
助ける側は、助けられる側を「低い位置に置いてはいけない」
今回は、前回少し触れました「人を助けるとはどういうことか」という本について紹介します。
著者はエドガー・シャインという方で組織を扱う人の間では有名な本です。
この本で扱われている、人を助けるというのは、道を教えるということから、会社の中で困っている人のサポートをすること、上司が部下を育成することまで含みます。
私たちが人を助けようとするとき、よかれと思ってやってみても、助けられる側はまったく役に立たなかったということがあります。
コンサルティングの仕事もクライアントの課題解決を「助ける」仕事と言えますが、様々分析をして提案書にまとめても、その後まったく使われずに机の引き出しにしまわれているということは残念ながら起こります。
提案した時には、その内容に評価をいただき、喜んでもらったとしても、 です。
このようなことはなぜ起こるのか、そして効果的に支援するために必要なことは何かということにヒントをくれる内容になっています。
私がとても印象に残ったのは、
助ける側は、助けられる側を「低い位置に置いてはいけない」ということです。
一例を挙げますと、病気で寝たきりの患者さんが、ベットから家族に何かお願いごとをするとき、常に患者さんは助けてもらうという、一段低い位置に置かれることになります。
そうすると、患者さんは気持ちとして弱い立場におかれ、
言いたいことのすべてを言えない状況になり得ます。その状況を放っておくと、本当に必要な助けが見えてこなくなる恐れがあるのです。
これを組織で考えてみると、たとえば上司、部下との関係性において、部下が上司の意見と異なる意見をもったときなど、同様のことが当てはまります。
上司が自分の意見と異なる発言を嫌ってしまう、そして、無意識でも人事評価に影響させてしまうようなことがあったとしたら、部下はいくら思っていることを言えといわれても、本当に感じている問題を上司に報告することは難しくなるでしょう。
そうなってくると、上司が与えるアドバイスが、本当にその人の意識に届くものにはならない可能性があります。本当に抱えている問題意識に対する回答になっていないためです。
本当に助けてほしいものは何かということを特定するためには、以下の2つのことが大切です。
・助けられる側の立場を助ける側と同等に上げること
・最初に出てきたニーズが本当のニーズかどうか、早急に判断せずに一緒に明らかにしていくこと
一つ目の、助けられる側の立場を上げるとは、何を言っても不当に扱われないという安心、信頼をつくることです。
こんなことを言っても大丈夫だろうかと思われないためには、意見を言うこと自体をまずは評価判断せずに歓迎するスタンスが求められます。
また、意見を言うことに対して引け目を感じさせないような配慮も必要です。
患者さんの例で言うと、「自分も水が飲みたいけど、いる?」と声掛けをしたり、患者さん自身に治療方針を選ばせるなど、相手に選択権を与えたり、問題解決に参加してもらうということで立場を引き上げていくことが大切になってきます。
二つ目に関して、シャインは、医者のように、何が問題なのかを診断して、処方箋を一方的に出すこと。また、先生のように、何か助けになる知識や専門的サービスを求められるままに与えることが本当の課題解決を遠ざけると述べています。
たいてい、最初に現れている問題は、お互いが見えていない領域が多く、認識を見誤ってしまうからです。
助ける側、助けられる側が相互に忌憚なく意見を述べ合える関係性を築き、本当の問題を探っていくことの中に、実行力のある解決策がついてくると考えられるのです。
チームを一つにまとめていきたいというときに、シンプルに考えれば、皆がお互いの事情を理解し、助け合えるならば、組織はうまくいくように思います。
しかし現実は、多くの組織で、どこまでが自分の仕事の範囲、部門の役割なのかということで対立し、負担や責任の押し付け合いをしているケースが多いのです。
問題が起きないように、人事制度を整えたり、職務を明確にしたり、ビジョンを掲げたりとチームをまとめる方策はたくさんありますが、
私は上記のように、立場を超えて、誰かの立場が一方的に低くならないようにケアをし、どうすればうまく助け合えるかという風土が、底流に流れていることが必要なのだと思います。
また来月もよろしくお願いいたします!
2016/10/31 VOL76 sakaguchi yuto