国内外の選手登録及び移籍ルールに関するGPTを開発しました
この度、ChatGPTのGPTs(カスタムGPT)を活用して、国内外のサッカー選手登録及び移籍ルールに関するチャットボットを開発しました。
サービスの概要
今回開発したチャットボットは下記2つのGPTです。
①JFA規約を学習したGPT "JPN FOOTBALL TRANSFER MASTER"
②FIFA規約を学習したGPT "RSTP MASTER"
上記のGPTはいずれも、事前に対象となる各地域をカバーする規約を知識(knowledge)として学習させ、所定の指示・プロンプトを設定しています。そうすることで、一般的なカスタマイズされていないChatGPTでは得られにくい専門的な問い合わせについて、精度が「多少は」高まった回答ができるようになっています。
具体的には、それぞれ以下の公開資料を学習させています。アウトプットとして、ユーザーの質問に対して該当する出所と該当条文を明示しながら、AIとしての解釈を回答します。
※いずれも2024年9月1日時点での最新版のみを学習させています。
開発の背景
強化部スタッフ、プロ選手、エージェントなど、選手契約や移籍契約に関わる方々が、契約法務に対する心理的なハードルや抵抗感を軽減することができるように、スポーツ法務の専門家に質問するより気軽かつ高頻度に規約を参照できるような状況を作りたかったためです。
私自身、強化部で契約業務を管轄していた頃は、日々の編成上の方針検討や契約締結などに際して必要な規約の解釈について、顧問弁護士に確認する以前にまずは自らの解釈を持ち、対応方針を決めた上で必要に応じて専門家に確認するという進め方をしていました。スピード感を考慮しても、多忙な先様のご負担を考慮しても、何でもかんでも専門家に確認するのではなく、自分で解決できることはクイックに解決し、自分では自信をもって判断を下せないことについてはご知見を拝借するといったような具合です。
その際に、当然にまずはJFAやFIFAの各種規約を参照するのですが、特にFIFAの国際移籍ルール(通称「RSTP」)とその判例集(「Commentary」)は量が膨大であり内容を把握しきれないため、解消したい疑問に該当する条文やページを特定することすら相当骨が折れました。ChatGPTやCopilotなどの生成AIが市民権を得てからは、内容によっては該当箇所をAIに質問できるようになり、確かに作業が簡潔になったところは多少ありました。一方で、少しでも複雑度が増した質問に対しては適切な回答がもらえなかったり、質問の度に回答結果の質にバラつきがあったりと、一般的な生成AIの限界も感じていました。
そこで、自分自身の都合は言わずもがな、せっかくならばサッカーの契約法務に関与する全ての方々にも業務効率化とレベルアップの機会を少しでもご提供できるよう、事前に規約を学習させ出力形式もカスタマイズしたGPTを開発・公開するに至りました。
利用上の注意
生成AIはあたかも真実であるかのように平然と嘘をつきます。本GPTも同様であり、100%信頼できるものではないことを断言します。あくまで、各規約について該当する条文を特定した上で、ご自身で解釈をブラッシュアップする目的に限ってご利用ください。当然ながら、条文を特定した上でご自身で解釈しきれない事項については、必ずスポーツ法務の専門家に正しい解釈を相談するようにしてください。(※本GPTの100%正しくない回答のみに頼ってしまい何かしらの損害を被ってしまわれた場合でも、当方では責任を負いかねますので、十分にご理解された上でご利用ください)
一例を挙げます。ある選手の国際移籍に関して移籍先クラブとの合意書を締結する際、移籍金の他にTraining Compensation(TC)に関する取り扱いを移籍合意書に別途明示しなかった場合、移籍先クラブからは本国際移籍においてはTCが「移籍金に含まれる」ものと解釈されてしまいます。たとえクラブと選手との契約においてはTCが「移籍金に含まれない」と明示されていたとしてもです。これはRSTP「Commentary」の「Chapter Vlll Annexe 4 Article 2 bケース」(P371)に明記されており、サッカー紛争解決室(Dispute Resolution Chamber、通称「DRC」)が下した判例として明示されています。
試しにこの度開発した「RSTP MASTER」に上記に関連する質問をしてみると、質問の仕方によって180°意味が異なる回答が提示されました。
「ある選手の国際移籍に際して、移籍先との移籍合意書の中に、トレーニングコンペンセーションに関する記述を明記しなかった場合、それは移籍金に含まれるものと解釈されてしまうのでしょうか。」と聞くと、「FIFAの規則では、移籍合意書にトレーニングコンペンセーションに関する特定の言及がない場合、それが移籍金に自動的に含まれるとは明記されていません。」と判例とは全く異なる解釈が回答されます。また、引用元を見ると、回答の作成にあたりAIが「Commentary」を参照していないことが分かります。
一方で、「ある選手の国際移籍に際して、移籍先との移籍合意書の中に、トレーニングコンペンセーションに関する記述を明記しなかった場合、それは移籍金に含まれるものと解釈されてしまうとCommentaryに記載がありますが、そのように解釈すべきでしょうか。」と聞くと、「合意書にトレーニングコンペンセーションが別途支払われる旨を明示しない場合、自動的に移籍金に含まれているものと解釈されることになります 。」と判例通りの解釈が提示されました。また、引用元についても、「Commentary」の「Chapter Vlll Annexe 4 Article 2」から正しく引用していることが分かります。
後者の質問は本事例に関する判例が「Commentary」に明記されていることを事前に理解していなくてはできない質問であり、このような質問方法は本GPTの利用目的(=専門家に頼る前のクイックレファレンス)にはそぐわないものでしょう。※「Commentary」への明記、すなわち「DRC」での判例を必ず参照したい場合は、その旨をプロンプトとして指定することで、幸運にも該当条文に遭遇するという質問の仕方は試してみる価値はあるかもしれません。
上記の通り、精度が不完全であることを前提に、あくまでクイックレファレンスとしてご利用いただければ、ある程度役に立つカスタマイズができているかと思います。ぜひ皆様も適切な回答が得られるような質問を試してみて、これら2つのGPTを契約業務の場で有効にご活用いただければ幸いです。
※そして、よい回答が得られる質問やプロンプトの形式が見つかれば、ぜひフィードバックください