ド素人2人が動画作りまくったら経産省の定めるDX認定事業者になっちゃった話
皆様、初めまして。松浦機械製作所の松浦悠人と申します。まずは会社紹介を簡単にさせてください。
松浦機械製作所は福井県にあります1935年創業の工作機械メーカーであり、オーナー系企業で現社長が3代目、私が4代目となる予定です。
最近は3Dプリンタ等もありますが、工作機械とは一般的には金属を削る機械であり、あらゆるモノづくりに欠かせない生産財です。
日本は歴史的に工作機械業界にて非常に強いプレゼンスを確立しており、2008年まで27年間連続生産量に関しては世界一で、現在も世界中に日本製の工作機械が輸出されています。今では中国に生産量1位の座は奪われましたが、ハイエンドの機械はまだまだ日本製が主流と言えます。
弊社は「人のやらないことをやる」をモットーに自動化に特化したマシニングセンタやハイブリッド金属3Dプリンタなど製造業のためのソリューションを提供し続けています。
この私の初noteでは、以下の目次のように、まずはどのように動画制作を始めるに至ったか、そして、動画戦略によって経産省の定めるDX認定事業者に至った経緯を順に書き連ねています。
中小企業ならではの泥臭いところまでカバーしていますので、もし、弊社と同じように自社での動画制作体制を考えているお会社様、DX認定制度にご興味ある方は、ぜひお付き合いいただければと思います。
なぜ動画制作を始めたのか?
コロナ禍前の営業スタイル
弊社は福井県の中小企業ながらも海外輸出比率7割以上を誇るグローバル企業で、主要なマーケットは北米と欧州になります。
”日本”の”マシニングセンタ”のメーカーと条件を絞っても市場にはかなり多くの選択肢があります。そのためお客様は選別眼をもって、どのメーカーの機械が自社のニーズに合い、優れた生産性をもたらすか見定めます。
その中で、弊社が選ばれる理由の1つは「こだわりのモノづくり」です。この記事では軽くにとどめますが、パレット単体研磨、タング一体主軸、キサゲによる傾向付け等、信頼性、長寿命のために愚直に一つ一つの部品の質をこだわり抜く。その結果、長い間、高精度を保つことの出来る機械が組み立てられるのです。
その「こだわりのモノづくり」をお客様に理解していただくためには、工場見学が一番です。国内海外問わず、お客様をお招きし、あらゆる生産現場、従業員の実直な姿勢を見ていただき、「なるほど、松浦機械を選んで間違いない。」と納得していただく。創業者の教え「会社全てがショールーム」がまさにここに生きています。
コロナ禍で大ピンチ
そんな折、世界中でコロナウィルスが猛威を振るいだしました。
2020年、少なくとも月に1回、海外のお客様の工場見学ツアーの予定がありましたが、海外のお客様に関しては無論、国内も含めて予定が軒並みキャンセルされました。実際、この時以来、現在執筆している時点まで海外のお客様のご来社は1回もありません。
そして、今までお客様の工場に直接訪問していた営業マンも営業活動のやり方の大きな変更を余儀なくされます。一体どうやって見込み客を獲得すればいいのか。どのように松浦機械の魅力を伝えればいいのか。
2020年8月の海外子会社(販社)の半期レビューのWeb会議で、案の定、ほぼすべての子会社がオンラインマーケティング、デジタルコンテンツの必要性を強く訴えました。
DX推進室発足
「ほとんどやっていないに等しかったオンラインマーケティング、今、取り組まないとまずい。しかし、本社の営業本部には捻出できる人手がいない…。」と悩みと言い訳しか出ない会議…。
「それ私にやらせてください。」と技術の開発部長だった私は恐る恐る言いました。私は開発部長に数か月前に就任したばかりだったので否定されると思いきや、あっさりGOがかかりました。
少し愚痴っぽいですが、あんなに「出来ない、難しい。」の1点張りの議論だったにもかかわらず、担当者が決まったとたん、あれもこれもやってもらおうと話が盛り上がり、オンラインマーケティングだけでなく、会社全体のDX推進も担う形でDX推進室が発足しました。
技術本部の開発部長を数か月で実質退任し、私はDX推進室長に。一人では到底無理なので、部下を一人つけてもらうことになり、将来的に海外営業を希望し営業技術で研修を積んでいた入社2年目の社員がDX推進室配属になりました。私は当時、2018年9月に松浦機械に入社して丸2年たつ頃だったので、本当に若手2名だけのチームです。
動画を自分たちで作ろう!
せっかく良い製品を造っても、お客様に伝わらなければその価値は存在しないに等しい。
ではどうやってそれを伝えるか…YouTuberを見習って、動画配信やってみよう。
早速、踏み出した初歩は海外の営業マンのリクエストを集めること。何の動画が欲しいですかと聞いたところ、
などなど大量のリクエストが出てきました。これはすべて外注に出していたらキリがない。今後のことも考えて社内に動画制作体制を持つことは強みになるだろうと考えた私は自分達で撮影・編集を行うことを決めました。
しかし、DX推進室の2名は撮影・編集は全くやったことのないド素人。せっかちな私は、とにかくやってみなければ始まらないと、営業本部が持っていたハンディカメラと、これまた営業本部がほとんど使わず宝の持ち腐れ状態だったAdobeの編集ソフトを使って活動を始めます。
処女作を紹介させてください。この社長インタビューシリーズは内容で6種類×日英の2種類あるのですが、すべてのエピソードを1日で撮影する強行スケジュールでした。モニターにノートPC画面を映し、台本のワードファイルを私が屈みながらスクロールしました。編集中見ていて「あ、これカンペ読んでいるな。」と分かってしまう目の動きをしているところは、インサート映像を挟みごまかしています。まさにド素人ですね。(裏話)
動画制作の実績
2020年9月から執筆している2021年11月まで、100個以上の動画を弊社のYouTubeチャンネルにて公開してきました。SNSで週3で投稿している短時間の動画、YouTubeには公開せずに別のところで利用しているものも含めると300個以上の動画のほとんどを今まで2名体制で制作してきたことになります。もちろん、字幕を付けただけのような簡単なものも含めてにはなります。
「このような記事を書いているのだから、さぞYouTubeで成功しているのでしょう。」と思われるかもしれませんが、実は再生数が多かったり、バズったりした動画があるわけではありません。
ほとんどの動画の再生数は数100止まりで、一番成績がいい動画でも、現在の時点でYouTubeの再生数5000弱です。チャンネル登録者は1000人をやっと超えたところ。もちろんDX推進室が活動する前に比べたら、視聴者数やチャンネル登録者数はじわじわと右肩上がりの傾向ではあります。
我々が重要視しているのは営業マンがリモートの営業活動で武器があるか。「マツウラのモノづくりのこだわりはこの動画を見てください。」「松浦機械ってこういう会社なんです。」とお客様の気になるところや、営業マンのニーズに応えられるかです。
実際、国内海外でこれらの動画は適材適所で有効利用されています。また、YouTubeで公開していることで、人手をかけることなく松浦機械のブランドの認知を少しずつでも拡げています。
これはいままでの直接的なコミュニケーションで成り立っていたアナログの営業活動をデジタル化した、まさにデジタルトランスフォーメーション(DX)と言えないでしょうか?
この次からはYouTubeで成功しているわけでもない中小企業が動画戦略にてDX認定事業者になった経緯を説明したいと思います。
DX認定事業者までの道のり
DX認定制度とは?
こう聞くと何やら難しそうだと思わないでしょうか?
このDX認定制度、「DX-Ready」「DX-Emerging」「DX-Excellent」と3つの階級があります。(詳細はこちら)
一般的にDX認定事業者とはこのDX-Readyを取得した企業のことです。この記事でも”DX認定=DX-Ready”と認識ください。DX-Readyの定義は以下の通りになります。
実はDX認定事業者はDXの実績がある優良な企業ではなく、DXを進める準備が整っている企業なのです。極論を言えば、じっくりと戦略さえ練れば、まったく具体的にDXに取り組んでいない状態でも取得は可能な訳です。
取得してのメリットって何?ブランド向上だけ?と思うかもしれません。なんと、このDX認定を受けると税優遇を受けられ実利的な効果にも繋がるのです。
この税優遇を受けるための条件は複数あるのですが、そのうちのひとつにDX認定の取得が含まれています。
我々がDX認定を目指したきっかけ
DX推進室が発足して半年ほどたった2021年3月頃、ふらっと会社の役員の方が私の机に来て、「こんな制度あるらしいよ。税優遇制度も出来るみたいだから検討してみて。」とチラシを置いていきました。
正直、私の初めの印象は「これは絶対面倒だ。」でした。DX認定事業者はこちらのサイトで公開されているのですが、3月時点で登録されているのは30社未満で、しかも、誰もが知っている大企業ばかりが並んでいたためです。「松浦機械のような中小企業が取得できるようなものなのだろうか。」
しかし、私は税優遇というところに非常に興味をひかれました。税控除を受けることは企業に残るお金に100%寄与します。つまり、弊社の場合、機械を1台追加で売るより、会社に貢献できるのではと考えたのです。
動画配信を積極的に始めたのはいいですが、実は社内では賛否両論でした。「工場見学の動画をYouTubeに載せたら、実際に工場見学に来なくなるからやめた方がいい。」と真向に批判されたこともあります。半年の間で様々な動画を公開してきましたが、じゃあ実際それが売り上げ増加に貢献したかと言われれば、何とも答えられない立場でした。
どうしても誰にでも堂々と胸を張れる実績が欲しい、と思った私はDX認定取得のために本格的に動き出しました。
松浦機械のDX戦略
DX認定制度の申請手順はすべてオンライン上で行われます。要件が記載されたフォーマットに内容を記載しポータルサイトを通じて提出します。
肝心な戦略の内容ですが、営業PRだけであった動画の活用の幅を拡げようと考えました。
当時、新卒採用の面接があったのですが、「お話を聞くのもいいが、開発の人に1日ずっと付いて普段の業務を見学したかった。」というようなことを言う学生様がいらっしゃいました。
そこが特に気になるのは分かるが、一日ずっと付いて見学するというのは企業側の対応や管理が大変だというのが素直な意見です。私は、じゃあ社員の普段の業務を動画にまとめてYouTubeに載せてはどうだろう?と考えました。
さらにそのころ、中期経営計画が練られ、人材教育を全部署が見直していました。社内資格を設定する、教育専任者を置く、などの対策が多く出ていました。
しかし、地方の中小企業である我々は人材が豊富にあるわけではありません。新しく何かを始めるということは、苦しいところから何とか人手を捻出するということ。そのような専任の人材や工数を未来永劫確保できるでしょうか。
例えば、組立手順やメンテナンス手順を教えることにおいて、動画は役に立ちます。質のいい動画を1つ作るのに時間がかかっても、ベテランが若手に教える手間の繰り返しが無くなることを考えれば省人化の効果は高いです。
そして、これらはすべて人手によるアナログな作業を動画で置き換えるDXではないかと考えたわけです。
動画活用の幅は広い。自分たちの動画制作のスキルを他の部署にも展開して動画化を進めれば会社はいい方向に向かうはずだと思いました。
この動画活用を軸に、社内システム最適化、デジタル技術を用いた工作機械の機能開発を追加して松浦機械のDX戦略としました。
DX認定取得で悩んだ点
と、このような見出しをつけさせてもらいましたが、結論から言うと私が勝手に悩んでいただけで、認定は意外に簡単です。
このDX認定制度、中小企業は大企業と比べて基準が緩和されている点があります。
例えば「サイバーセキュリティに関する対策の的確な策定及び実施」という項目があるのですが、これは本来はITのプロによるセキュリティ監査等を行っているというようなことが必要です。中小企業の場合、Security Action制度の二つ星宣言というものの取得で基準を満たすことが出来ます。これは情報セキュリティ基本方針についての宣言を公開することで取得できるものです。
一方、私が悩んだのは、戦略の達成状況に係る指標の決定という項目です。これは要するに定義したDX戦略によって達成を目指す目標、そして、その進捗管理をどのように行うかを公表しなければなりません。多くのDX認定事業者は売り上げ増加や利益率向上を目標に設定している印象です。
これは上場企業だと、四半期決算、IR情報にて目標値と進捗の公開を行います、で済みます。しかし、松浦機械は非上場の中小企業、決算情報は公開されておらず前年の年商をWebサイト上で年次更新、中期経営計画も公表せず社内の取り扱いのみでした。
DX認定制度には相談窓口があるので、このような形でも問題ないか素直に相談したところ、「これはコンサルタントの取り扱いになるのでお答えできません。」という回答でした。しかし、「申請して不可の場合、理由や修正箇所等を提言し再提出を促すのでまず提出することをお勧めします。」との回答もあったため、5/17に提出しました。その後は審査の結果を待つだけです。
2021年7月 DX認定事業者に
すると、7/1に見事認定取得。晴れて松浦機械はDX認定事業者になりました。その時点で福井県企業で初DX認定ということで地元の新聞社や商工会議所にも取材いただき鼻高々でした。
また、このnoteきっかけで、DX認定制度事務局をやられているIPA様や製造系メディアにもインタビュー記事で取り上げていただきました。
DX認定事業者になったからと言って、その日から何かが変わったわけではありません。やはりまだまだDX-Readyの状態でこれからさらにスピードを上げて改革に取り組むべきなのです。クラウド関連投資の税優遇もあるということで背中を押されたような気持ちです。
啓蒙活動のおかげか、DX推進室だけでなく現場作業系の部署の若手も動画制作を担う様になりました。もちろん初めは不器用なものでしたが、今では感心するような出来のメンテナンス手順動画を作り上げます。
上から目線のような言い方ですが、キーボードを凝視しながら人差し指で文字を打つような方が、立派に動画を編集するのですから、ド素人でも為せば成るなのです。
話はDX認定に戻り、中小企業のDX認定事業者あるあるかもと思うのですが、DX認定事業者になってから、全く面識のない企業様からの営業コールが突然に増えました。とくにITシステムのベンダー系の企業様ですね。それは我々が社内システムの最適化ということを戦略に入れたためかもしれませんが、ご覚悟を!
最後に
動画戦略を軸にしたDX推進ということで書かせていただきました。しかし、企業活動において動画を積極的に制作し公開するというのは派手で華やかな世界ではありません。
このような意見と泥臭く戦っているのが私の日々のDX推進です。
「YouTubeで公開できないなら、ユーザー向けのプラットフォーム作らせてください!」
「まずは松浦機械の認知を拡げる所から進めたいんです!」
「DX推進室を外注と思って使っていいんで、まずは1つ作りましょう!」
改革というのは順調にいかないからからこそ面白い。最後に書きたいのは愚痴ではなく、DX推進に取り組む皆様への私からの応援です。この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
そんな私の日々をかなりカジュアルにTwitterにて発信しています!もしご興味ありましたらぜひフォローお願いします!
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。