事業の成功率を上げるUX/UI検証 実践編~プロジェクト初期~
こちらの記事はプロジェクト初期段階で行うUX/UI検証のご紹介です。プロジェクト初期は探索的調査がメインのため、主にデプスインタビューの設計方法をご紹介します。
プロジェクト初期段階でのUX/UI検証
プロジェクトの初期段階はターゲットになりそうな顧客の生活、行動、感情を深掘って、顧客も認識していない潜在的な課題やニーズを明らかにしていきます。顧客理解を深め、企業が解くべき課題を明確にします。
デプスインタビューを実施して、顧客と向き合い、発言と行動の裏には何があるのかを深掘りし、隠された課題・ニーズを発見することに集中しましょう。
よくプロジェクト序盤で新たにリサーチをせずに、今まで調査してきた使えそうなデータからターゲットを決めたり、アウトプットを作ったりする企業があります。
確かに可視化されたデータは顧客課題を見つけやすく、すぐにデザインも創ることができるでしょう。ただありもののデータから見えてくるニーズはすでに顕在化されており、顧客の潜在的なニーズを捉えることは困難です。
大衆向けに初めて自動車を販売したフォード社の例がわかりやすいです。
自動車のない時代は馬での移動が主流でした。馬で移動している人たちにアンケートを取ると「もっと速い馬が欲しい!」という要望が大半だったそうです。
その顕在化されたニーズを間に受けて、フォード社が開発し続けたら、今のフォード社は速い馬を育成する会社になっていたはずです。
実際フォード社は「もっと速い馬が欲しい!」という顧客に対して探索的調査を行い、その発言の裏にはどんな課題と潜在的なニーズがあるのか分析し、「顧客は速い馬が欲しいのではなく、単純に早く目的の地点までに着きたい。そのために速い馬が欲しいと発言している。なので目的を達成するためには決して馬である必要はない。」というニーズに気づき、解くべき課題を「どのようにしたら人は目的の場所へ早くたどり着くことができるのか」という課題を定義し、「自動車」という解決法を世の中に打ち出しました。
このように顕在化されたデータだけを見ていても、顧客の生活を大きく変えることはできません。
プロジェクト初期段階時にすでに用意されているデータを基にデザインしていくのではなく、顧客と会話をして、そこで得た発言や行動の裏側にはどのような課題・ニーズがあるのか分析しましょう。
デプスインタビューとは
顧客の発言・行動を深掘りするための検証方法はデプスインタビューがおすすめです。他にも手法はありますが、私の経験上デプスインタビューが一番顧客と向き合い、本音を聞き出せる手法だと思っています。
デプスインタビューは「インタビューする人」と「インタビューされる人」の一対一の形式で、1時間ほどの時間を使って、その人の生活、対象のプロダクトの使い方、日々考えていること、課題を深掘りしていく手法です。一見すると一対一で雑談しているように見えるかも知れませんが、そうではなく、とにかく1時間の中でその人の考えていること、行動の裏側に何があるのかを吸い出すために一方的に質問をし続けるのです。そのためにインタビューする側はインタビューの目的、はっきりさせたいことを明確にして、質問項目を計画する必要があります。
デプスインタビューの設計方法
デプスインタビューの設計方法は基本的には4ステップです。
インタビューの目的を決める
目的を達成するための必要な要素を決める
深掘りに必要なキーとなる問いを決める
問いをぶつける相手を決める
1.インタビューの目的を決める
インタビューで何を明らかにしたいのか必ず定義しましょう。デプスインタビューは質問する内容を事前に用意はしますが、状況に応じて臨機応変に質問をその場で考えて深掘りする必要があります。その際にインタビューの目的をはっきりしておかないと目的とは関係ない無意味な質問をしてしまい、「ただの雑談」になってしまいます。
目的の書き方はインタビューする人物像、どんなことをヒアリングし、何を明らかにしたいのかを定義します。
2.目的を達成するための必要な要素を決める
インタビューの目的を定義した後はその目的を達成するためにどんなことを明らかにしないといけないのか洗い出します。
例えばジャンプの漫画アプリを開発する場合は、
といった形で明らかにしたいことを要素分解していくと、3の「深掘りに必要なキーとなる問いを決める」というステップが考えやすくなります。
3.深掘りに必要なキーとなる問いを決める
明らかにする要素を決めた後はその要素を深掘りするための問いを考えます。
例えば「漫画に求めている価値とは何か」を明らかにするためには以下のような問いが考えられます。
このキーとなる問いを質問して、臨機応変に深掘りをしていくと、その人がどんな時に漫画を読みたくなり、何を基準に数ある漫画から一つを選択し、読んだ後に人生にとってどんな価値が生まれたのかわかるはずです。
ただしインタビューされている人は上記のようなことを日々意識して行動しているわけではないため、発言に矛盾が生じたり、言ってることと行動が伴わなかったりします。その矛盾・非合理的な行動を拾い集めて、顧客の課題・ニーズ・インサイトを考えていくのです。
4.問いをぶつける相手を決める
どんなことを聞いていくのか考えたら具体的にどんな人にインタビューするのか考えます。
コツとしてはリクルーティングは「絞りすぎず、緩すぎず」です。
絞りすぎてしまうと母数が減るため、人が集まらなかったり、調査会社にリクルーティングを依頼する場合は金額が高くなります。
逆に緩すぎてしまうとインタビューで思ったような人が来ず、無駄な調査になってしまいます。
私は必須条件、基本属性、行動条件の3つ定義し、リクルーティングを行います。
必須条件
条件に合っていなければインタビューする必要はない人々を排除するための条件です。例えばジャンプ漫画アプリだった場合は、漫画をそもそも読まない人に漫画の価値を聞いても得られる発見は少ない可能性があるので必須条件に「半年以内に漫画を1冊でも読んでいる人」としたりします。
基本属性
基本属性は居住地、年齢、性別、業界、所属、家族構成、日常的なデジタル利用率などです。これらをリクルーティング時にヒアリングしておき、インタビュー時に年齢分布をバラつかせたりして、特定の属性に偏りが生じないようにします。
行動条件
特定の行動をした経験があるのかリクルーティング時にヒアリングすることで、「この行動した人には必ずインタビューしたい!」というようにプロジェクトの課題・状況に応じて網を張ったりします。例えば「ジャンプの漫画アプリで毎月1万円以上課金している」みたいなユーザーはジャンプの漫画アプリに対して自分たちも知り得ない底知れぬ価値を感じている可能性が高いので、優先的にピックアップしてインタビュー対象者にしたりします。
この4ステップを行うことでデプスインタビューはプロジェクトにとって価値のある情報が得られると思います。
ただし得られた発言はそのまま活用してもただの議事録レポートになってしまうので、必ず発言の裏側にはどんな感情が隠されていて、発言と行動に矛盾がないかなど分析する必要があります。
分析はバイアスが掛からないように複数人で行いましょう。よくインタビューを議事録のようにテキストツールで記録を取る方がいますが、それだと複数人でのワークがしづらいので、記録はMiro、MURAL、Figjamなどのホワイトボードツールを使って行いましょう。
デプスインタビューの注意点
プロダクトへの新たなアイデアを求めすぎない
インタビュー実施時は「何が欲しいですか?」「どんな機能が欲しいですか?」と聞いても大体の人は未来を考えていないので、良い返答は返ってきません。そのためとにかくその人の価値観、生活、課題にフォーカスしてインタビューしましょう。
インタビューは少人数で!
インタビューする時にたくさんの人に見られている雰囲気を感じてしまうと緊張し、純粋な発言が得られなくなります。実際に対面で行う場合は、1対1で行い、zoomなどを繋いで別部屋で記録を取るようにしましょう。
オンラインで実施する場合もたくさんの人がオンライン上で参加しているとプレッシャーに感じてしまいます。インタビューしている音声を、別のオンライン会議上に流すなどして、インタビュー被験者がリラックスした状態で臨めることを最優先にしてください。
ちなみにzoomの場合、インタビュー被験者に参加メンバーが見えないようにする機能があります。そのような機能を活用し、インタビューを推進してください。
プロジェクト中期〜後期のUX/UI検証 実践編はこちらでご紹介しています。
またなぜUX/UI検証を実施するのかはこちらでご紹介しています。
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