じ、ここまで運搬してきたエネルギーはNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド:NADPHではありません)とFADH₂(フラビンアデニンジヌクレオチド)に渡されます。

電子伝達系は名前の通り電子の受け渡しを行うたんぱく質で、複合体Ⅰ・複合体Ⅲ・複合体Ⅵのつながりと、複合体Ⅱ・複合体Ⅲ・複合体Ⅵの連結があります。

そして、ATP酵素(複合体Ⅴ)も内膜に用意されています。

クエン酸サイクルで生じたNADHとFADH₂は還元当量とも呼ばれ、それぞれその電子が複合体Ⅰあるいは複合体Ⅱから流れ込み、同時に複合体Ⅰ・Ⅲ・Ⅵはマトリックス側のプロトンを外膜と内膜の間隙(膜間腔)へとポンプ仕掛けでくみ出します。その結果、電気的エネルギーの勾配ができるのですが、これはグルコースが運んできたエネルギー量に依存します。そして、膜間腔にたまったプロトンはATP合成酵素である複合体Ⅴを介して勢いよくマトリックスに戻ります。この時そのエネルギー量に見合ったATPが合成され、それは解糖系と比べると15倍ほどの高効率になっています。なお、電子伝達系を流れる電子は最終的に何かで受け止めなければなりませんが、それが酸素分子で、その結果として水ができます。この水は代謝水と呼ばれ、一日当たりおよそ300mlにもなります。

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このように、クエン酸サイクルに続く電子伝達系が共役した代謝系は、酸素を利用することから好気的代謝といいます。

長い経路でしたが、植物が太陽エネルギーを取り込んで合成した糖質を、人は摂取し消化分解します。その後、血中に吸収したグルコースを各細胞内で酸化分解していく過程で、エネルギー分子ATPを作り出すことができました。

ところで、赤血球はミトコンドリアを持っていませんし、酸素不足に陥った筋肉細胞はどうなっているのか、など興味は尽きませんが、大半の細胞においてはグルコースをこのようにして完全分解し、生きるためのエネルギー分子ATPを日夜休むことなく生産し続けているのです。

脂肪酸の役割は何か?

グルコースやフルクトースなどは光エネルギーの力で二酸化炭素が還元されてできた有機化合物でしたが、脂質にはエネルギー源としてATP産生に利用できる脂肪酸があります。さらに脂肪酸には、リノール酸やa‐リノレン酸のように植物だけが合成できるものと、動物や人でも合成できる脂肪酸分子があります。

コレステロールやリン脂質なども、脂肪酸と同じく脂質に分類されます。しかし、コレステロールは生体内で分解することができませんし、リン脂質は膜の主要構成成分として利用されています。ここでは、エネルギー源としての脂肪酸について述べていきます。

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脂肪酸に分類される有機化合物の数は多いのですが、まず皆さんがよく目にする飽和脂肪酸があります。飽和脂肪酸の代表格は炭素数16のパルチミン酸で、その構造式はCH₃-CH₂-(CH₂)12-CH₂-COOHとあらわされます。炭素16個が単結合で、鎖状につながった長鎖脂肪酸です。同じく飽和脂肪酸のステアリン酸は炭素数18で、CH₃-CH₂-(CH₂)14-CH₂-COOHという構造式を見ると、パルチミン酸と比べてさらに炭素二個分だけ鎖長が伸びている長鎖脂肪酸です。この炭素二個単位分の延伸は脂肪酸の生合成を考える上で大切です。この長鎖脂肪酸は、水にとけない分子であることと、細胞毒性を示すため生体内では扱いにくい有機化合物でもあります。パルチミン酸やステアリン酸のように、単結合のみでできている脂肪酸のことを飽和脂肪酸ともいいます。

ところで、この炭素2個単位はアセチルCoAという物質です。解糖系の最終産物がピルビン酸だということは説明しましたが、このアセチルCoAは、ピルビン酸からミトコンドリア内でピルビン酸脱水酵素複合体によって誘導されます。それが、続いて脂肪酸合成へと利用されるのです。このことは、生体にとって第一のエネルギー源であるグルコースの余剰分が、脂肪酸に変換されて貯蔵される仕組みを示しています。グリコーゲンも貯蔵エネルギーですが、その貯蔵可能量を比べると脂肪酸のそれは大きく、1カ月から2カ月分にもなります。ところで、脂肪酸が水不溶性であることとその細胞同性のため、人体では無害で安定な中性脂肪(脂肪)として蓄えることになります。摂取した糖質の余剰分は体内で脂肪に自動変換されて非常用エネルギー源として保存されます。つまり、甘いものや炭水化物を必要以上にたくさん食べると、体内に脂肪が増えて太ることになります。

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なお、この脂肪合成には、ATPとNADPHが必須です。

そのようなわけで、体内ではパルチミン酸からステアリン酸へと変化し、さらにステアリン酸は分子内の水素が2個引き抜かれたオレイン酸に転換されます。オレイン酸は、CH₃-CH₂-(CH2)₆-CH=CH-(CH₂)₆-CH₂-COOH分子内に二重結合が一つ存在しますので、一価不飽和脂肪酸と呼ぶグループに属します。ここまでの反応は動物や人でも進行しますので、特に獣肉中にはオレイン酸やパルミチン酸含量は高いのです。もちろん植物性食品中にもこれらは存在しますが、二重結合を二つ以上含む多価不飽和脂肪酸は植物に特にたくさん含まれています。

不飽和脂肪酸のことは別の記事で説明します。話をエネルギー源としての脂肪酸に戻します。

飢餓に備えて貯蔵されるようになった中性脂肪は、血糖値が低下した時やある程度以上の運動負荷がかかった場合など、血糖のみではエネルギーをまかないきれなくなると分解されます。つまり、ダイエットで食事中の糖質を少なくしたり、食事でとるカロリー以上に運動をたくさんしたときに、体内の脂肪が消費されるということです。


さて、中性の脂肪とはどういう意味でしょうか?グリセロール一分子に三分子の脂肪酸がエステル結合すると、電荷をもつ部分がその結合に使われて見かけ上消滅してしまうため中性脂肪と呼びます。結合している脂肪酸が三つ(トリ)ですから、トリアシルグリセロールともトリグリセリド(かしらもじをとってTG)ともいいます。臨床では、よくトリグリと略すことが多いのですが、それは科学用語ではありません。

ところで、脂肪組織に蓄えられている中性脂肪の分解には、ホルモン感受性リパーゼが関与します。血中の糖質が不足すると、エネルギー供給のため脂肪酸を血流中へ搬出する必要があるとの情報を、アドレナリンやグルカゴンなどのホルモンが脂肪組織へ伝達します。その時活性化されるのが、このホルモン感受性リパーゼなのです。ホルモン感受性リパーゼの酵素作用により、中性脂肪(トリアシルグリセロール)は完全分化され、三分子の長鎖脂肪酸とグリセロールを生じます。長鎖脂肪酸は細胞毒性を示すため、血漿アルブミンと結合して血中を運搬されて、脳と赤血球以外の組織でエネルギー源として利用されます。もうひとつのグリセロールは水溶性のため、そのまま血中に溶け込み肝臓の糖新生系で処理されてグルコースに変換されます。

脳・赤血球以外の組織細胞に取り込まれた長鎖脂肪酸は、細胞内のミトコンドリアでβ酸化を受けます。

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ミトコンドリアで処理できない極長鎖脂肪酸などはペルオキソシームでβ酸化を受けますが、ほとんどのβ酸化はミトコンドリア内で進行すると理解して十分でしょう。ミトコンドリアを持たない人赤血球と血液脳関門は、脂肪酸が通過できません。したがって、脳においては脂肪酸をエネルギー源に利用できないため、グルコースがどうしても必要になります。このことは、膨大な量の脂肪酸が脂肪組織に貯蔵されているのですが、それはあくまで第二のエネルギー源であり、生きるために最も重要なそれは血中のグルコースということになります。みなさんの頭や体が疲れた時、甘いものがほしくなるのはうなずけますね。

話が長くなってしまいましたが、パルミチン酸CH₃‐CH₂‐(CH₂)12‐COOHを例にしてβ酸化を考えてみましょう。その前に、すべての脂肪酸は、アセチルCoAに活性化されていなければ、生体内で利用できません。脂肪酸はR‐COOHと略します。パルミチン酸ならCH₃‐CH₂‐(CH₂)12‐CH₂がRに相当します。RCO-はアシル基と呼ばれるので、パルミチン酸ならばCH₃‐CH₂‐(CH₂)12‐CH₂‐CO~SCoAパルミトイコルコーエイです。

β酸化は、カルボキシル基(‐COOH)側(つまり~SCoA)から炭素二単位ずつを切断します。β酸化が一回終了するとパルミチン酸の場合、CH₃‐CH₂‐(CH₂)12‐CH₂~SCoA(これがアセチルCoA)が離れ、残りはCH₃‐CH₂‐(CH₂)10‐CH₂‐CH~SCoAと炭素数二個が減った化合物になります。β酸化はこの炭素鎖を炭素二個分ずつ短くしますので、炭素数16のパルミチン酸から8分子CH₃‐CO~SCoAができます。この場合だとβ酸化が、16(炭素数)÷2=8、8-1=7(β酸化が廻る回数)となりますが、なぜ1を差し引くのか、考えてみるとβ酸化の理解に役立つでしょう。

パルミチン酸をβ酸化してできる8分子のアセチルCoAはミトコンドリア内で生じ、それはマトリックス内のクエン酸サイクルで処理されます。

脂肪酸の分解はミトコンドリア内で進行し、脂肪酸の生合成は細胞質で行われます。このことはとても重要で、相反する分解と合成反応が同時に起きないようになっています。

ところで、β酸化一回転でNADHとFADH₂が一分子ずつ生成します。っそしてβ酸化で生じたアセチルCoAが、クエン酸サイクルで処理されて生じるNADHとFADH₂が合わさって内膜の電子伝達系に入ります。β酸化の回転数が大きくなればなるほど、つまり脂肪酸の炭素鎖が長いほど大量のATPが合成されることになりますから、脂肪酸はグルコースと比べて30倍以上の効率的なエネルギー源と考えられます。

しかし、糖質摂取が少ない場合には(このことについては後で触れますが)、肝臓において血糖を維持するための糖新生が亢進します。また、この時β酸化も活発に回転するとなると、NAD⁺が枯渇してきます。そのためクエン酸サイクルは停止せざるを得なくなり、結果としてアセチルCoAが余ってしまい、アセチルCoAはケトン体に変換されることになります。

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ケトン体は抹消組織のエネルギー源として利用できますが、グルコースの供給不足あるいはその利用に障害が発生した場合には生体エネルギーの安定供給に問題が生じることになります。細胞のグルコース利用度が低下した高血糖はその典型的な病態なのです。

タンパク質の役割とは何か?

ここでは、第三の熱要素でもあるたんぱく質について考えてみましょう。タンパク質の本来の役割はのちほど触れることにして、エネルギー源として利用されることの意義に焦点を当てます。


これまで説明してきたように、人が使えるエネルギーの形態はATP分子でした。生きている限り、毎日人は自分の体重を超えるほどのATPを合成しなければなりません。なぜなら、ATPを保存しておく手立てを人は持っていません。また、細胞間でATPを融通しあうことがほとんどできないため、各細胞は独自にその必要量を合成しなければなりません。そこで、ATPを瞬時にADPから変換して利用しています。どこか、電力の需給バランスに似たところがありますね。「エネルギーは作り出すことも消去することもできない」という熱力学第一法則に生体のエネルギー代謝も規定されているのです。

ところでこれまでの説明で、このATP合成反応を促進する動力は、グルコースや脂肪酸分子を構成する原子間の結合に内蔵されているエネルギーでした。

それでは有機化合物ならばどのようなものでもエネルギー源、つまりATP合成原料となるのでしょうか?どれを知るためには、ATPを合成する仕組みをもう一度振り返ってみる必要があります。

(1) 解糖系

以下、解糖系の特徴を列記します。

①酸素不用の嫌気的な代謝経路である。

②細胞質に局在し酵素反応で進行する。

③ATPは基質レベルのリン酸化で合成される。

④ATPの合成量は少ない。

⑤単純な代謝系であるため代謝速度を上げることによりある程度のATPを獲得できる。

⑥脳・赤血球は解糖系に依存してATPを合成している。

(2) 解糖系に流入可能なエネルギー産生原料

①主たるエネルギー原料であるグルコース

②フルクトースやガラクトースなどの単糖

③解糖系の代謝中間体に変換可能なグリセロールなど

解糖系で処理される原料は、単糖に限定されています。また摂取する植物の内容を考えると、解糖系はグルコースに特化したATP産生装置と考えられます。問題点は解糖のATP産生量が、生体の需要総量に追いつかないところにあります。生き続ける生体がエネルギー使用量を削減するわけにはいきません。

(3)ピルビン酸酸化とアセチルCoA

①アセチルCoAは細胞質からミトコンドリアに送られたピルビン酸の酸化(脱炭酸)生体物である。

②ミトコンドリア内でアセチルCoAはオキサロ酢酸と結合してクエン酸となりクエン酸サイクルが開始される。

③NADHが生じるので電子伝達系を介した酸化的リン酸化によりATPが生産される。

アセチルCoAは栄養素の代謝中間体として、最も重要な化合物です。

(4)アセチルCoAに転換されるエネルギー産生原料

①解糖系経由であるがグルコースを主とする単糖

②β酸化によりアセチルCoAを大量生産する脂肪酸

③ケトン体(肝臓を除く)

④アセチルCoAに転換可能な分子

アセチルCoAからピルビン酸への逆反応は存在しないため、アセチルCoAはクエン酸サイクルに向かうか、あるいは重合してケトン体に変換されることになります。

(5)クエン酸サイクル

①好気的な代謝経路である。

②電子伝達系が共役し酸化的リン酸化によりATPが高収率で合成される。

③クエン酸サイクルを触媒進行させる酵素はミトコンドリアに局在している。

④基質レベルのリン酸化反応も存在する。

⑤アセチルCoAは完全分解されて二酸化炭素となる

⑥そのためには、酸化型NAD⁺とFAD及びオキサロ酢酸の供給が不可欠である。

クエン酸サイクルは、電子伝達系とともに細胞呼吸の要です。

(6)クエン酸サイクルに流入するエネルギー産生原料

①アセチルCoAを経由できるグルコースを主とする単糖

②β酸化を受ける脂肪酸

③クエン酸サイクルのメンバーに転換可能な化合物

このように整理してみると、熱要素としてのたんぱく質はどの部分にかかわってくるでしょうか?

プロリンを除く19種のアミノ酸はすべてa‐アミノ酸です。

このa‐アミノ酸はアミノ酸基転移反応を受けるとa-ケト酸に変わります。

アミノ酸基転移反応は、トランスアミナーゼ(アミノトランスフェラーゼ)が触媒します。

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つまり、アミノ酸のアミノ基をa‐ケト酸に転移させると各々はa-ケト酸とアミノ酸に変換されますから、アミノ基がトランスファ(移し替える)することになります。具体例として、アラニンとピルビン酸、アスパラ銀酸とオキサロ酢酸、グルタミン酸とa-ケトグルタル酸の相互変換などがあり、このことは、糖質から必須アミノ酸が誘導できること、ならびにロイシンとリジンを除いたアミノ酸(糖原性アミノ酸)からグルコースが生成できること(糖新生)を示しています。

なお、トランスアミナーゼ活性が高いのは、アスパラギン酸トランスアミナーゼとアラニンアミナーゼです。

このような変換反応が存在しますから、多くのアミノ酸はエネルギー源として利用できることになります。しかし、体たんぱく質の存在意義やその動的平衡を考慮すると、食事たんぱく質の多くを主他あるエネルギー源とすることは好ましくありません。

血糖の維持とエネルギー補給

人が生きていくためには、ATPを作り続けなければいけません。そのためには、ATPの材料として食事からエネルギーをとらなければいけません。安定してATPを作り出せるように、人の体は血糖値(血中のグルコース濃度)を一定に保つ必要があります。


人は三大栄養素の中で糖質を主エネルギー源とし、有史以前から摂取エネルギーの大半をデンプンに依存してきました。しかし、現代人の摂取エネルギーは脂質依存度が高く、糖質摂取量は減少傾向にあり、このことがいわゆる生活習慣病に関連するとも考えられています。人体が使用するエネルギー分子、ATPの産生方法や脳・赤血球の特徴を考慮すると、血中グルコース濃度の維持・調節は生きるカギの一つであるに違いありません。

グルコースは毒物か?

グルコースは水溶性ですから血液中にとけています。その様子を少し詳しく見てみると、グルコース分子の大半は環状構造式で表わされるa型とβ型がおよそ1:2の割合で平衡化し、もう一つの開環型が微量混ざっています。

開環型は環状型と異なり、反応性の高いアルデビド基が露出していてさまざまな生体分子と反応しますから糖化ヘモグロビンのように本来生体内に存在しない化合物ができてしまいます。そして、環状型は安定なのですが、条件によっては容易に開環型に変わりますので血中のグルコース濃度が高い状態が続くと糖化反応の頻度が増えてしまいます。

ところで、自然界に単糖として普遍的に存在するアルドースは、D-グルコースのみです。アルドースとはアルデビド基を持つ糖のことで、D-とは立体異性体のD形、L形を区別する記号なのですが、ここでは糖の化学には触れないことにしてグルコースで通します。グルコースは重要なエネルギー源であることはもちろんですが、それは高反応性で生体毒を有する有機化合物であることも頭の隅に残しておく必要があります。

脳と赤血球はグルコースをドカ食い

脳の主たるエネルギー源がグルコースであることは前述しましたが、脳はそのために1時間当たり約4グラムものグルコースを消費しています。また、エネルギー産生を解糖系のみに依存している赤血球でもおよそ2g/時間の速度でグルコースを消費しています。


つまり、少なくとも計6g/時間の消費速度に見合うグルコースを血中に用意しておくことが生き続けるためには必須だという計算になります。

ところで、薬物にはその投与濃度の低いほうから順に、非有効域、治療域(有効域)、中毒域が存在します。このことは摂取する栄養素についても消化・吸収率を考慮しなければなりませんが、同じことが言えるでしょう。

毎日数度に分けて門脈経由で流れ込む食事由来のグルコースは全身を廻り、脳・赤血球を含むあらゆる組織細胞に取り込まれていきますから、その血中濃度は有効域に、つまり必要十分な濃度範囲に維持されなければならないことは明らかです。

血液にとけているグルコースの量は?

もう食べるものがない。そのような空腹の状況を想定します。

成人の空腹時血糖は、おおむね100㎎/dl未満(正常域)とされています。体重60kg、循環血液量66ml/kg、血糖値100㎎/dlとして、グルコース量を計算してみると、総循環血液中に含まれるグルコースはたったの4g程度となります。

血糖値1g/L×血液総量約4L=4g(グルコース総量)

脳と赤血球だけでも6g/時間の速度でグルコースを消費しているのですから、全身の血液にたった4gしかグルコースが存在しないのであれば、たちまち人は倒れてしまうことになります。

しかし、血糖値はその瞬間値にすぎないことや健常者の血糖値がおよそ70~110㎎/dlの範囲に保たれていることを考えると、何か精緻な仕掛けがあるに違いありません。

血糖とエネルギー源の安定供給

今、空腹状態を想定しています。

先程の精緻な仕掛けの第一は糖新生系といい、主に肝臓で機能しているグルコース生成装置なのです。グルコースを作るための原料として、嫌気的代謝産物の乳酸や糖原生アミノ酸などが使用できます。

もう一つ忘れてはならないのが、肝臓に貯蓄していた肝グリコーゲンです。これを分解(加リン酸分解)して得られるグルコ-スを血中に放出すれば、この難局を乗り越えられそうです。しかし、肝グリコーゲン貯蔵量は多く見積もっても100gに届きませんから、たとえ、静かにしていたとしても10時間ほどでそのストックはなくなってしまいます。

ところで、筋肉にもグリコーゲンが蓄えられていて、その量は300g以上です。鍛錬している人ならば800g近くの埋蔵量になるのですが、残念ながらグルコースには変換できません。その理由は、加リン酸分解によってグリコーゲンから切り出されるグルコース単位はリン酸化されているからです。このリン酸を外せばグルコースになるのですが、その触媒酵素であるグルコース‐6‐リン酸ホスタファーゼは、肝臓(糖新生系が機能するので)にしか存在しません。

この肝グリコーゲン分解は、血糖低下時に分泌されるグルカゴンやアドレナリン、そしてグルココルチコイドによって開始されます。もっとも、逃走(あるいは闘争)ホルモンであるアドレナリンは、筋グリコーゲンをも分解できますから、もしもの際には血糖値が上昇します(逃げるか戦うかはあなた次第ですけれど)。極端なダイエットをすると、筋肉が落ちてしまいますよね。

さらに、空腹時には食べ物からのエネルギー源の補給がありませんから、生体はエネルギー源供給不足をなっているはずです。血糖を維持しなければなりませんからグルコースをあまり浪費したくありませんし、脳と赤血球にグルコース使用を優先させる必要もあります。そこで、別の貯蔵エネルギーを使います。それは、中性脂肪として大量に蓄えてある脂肪酸です。先程のグルカゴンやアドレナリンは脂肪組織にも血糖低下情報を伝えていますからホルモン感受性リパーゼを利用して脂肪酸を切り出します。脂肪酸は細胞毒性を持っています。そこで、アルブミンが格納容器となって、エネルギー源を必要としている組織まで脂肪酸を安全に運搬するのです。後は以前にお話しした通りで、脂肪酸はβ酸化でアセチルCoAとなりますからエネルギーの安定供給が可能となります。

このようにして、人は空腹状態でも生き抜くように進化してきたのです。

食事のあとは

では、「卵かけごはん」をいただくことにしましょう。食べる量の問題もありますが、三大栄養素はそれなりに含まれていますのでエネルギー源の行方に絞って考えます。

食後30分ほどで血糖値は一気に上昇しますが、およそ2時間以内にもとのレベルに戻ります。ここでも絶妙な仕掛けが働きます。

まず膵臓が、わずかに上昇したグルコースを細胞内に取り込んで血糖値上昇を認識すると、常に用意しているインスリンを血中に放出すること。さらに、肝臓や脂肪、筋肉組織細胞などが、インスリンの情報をキャッチできることです。単純なようですが、これは真に精緻な仕組みで、水溶性分子のグルコースが細胞膜で隔てられているにもかかわらず膵細胞内に取り込まれる仕組み(グルコーストランポーターが関与)、これまた水溶性のインスリンが標的細胞に結合(膜受容体を介する)し、細胞内でグリコーゲン合成や脂肪酸合成反応が活発になることが絶妙なのです。その結果、グルコースを血中に取り込んだのにもかかわらず高血糖は一時的に解消され、余剰のグルコースはグリコーゲンや脂肪酸に転換されて貯蔵されます。そのため次の空腹に再び耐えられる準備ができるのです。つまり、健康に生きていくためには、体脂肪率をあまりに下げすぎると危険です。

栄養素から体を作る

人の体の成分は毎日壊され、作られています。この分解と合成のバランスは、成長期なら合成に傾いているのですが、成人では平衡状態が保たれていて、この動的平衡には日々摂取する栄養素が大きく影響しています。

人の体は60兆個の細胞集団とみなすことができますが、その構成成分は何か、それはどのように分解され、何を原料としてどのように再合成されるのかなどを、これから探ってみることにします。

体を構築している体成分の種類

体重50kgのスリムな女性がいるとします。この女性の身体の構成成分は、およそ体たんぱく質10kg(20%)、脂質7.5kg(15%)、無機質2kg(4%)、糖質1kg以下(2%以下)と見積もられ、残りの約30kg(60%)は体水分に相当します。ただし、脂質としての中性脂肪の貯蔵量は容易に増加可能ですので、これはあくまでも一例です。身長にもよりますしね。

この女性の摂取エネルギー比で60%程度の糖質を毎日摂取しているはずなのですが(2000kcal/日のエネルギーを摂取するとして糖質摂取量は約300g/日)、体成分として保持されている糖質は、血糖、汗・筋グリコーゲンのほか細胞間のヒアルロン酸などで、その種類は多いものの量的にはわずかです。これは、摂取した糖質の大半が主要エネルギー源として消費され、また余剰分は脂肪として貯蔵されますから納得できる数値です。

体たんぱく質の種類と機能

体たんぱく質の種類は、10万を超えるとする推定もあります。その数の真偽は別にしても、それぞれの量が生体にとって必要十分なレベルに調節されていることが、健康維持に不可欠であることは推測できます。

体たんぱく質と言えば筋たんぱく質を思い浮かべる人が多いかと思いますが、すべての体たんぱく質は、生命を維持するための多様な生理機能を持っています。機能を失った場合は速やかに分解されますので、単なる貯蔵たんぱく質と呼ばれるものは存在しません。

その機能を基に体たんぱく質を列記すると、

①消火や代謝に関与する酵素たんぱく質

②生体機能を調節するホルモン

③皮膚や骨格を維持するコラーゲンなどの構造たんぱく質

④筋肉の収縮や細胞運動にかかわる収縮たんぱく質

⑤生体防御に不可欠な防御たんぱく質

⑥酸素や鉄などの輸送に必須な輸送たんぱく質

などがあります。

また、核塩基など窒素化合物の合成原料としてもたんぱく質が大切です。体たんぱく質の寿命(半減期)は長短さまざまですが、中には、必要な際に直ちに合成され不要となればすぐに分解されることにより、生理機能をスイッチのように制御するものもあります。

体たんぱく質の分解と合成

体たんぱく質は、遺伝情報に基づき、20種類のアミノ酸が設計図通りの配置でペプチド結合により連結したポリペプチドです。そして、個々のたんぱく質固有の立体構造が形成されて初めて、その生理機能が発揮されます。しかし、立体構造に微妙なゆがみが生じたりすると、その機能は障害を受けます。このこともその理由の一つと考えられますが、体たんぱく質は絶えず分解と合成を繰り返し新旧交代の動的平衡状態にあるのです(代謝回転)。

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遺伝情報は4種の核塩基のうち3種の組み合わせ(トリプレットコード)が特定のアミノ酸を規定することで保存されています。したがって、体たんぱく質を合成するためには、20種類のアミノ酸が量的に不足することなく用意されてなければなりません。しかし、質量ともに十分なアミノ酸が供給されていることで、期待される体たんぱく質の合成が開始されるというわけではありません。タンパク質合成を規定コードする遺伝子のスイッチがどのようにして入るのかが、重要なポイントなのです。

ところで、正確なその量は明らかではありませんが、健常成人では約180g/日の体たんぱく質が分解されています。そして、健康が維持されているならば動的平衡の状態にありますから、同量の約180g/日の新しい体たんぱく質が合成されているはずです。

アミノ酸プール

体たんぱく質の分解で生じたアミノ酸のおよそ2/3、つまり約120g程度は体たんぱく質の合成に再利用されていると考えられています。この体タンパク質の分解で生じるアミノ酸と、食事からとったたんぱく質が消化分解されて体内に取り込まれるアミノ酸、そしてグルコースなどの代謝中間体から誘導される非必須アミノ酸を合わせてアミノ酸プールと呼びます。これは、特にアミノ酸をプールしておく場所が生体内に存在しているわけではなく、単に遊離したアミノ酸を指していることに留意しましょう。そして、これが新たな体たんぱく質の原料となります。

ですから、健全な体を維持するためには、とりわけ、食事たんぱく質由来のアミノ酸の量と質を考慮する必要があります。私たちが口にする動物性及び植物性タンパク質は、どちらも同じ20種類のアミノ酸の組み合わせでできていますが、いわゆる良質なたんぱく質をとることが健康には大切です。

ところで、再利用できなかった体たんぱく質由来のアミノ酸はどこへ行ってしまったのでしょうか?

体たんぱく質の分解で生じたアミノ酸の一部は、その炭素骨格がエネルギー源として、また血糖の原料(糖原性)や脂肪酸合成(ケト原性)として使用されます。この再利用できない量を毎日補給する必要があることと、その給原が食事に依存していることは明白です。

必須アミノ酸


壊れた分だけ作りなおします。体を構築する体たんぱく質を一定の状態に維持するためには、その原料を準備しなければなりません。その原料である20種類のアミノ酸は必須アミノ酸(不可欠アミノ酸)と非必須アミノ酸(可欠アミノ酸)に分類できます。

必須アミノ酸とは、人の体内で合成できないか、あるいは合成速度が遅いため必要量を用意できないアミノ酸のことです。したがって、食事から補充するほかありません。もう一方の非必須アミノ酸は、生体内で必要量を準備できるアミノ酸ということになります。

具体的にはアミノ酸の中の、トリプトファン、リジン、スレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジン(合成量が不十分)の9種類が必須アミノ酸です。


残りのアスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、チロシン、プロリン、アルギニンの11種類が非必須アミノ酸です。なお、チロシンは必須アミノ酸のフェニルアラニンから、システインはメチオニンから誘導されるので、フェニルアラニンとメチオニンが十分量存在する限りチロシンとシステインは非必須アミノ酸です。逆に、チロシンとシステインが十分量あるならばフェニルアラニンとメチオニンは補足されることになります。

アミノ酸評価パターン(FAO/WHO/UNU,1985年策定)の必須アミノ酸の項目では、メチオニン+システイン及びフェニルアラニン+チロシンとされていますが、その理由は理解できると思います。

ところで、「良質なたんぱく質とは何か」は、もう、おわかりですよね。必須アミノ酸9種類を過不足なく含んでいるたんぱく質食です。一般的な、動物性たんぱく質は良質なたんぱく質ですが、例外もあります。植物性の大豆たんぱく質に含まれている必須アミノ酸のバランスは良好ですが、コラーゲンたんぱく質のそれは動物性であるにもかかわらずよくありません。

糖質と脂質が十分に補充されていれば、食事たんぱく質がエネルギー源として流用されることなく、本来の目的である体たんぱく質合成に優先利用できます。エネルギー源の確保は生きるための絶対条件です。糖質摂取を無視した動物性たんぱく質の摂取量増大は脂質過剰摂取を伴います。このことを考慮すれば、糖質摂取量の確保が第一にあるべきで、それは摂取エネルギー比50以上70%未満にあることが望ましいとされていますが、うなずける数値です。糖質摂取不足の先進国で生活習慣病が著増してしまった事実は、このことを如実に物語っています。

脂質も体の構成成分

脂質には、エネルギー源として利用できる脂肪酸のほかに、コレステロールやリン脂質などがあります。コレステロールから誘導される胆汁酸も脂質の仲間です。いずれも生体を構成する必須成分なのですが、水にとけないことが大きな特徴です。

ところで、60兆個もある細胞の表面はどのような構造であるべきでしょうか?

細胞の外側と内側は必然的に水環境です。細胞は、生きるために必要な分子を細胞内に取り込み、不要な分子を細胞外に排除しなければなりません。端的にいえば、水溶性分子の細胞内への透過をすべて排除し、細胞に必須な分子に限って特殊な方法で流入させればいいでしょう。外界と隔絶するその細胞膜が進化の過程でどのようにして構築されたのかは不明ですが、リン脂質とコレステロール、そしてたんぱく質が相互作用をしつつ流動的な膜構造を形成していることは疑いのないことです。そして細胞膜の構成物質としては、袋状のミセル(両親媒性の新水性部を外側に、疎水性部を内側に配列したもので、単層ならば球状に、2重層なら細胞膜などを形成)を構築するために、脂肪酸ではなく両親媒性のリン脂質であることが重要です。

コレステロールは細胞膜に強靭さを与えるので、大きな細胞を構築して維持するために不可欠です。生体内に存在する、そのコレステロールの総量は190gほどにもなります。人の細胞に比べると小さなサイズの微生物の細胞膜には、コレステロールは組み込まれていません。

コレステロールはビタミンDやステロイドホルモンの原料としても重要です。肝臓や小腸などで、毎日およそ1.5グラム程度がアセチルCoAから作られています。しかし、人は体内でコレステロールを分解する手段を持っていませんし、水にとけないコレステロールを尿中に排泄してしまうことも不可能なのです。コレステロール体外排出の唯一の経路は、肝臓でコレステロールを胆汁酸に変換し胆汁酸塩として十二指腸へ放出するルートです。もっとも、回腸部からその大半は肝臓へ再吸収され二次胆汁酸となります(腸肝循環)。

コレステロールは厄介者扱いされることが多いようですが、生体にとって重要な有機化合物なのです。コレステロールの血中濃度が高すぎるとアテローム性動脈硬化や虚血性心疾患の発症要因の一つになるとされていますが、低すぎても問題で脳出血などの危険性が出てくると考えられています。

糖質も体の構成成分か?

何度も触れたように摂取した糖質は第一のエネルギー源として消費され、余剰分はグリコーゲンや脂肪酸に変換され貯蔵されます。しかし、グリコーゲンは量的に多くありませんし、数時間で枯渇する貯蔵多糖にすぎません。

身体の構成成分として利用されている糖質には、たんぱく質に結合した糖たんぱく質や脂質と結合した糖脂質があります(複合多糖)。タンパク質に鎖状に結合した糖(糖鎖)は、情報伝達や受容体などの機能としてとても重要です。また、ヒアルロンさんやコンドロイチンなどのグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)は、関節液や目の硝子体、軟骨などの成分として不可欠です。おなじみのグルコサミンはグルコースから生体内で合成されています。

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