経営企画の実務者から見たAIの本質
「AIによって人間の仕事が奪われる」
この言葉を、最近よく耳にするようになりました。確かにChatGPTをはじめとする生成AIの進化は目覚ましく、私たちの働き方に大きな影響を与えています。しかし、実際の業務現場では、その予想とは少し異なる現実が見えてきています。
今回は、とある上場企業の経営企画部での実務経験を通じて、AIと人間の関係性について考えてみたいと思います。
生成AIとの蜜月期
山田さん(仮名)は、製造業の経営企画部で日々の実務に追われる普通の会社員です。経営会議の資料作り、各事業部からのデータ集計、経営指標の分析など、手作業での処理に疲弊していました。
生成AIとの出会いは、まさに救世主でした。会議資料のテンプレート作成、データの自動集計プログラム、簡単な分析ツールの開発。ChatGPTに指示を出すだけで、これまで何時間もかかっていた作業が、あっという間に自動化されていきました。
「こんなに簡単でいいの?」
プログラミングの経験がなくても、AIが適切なコードを提案してくれる。エラーが出ても、原因と解決策を丁寧に説明してくれる。山田さんは、この新しい「相棒」の有能さに日々感動していました。
思わぬ落とし穴
しかし、業務効率化の波に乗って、次々と自動化を進めていくうちに、思わぬ問題に直面することになります。
事業部ごとに異なるフォーマットのデータを統合する必要が出てきた時。人事システムと財務システムのデータを連携させようとした時。経営指標の自動計算と可視化をリアルタイムで行おうとした時。
個々の機能は完璧に動いているのに、それらを統合しようとすると予期せぬエラーが続出。修正しても新たな問題が発生する。そんな状況に追われるうちに、山田さんは重要な気づきを得ました。
「そもそも、自分は何がしたいんだろう?」
生成AIはとても優秀な「コード生成機」でしたが、それは山田さん自身がクリアなワークフローや具明確な要件を持つ時に限った話でした。システムの全体像、データの流れ、例外的なケースの処理。企業内外、組織間の様々な制約条件の下で、これらを整理し、要件定義として落とし込むのは、紛れもなく人間の仕事だったのです。
要件定義の重要性
この気づきは、山田さんの仕事の進め方を大きく変えました。
ある日、山田さんは会議室に籠もり、大きな模造紙を広げました。まず、業務の流れを箇条書きに。次に、データがどのように流れ、どこで変換され、どこに保存されるのかを図に描き起こしていきます。付箋を使って、システム間の連携ポイントや、起こりうる例外ケースをマッピング。
「こうやって見ると、ここがボトルネックになっているんだ」
図を眺めていると、これまで見えていなかった課題が浮かび上がってきました。事業部ごとのデータ形式の違い、更新タイミングのズレ、チェック項目の不統一。それらを一つ一つ書き出し、改善方針を具体化していきます。
そして驚いたことに、ここまで整理できると、生成AIとの対話が格段にスムーズになったのです。
「ここのデータ変換処理をこういう流れでやりたいんだけど」
「このエラーケースの処理はこんな感じで」
明確な設計図を持って依頼すると、AIは驚くほど正確にその意図を理解し、必要なコードを提案してくれました。時には「その場合、こんな問題が起きる可能性がありますが...」と、思いもよらずありがたい提案までしてくれます。
見えてきた新しい関係
この経験を通じて、山田さんは生成AIとの最適な関係性を見出したように感じています。
AIは確かに強力な「コード生成機」です。しかし、それ以上に優れているのは、人間が描いた構想を忠実に実現してくれるパートナーとしての側面でした。システムの設計や要件の整理という、本来人間がすべき思考の過程を省略してしまうと、却って遠回りになってしまう。
「結局、自分の頭で考えることは省略できないんですよ」と、山田さんは後輩に語ります。「でも、それさえしっかりできていれば、AIは私たちの構想を驚くほど忠実に実現してくれる。そこが面白いところでもあり、使いこなすことが難しい要因でもあります」
これからの展望
今、山田さんの部署では以前よりもずっと複雑なシステムが稼働しています。データの収集から分析、可視化まで、多くの処理が自動化され、以前は考えられなかったような分析も可能になりました。
しかし、決して「AIにすべてを任せる」という形にはなっていません。むしろ、人間が本質的な部分により多くの時間を使えるようになったと言えます。システムの設計、新しい分析視点の検討、例外ケースへの対応方針。これらの本質的な検討に、より多くの時間を割けるようになったのです。
学んだこと
生成AIの本質は、人間の仕事を「奪う」ことではなく、人間の構想を「実現する」ことにあるのかもしれません。
そのためには、私たち人間の側も変わっていく必要があります。目の前の作業を「とりあえずAIに投げる」のではなく、まず自分の頭で考え、設計し、構想を練る。そして、その実現をAIに託す。
このような関係性を築けたとき、AIは私たちの最も信頼できるパートナーとなるのではないでしょうか。
山田さんの経験は、決して特別なものではありません。日々の業務に真摯に向き合い、AIという新しいツールと格闘しながら、多くの実務者が同じような発見をしているはずです。
それは、技術の進化と人間の成長が調和する、新しい働き方の姿なのかもしれません。
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