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-第1章②-『サッカーIQとは戦略的思考のことである』


この記事は第1章①の続きです。


-前回のまとめ-
・『サッカーIQ=戦略的思考』という仮説を立てた
・戦略と戦術の違いを整理
・戦略的思考力とは『目的➡︎戦略➡︎戦術』の大きい方から考えること




✔︎サッカーIQと戦略的思考の関係性


ここからは4つの事例を通して、サッカーIQと戦略的思考の関係性を見ていきたいと思います。

まずはサッカーIQが高すぎるメッシ選手の動画です。


この動画を見ると、メッシ選手が目的を達成する(この場合は『ゴールを奪う』)ために、その時の状況に合わせて、自分の体力や技術といった資源を、いつどこで発揮するかを見極めて行動している=戦略的に考えてプレーしていることが死ぬほど分かると思います。

そのため、(メッシ選手の場合はかなり極端ですが)無駄な動きがほぼなく、「ここぞ!」という状況で一気にギアを上げ、溜めていた体力や技術(資源)を最大限発揮しています。

超ザックリですが、『目的➡︎戦略➡︎戦術』の流れに沿って整理すると、以下のようになると思います。


目的:ゴールを決める
戦略:「いつ誰からボールを受けるか」「どこから攻めると効果的か」などを見極める
戦術:(戦略を踏まえた上で、)ゴール前に向かって走り出し、ペナルティエリア付近で手を上げてパスを要求。後は相手をチョンチョンとかわして、最後はズドーン❗️❗️



では視点を少し変えて、
もしメッシ選手がとにかく攻撃も守備も縦横無尽に走り回ったり、目的もなく全てのボールに関わろうとしたり、常に100%でプレーをするような選手だったらどうなっていたのでしょうか?

ボールタッチ数や走行距離、スプリント回数といったデータの数値が高くなるのは間違いないですし、「今日のメッシは勤勉で、一生懸命頑張ってる!!」と感じる人もたくさんいるかもしれません。

しかしその代わりに、一番重要なシュートを打つ場面でボールを受けた時にはすでに体力が尽き、ヘロヘロの状態で質の低いシュートを打つことになるかもしれませんし、
そもそも動きすぎてしまったことで、「一番いて欲しいゴール前に、一番いて欲しいメッシ選手が、一番いて欲しいタイミングでいない」という、目的を忘れた怪奇現象が起こってしまう可能性すらあります。

世間的には「メッシは歩いて”サボっている”」と言われますが、個人的には”見極めている”ようにも見えます。
(ボールに関わっていなくても、試合から消えているわけではない。)

つまり、目的を達成する確率を1%でも高めるために、できるだけ無駄(不必要なこと)を省き、本当に重要な局面で最大限の力を発揮しようとしている、効率的で効果的なプレーが極めて多いのがメッシ選手だと言えます。


ただ、当たり前ですが、メッシ選手がここまで歩いていいのは、「メッシ選手だから」であって、普通の選手が同じようなプレーをしたら、干されて終了すると思います。笑 

チームとしてあの行動が許容されているのは、メッシ選手が持っている特徴(資源)を考えると、守備で一生懸命頑張ることよりも、攻撃で違いを生み出してゴールに繋がる決定的な仕事をしてもらった方が、結果的にチームとしても助かることが大前提にあるからだと思います。

とはいえ、メッシ選手も本当に必要な状況では最低限の守備をしていますし、歩いているけど相手が心理的に「ちょっとパス出しづらいな」と感じる絶妙なポジションを取っていたり、ボールを奪った時にすぐにゴールに直結する攻撃ができる準備をしているようにも見えます。この辺りも”ただサボっている選手との違い”を感じます。

以上、結果を残し続け、バロンドールを8回も受賞してしまったメッシ選手の『戦略』の動画でした。

https://www.footballista.jp/special/77577 より引用


やることを選ぶということは、同時にやらないことを選ぶということ。これが戦略の核となる考え方の『選択と集中』です。
全てをやろうとすることは、つまり選ばないということは、戦略がないということです。
とりあえず全てをやろうとすることは、意味なく経営資源を分散させてしまうだけ。愚か者のすることです。

『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』P.104


一流の選手は、いかに体力を温存し勝負どころ100%の力を発揮するかを考え、シンプルなプレーを選択しているものである。

「一瞬で決断できる」シンプル思考 遠藤保仁 P.82


ちなみに、このXでバズっていた三笘選手の動画も、本質的にはメッシ選手と同じ文脈の戦略的思考力(サッカーIQ)の高いプレーであることが分かると思います。



*事例2:「2人いる?」という錯覚が起きてしまうカンテ選手。

フランス代表のカンテ選手もサッカーIQの高い選手の代表例だと思います。

ピッチのどこにでも顔を出し、攻守に渡ってチームに貢献するカンテ選手ですが、試合中の走行距離はそこまで多くはない(時もある)そうです。


例えば、ロシアW杯のフランス対アルゼンチン戦ではフル出場しながらも走行距離は9.725kmだったそうです。
Jリーガーの走行距離のランキングをみると、上位の選手たちが12~13kmぐらいの数値を出していますが、これを考えるとかなり少ないことが分かります。
それなのにも関わらず、「2人いる」と評されるということは、よっぽど賢く、動きが効率的で『質』がとんでもなく高いことが考えられます。

つまり、カンテ選手はむやみやたらに動き回って守備をしているわけではなく、
目的を達成するために、その時の状況に合わせて
「いつ、どこで、誰からボールを奪うべきか」「どこでは相手にボールを持たれてもよくて、どこは絶対にやらせたくないのか」といった、「ここぞ!」という重要なポイントを正確に見極めながら(戦略を練りながら)プレーしているはずです。

その結果として、走行距離自体はそれほど多くなくても、重要な場面でボールを奪ったり、チームとして『いて欲しい場所』に常に気を利かせていてくれる。
さらには、無駄な動きが少なく体力的にも余裕があるので、90分間強度の高いプレーを維持することもできるし、「ここぞ!」という場面では攻撃参加もすることで、見ている人が「2人いる?」と感じるぐらいの存在感を放っているのだと思います。

(もちろん、「走行距離が少なければいい」という話でもないです!)

例えばフィジカルデータを例に取っても、走行距離が多ければいいというものではありません。単に意味なく走って無駄にエネルギーを消耗している可能性だってあるわけですから。走行距離の多寡(多いか少ないか)以上に、戦術的な文脈でどれだけ有効に機能したか、そのために必要な走りをしたかという質的な部分の方がずっと重要です。データはあくまでもそれを裏づけるために使われるべきものでしょう。

『モダンサッカーの教科書』P.209

上記の事例からカンテ選手も戦略的思考力が高い選手であると言えると思います。


*事例3:「良いポジショニング」や「良い状況判断」=戦略的に考えられている証拠

戦略とは『目的を達成するために資源をどこに配分するかを選択すること』でしたが、
これを別の言い方にすると、戦略とは『目的を達成するために、”いつ、どこで、だれが、何に対して資源を使うか”を決めること』とも言えると考えました。

そして、これをサッカーに当てはめると、試合中に適切な戦略を練れている選手とは、「目的を達成するために、今何をするべきか(今何に資源を割くべきか)」を理解して行動できている選手になるはずです。

それを踏まえて、サッカーIQが高い選手の特徴として「状況判断が良い」「ポジショニングが良い」ことがよく挙げられますが、これはまさに戦略的にプレーしている証拠だと考えられます。

そもそも、僕たちが『状況判断』や『ポジショニング』に対して、何を基準に良し悪しを判断しているかというと、
以下の事例のように、『その時の状況に応じて、(目的達成に繋がる)最適な行動をしているかどうか』が基準になっていると思います。


・「ゴールと決めるために、今この状況であれば、サイドに展開するとチャンスになる。」という場面でそれを適切に実行している。
・「ボール保持者からFWの選手に効果的な縦パスを通しやすくするために、自分は意図的に止まって、スペースとパスコース(資源)を作ってあげる。」
etc…


つまり、『その時の状況に応じて最適な行動をしている』と「今、何をするべきか」を理解して行動している』は同じ意味だと思うので、
だからこそ、サッカーIQ(戦略的思考力)が高い選手は、『状況判断』や『ポジショニング』が良いと評価されることが多いのだと思います。


*事例4:中村憲剛さんと林陵平さんのサッカーIQの定義

また、解説者である林陵平さんと、元日本代表の中村憲剛さんが考える『サッカーIQの定義』を以下のように表現されていましたが、
ここでもお二人が言っていることは一緒で、要するに『「今、何をするべきか」を理解して行動している選手(戦略的にプレーしている選手)』を指していると感じました。

-引用元-


ちなみに、ここでいう『今何をするべきかを理解している』とは、自分だけでなく、『チーム』『味方』『相手』を基準にしても考えられていることでもあります。

つまり、目的を達成するために、
「今、”チーム”として何をした方がいいのか」
「今、”味方が”何をした方がいいのか」
「今、”相手に”何をさせた方がいいのか」
も理解できている
ということです。

だからこそ、サッカーIQが高い選手ほど、言葉やプレーを通して味方にメッセージが送れたり、相手と駆け引きができるのだと思います。

──現役時代のチームメイト、もしくは対戦相手で、「この人、頭がいいな」と思った選手はいますか?
 中村憲剛さん(元川崎フロンターレ)ですね。すごく考えながらプレーしているなって。試合中は時間帯とか点差によっても求められるものは変わってきますが、憲剛さんの場合、「今、何をしなければいけないのか」の判断が常に的確でした。
しかもその上で、自分の立ち位置を修正するだけでなく、「もっとテンポを上げてボールを前に運ぼうよ」とか「相手がこうプレッシャーをかけてきたから、こういうポジションを取ろうよ」といった具合に、周りにメッセージも送れる。

上記の林さんの記事より引用


いくつか事例を挙げてみましたがどうでしょうか?

ぜひみなさんが「この選手サッカーIQ高いなぁ!」と感じるプレーや行動を思い返してみてください。たぶんその全てが戦略性の高さを感じるものなのではないでしょうか。

そもそもサッカーに限らず、日常の中で「この人賢いな!」と感じる人は、だいたい戦略的思考力の高い考え方や行動をしていると思います。


長くなってしまいましたが、最後に2つの補足を加えて、この記事を終わりたいと思います!


*補足1:サッカーIQを際立たせる『戦術理解度』

少し話が変わり、サッカーIQが高い選手の特徴として「戦術理解度が高い」という点もよく挙げられると思います。

戦術理解度が高い選手とは、チームとしてのやるべきことや、サッカーの原理原則などを深く理解している選手のことで、
例えば、「このような状況ではこうなる」「こういう時はこの解決策がセオリーだよね」といった、サッカーの本質的な理解を基にプレーができる選手のことだと思います。
つまり、端的に言えば、「サッカーを知っている/理解している選手」です。

そんな戦術理解度ですが、個人的にはサッカーIQの土台である戦略的思考力を補完する役割を果たしていると考えました。


例えば、『ボールを奪う』という場面で考えてみます。

まずチーム単位で考えると、「チームとして何を目的に、どこにボールを誘導させて、どのようにボールを奪いたいか」が明確で、それを事前に理解している選手ほど、
その時の状況を見ながら「今は、センターバックがボールを奪いやすくなるように、右側のコースを限定しながら寄せよう!」といった感じで、「今、何をするべきか」の判断がしやすくなる
と思います。

(上記のカンテ選手の事例がまさにそうで、本人の見極める目(戦略眼)と能力がすごいのは間違いないですが、まずチームとして『目的➡︎戦略➡︎戦術』が明確で規律があるからこそ、適切な状況判断がしやすく、個人の能力も大爆発しているんだと思います。)

上記の記事より引用


また、もっと局所的な状況でも同様です。
ある選手が『ボールを奪う』という目的を達成するために、「いつ足を出すべきか(あるいは、出さないべきか)」という戦略を練っているとします。
その際、選手が足を出すタイミングを見極める基準となるのは、「足を出すなら、相手がボールに触れた瞬間が効果的」といった(個人)戦術や原理原則によるものだと思います。

このように『戦術理解度(どれだけサッカーを理解しているか)』の高さが、サッカーIQ(戦略的思考)の質を高める重要な要素になると考えました。
(これは『状況把握力』『予測力』といった他の要素も同様です。詳しくは第3章で。)

「このような状況ではこうなる」ということをすでに知っていれば、決断の精度は高まります。そういう選手が「サッカーを知っている選手」であり、様々な状況に対する経験値を持ち、試合中の起こる問題に対してどのような反応が適しているかを選ぶことができる選手です。

『サッカーの新しい教科書』P.40

(※ここで重要なのが、「サッカーというスポーツや、試合中に起こっている現象をどう解釈しているか?」という点です。
例えば、最近注目されているバルセロナのハイラインですが、あれを「オフサイドトラップを仕掛けている」と解釈するか、「ボール周辺の状況を見ながら、陣形をコンパクトにするためにDFラインを押し上げている。(その結果として、オフサイドが取れている。)」と解釈するかで、『サッカーを理解している』ことの意味合いが全然変わると思います。
これは一例ですが、まずはサッカーを本質的に捉え直すことが重要だと思います。)
#僕自身も絶賛捉え直し中です


*補足2:『サッカーIQの”高さ”』とは?

ここまで色々な話をしてきましたが、『サッカーIQ”の高さ”』に関しては、考える力だけでなく、それをピッチ上で実行する力も含まれる点です

そもそも基礎技術が不足していたり、自分の体を思い通りに動かせず、頭で考えていることをピッチで表現することはできなければ、その選手に対してサッカーIQの高さは感じないと思います。

サッカー経験者であれば共感できると思いますが、ピッチの中と外では見ている景色も感覚が全然違います。どれだけ頭で理解していても、それをピッチで表現できるかは別の話であり、このギャップをどれだけ埋められるかも重要です。

そう考えると、『サッカーIQの高さ』をあえて定義づけるなら、以下のように整理できそうです。


つまり、サッカーIQを高めていくには、頭だけ鍛えればいいわけではなく、技術やフィジカル、メンタルなども同時に鍛えていくことで、より効果が最大化されていくことになると思います。

戦術が強くないとどれだけ素晴らしい戦略であっても目的が達成できない

『USJを劇的に変えた、たった一つの考え方』P.167


ちなみに、サッカーIQの高さは、周囲の影響によって変動することも忘れてはいけません。

相手によって自分の意図したプレーを崩されることがあるのはもちろんですが、味方選手から欲しくないタイミングでパスがきたり、自分が使いたいスペースをなんとなく動き回っている味方選手に潰されてしまうと、戦略は簡単に崩れてしまいます。もちろんこれは逆も然りです。

サッカーはチームスポーツであり、相手がいる以上、自分一人だけでプレーしている瞬間は存在しないと思います。
そのため、自分の『なんとなくしている行動』が味方に悪い影響を与えている。もしくは、相手に良い影響を与えている可能性がある
ことを忘れてはいけません。

あくまでもチーム全体としての『目的➡︎戦略➡︎戦術』がまず存在し、それに沿いながら個人として『目的➡︎戦略➡︎戦術』を試合中に微調整していくことが重要なんだと思います。

だからこそ、戦略的思考力(サッカーIQ)というのは一人ではなく、チーム全体として高めていくことが重要だと思いますし、
チーム全体としての目的や戦略が明確かつ適切で、「チームとして今何をするべきか」といった共通理解を持ち、規律があって同じ絵を描けているチームは、総じて強いんだと思います。
(逆にここが曖昧なチームは、攻守に渡って選手一人一人の動きがバラバラだったり、迷いながらプレーしている選手が多い印象を受けます。)

*戦略なきは『分散』、戦略ありきは『集中』
一人ひとりが一生懸命に努力したら、組織として十分な成果を発揮できるでしょうか。
努力だけでは不十分です。全体の方針が明確でなく、社員がバラバラに努力しても、なかなか成果にはつながりません。かえって、各人の考え方の相違により意見がぶつかり合い、消耗戦になることもしばしばです。
これは、戦略が不明確な場合によく見かけられます。

『戦略的な考え方が身につく本』P.22


ということで、少しずつ『サッカーIQ』という曖昧だったものの輪郭が見えてきたと思いますが、今回の記事はここで終わり。

ザックリとこの記事を要約すると、「曖昧に語られるサッカーIQって要するに戦略的思考力のことっぽくないですか?」という話でした。

この文章量の多さには戦略性のカケラもありませんが、ここまで脱落せずに読んでいただき誠にありがとうございました。笑
#こんな長文が読める13歳はたぶんいない

自分の立てた仮説をちゃんと証明できたのかは分かりませんが、
誠に勝手ながら第2章からは『サッカーIQ=戦略的思考力』ということを仮定した上で、色々なことを考察してみたいと思います!

ということで前置きが終わり、ここからが本題です!!


-第2章「そもそもなぜサッカーIQが大切なのか?」に続く-


#下澤悠太
#13歳からのサッカーIQ

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