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2024年10月に読んで面白かった本5選
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10月の本5選
ヨハン・ノルベリ『資本主義が人類最高の発明である』News Picks Publishing
資本主義がテーマで、翻訳が山形浩生という最高タッグの本。問題は、反・資本主義を自称する自分にとってどこまで許容できる内容なのかというところ。結論、かなり説得されてしまった部分が大きい。最近特に、インパクト投資やソーシャルビジネスにかなり関心と期待を個人的に高めているのも影響していると思う。
本書はつまるところ、手放しで資本主義がいいんだ!だから加速させよう!という本ではない。むしろ、かなり資本主義批判に対する再批判を丁寧に行っているという印象。とは言え、特に社会学界隈の人や諸格差問題の実践領域に身を置いている人からすると到底承服できない話でもあると思う。
ゴリッゴリの非営利領域で汗水流しても目の前の人がそう大きくは変わらない現実の一方で、そこに経済的な価値が発見されると一気に市場が形成されて莫大な金額が流入し、技術の研究開発が進むだけでなく、人材も獲得できていっている様を見ると、資本主義を捨ててしまうことのデメリットを強く感じてしまう。
これを読んですっかり反資本主義、いかに資本主義を終わらせるか?ということよりも、より倫理的な資本主義、倫理的な資本市場を形成することが可能か?について考えるようになるくらい、思考の根幹を問われた感がある。
とは言え、前述のように手放しで資本主義が良いものであるとは思えない。そこでマルクス・ガブリエルの「倫理資本主義」のアイデアは使えないか?というのが目下の関心。つまり、限りなく倫理的・道徳的な資本主義は可能なのでは?ということ。それはもはや柄谷行人が言うところの交換様式Dなのではという気もしなくはない。いずれにしてもNews Picks Publishingの経済系の本では久しぶりにまともなものという印象。
高橋幸・永田夏来『恋愛社会学』ナカニシヤ出版
この本は俗物的な「〇〇社会学」でない本なのでまずは安心してほしい。そしてもし、俗物的な「〇〇社会学」の文脈が通じないのであればこの本を読む前に他に読んだ方がいい本が無限にあるのでスキップしてほしい。
ということで現代社会における恋愛の有り様を社会学的なアプローチから記述している本。見た目のかわいさとタイトルのなんとなくのゆるさとは裏腹に、第1章のタイトルは「近代社会における恋愛の社会的機能」である。社会学徒ならすぐに気づくように、このタイトルに既に社会学用語が2つ紛れている。「近代社会」と「社会的機能」だ。いつまでが近代なのかという議論もあるし、後期近代とか、ポストモダンということもあるが、この近代社会と社会的機能から出てくる社会学者はあのニクラス・ルーマンである。なんと1章から恋愛の機能分析が行われる。この内容については曲がりなりにも卒論でルーマンの学説について取り扱って大学院にまで行っている自分としてはそのすべてをはいはいと受け入れることはやや困難さが残るが、それでもこうした真正面から恋愛の持つ機能の検討が行われるほどに真面目な本である。
他にも、マッチングアプリや同性愛、若者向け雑誌の言説分析など、様々な視点から現代における恋愛の様相が検討されている。しかし、こういう本を読めば読むほど、恋愛から後退するような気がしてならない。
マルク・レビンソン『コンテナ物語』日経BP
ずーっとコンテナ貨物のように積読にしていた一冊。映画「ラストマイル」を観て物流への関心がガッと高まった時に他の本と一緒に読んだら面白すぎてびっくり。
「物語」とあるように、コンテナの誕生、コンテナによる輸送がどのような歴史を辿ってきたのかがストーリーテリングのような形式で書かれている。見た目のハードさ(結構分厚い)に比べて中は相当読みやすい。
今でこそ、コンテナに積んで輸送するのなんて当たり前じゃんの世界だが、ここに来るまでに本当に色んな人たちの苦労やアイデアが実って今の方式になっていることへの感動が凄い。港同士の攻防もリアルで面白かった。
知り合いの海運会社の人も面白かったと言ってたので業界関係者的にもそれなりに納得できるくらい緻密にまとめられている一冊と言えるのでは。
とりあえずラストマイルを観れば読みたくなるのでお試しあれ。
村上春樹『ノルウェイの森』講談社
読んできた村上春樹作品の中でトップ3に入る面白さだった。『1Q84』にやや新海誠みを感じてしんどさがあった分、凄く面白かった。ちょうどこれを読み終わった頃に”インターネット”(Xのことである)では「村上春樹は気持ち悪い」というクソほどどうでもいい議論とも言えない、話題が盛り上がっていた。ごくごく簡単に言えば、性描写の多さや、作品内ので女性の描かれ方、扱われ方についての問題提起であったと言える。
しかし、自分はどの村上春樹作品を読んでも、主人公をかわいそうだと思う部分がある。直感的な、極めて感覚的で肉体的な営みによってしか、自分を肯定し、その存在に意味づけすることができないように見えてならないからだ。これはもちろん前述のような批判に応えるものでは必ずしもない。確かに、ここまで性描写が多いのは村上春樹か、前半3作のミッション・インポッシブルか、007くらいであろう。
シャノン・マターン『スマートシティはなぜ失敗するのか』早川書房
タイトルの通り、世界中で進行するスマートシティがなぜ上手くいかないかを人類学の視点から考えるという一冊。スマートシティの歴史・思想的な背景からしっかり振り返りながら、近年のスマートシティプロジェクトの問題点を突く。
批判は最終的に「都市はコンピュータではない」という点に収斂するように思う。スマートシティは人間の合理的な行動を促進し、ある意味都市全体を「広告都市」としてブランド化する試みであるのだけども、そこまで人間の行動原理は単純ではないし、むしろそれは「スマート」ではないのでは?という次第。
この批判の構造が何かに似ているなと思ったらデジタル民主主義の議論とパラレルなように感じた。スマートシティにおける建築家がデジタル民主主義におけるテクノロジストと考えると分かりやすい。そもそもどういう了見でその人に都市・民主主義を設計する権利があるのか。また、どちらも専門家であってゼネラリストではないのでその人らだけの意見だけで物事は進むべきではないのだが、持ち前のブランディング力と界隈のサポーターによってまるで大層なことができるかのように話が進んでいく。
しかし、スマートシティにしても、デジタル民主主義にしてもまだまだ「失敗」といえるほどトライもできていないと言ってよい。だから、おそらく失敗はするのだけど、日本で言う「スマートシティ」はコンパクトシティみたいな含意もあり(むしろその文脈?)、実際に上手くいっている事例も各地にある。だから、それこそ人類学的な現地調査、社会学的な批判展開、情報領域、建築・都市デザインなど様々な分野の知見を入れながら進めていくことが重要なんだろうという凡庸な学びを得た。
割と薄いし、「ダッシュボードの歴史」とかは普通に面白いのでおすすめ。
おまけ
R・ハルワニ『愛・セックス・結婚の哲学』名古屋大学出版会
分厚い!それも2段組という地獄みたいな本。タイトルの通り、愛・セックス・結婚について哲学的な考察を行っている本。愛とセックスだけざっと読んだ。
なんだろう、こういうの読む人って愛やセックスに難しさを感じる人なんだろうなと思う。愛の不可能性、つまり自分がどれだけある他者を愛していて、それを伝えていても、ルーマン的なコミュニケーションの意味におけるコミュニケーションにおいて、それは異なる形で他者に理解されることもある。しかしそれでもコミュニケーションは持続してしまうので、当人はそこに愛がなかったことに”偶然”気づくと絶望すると。でもそもそもこの絶望の経験はまさに近代、あるいは後期近代に特有のものであるよねーというのが通説。
でも、こんな小難しい本を読んでいても愛は分かるわけがなく、むしろ愛についてのbook smartほど空虚なものはない気がする。そして僕はこの前、3ヶ月以上彼氏と続いたことがないという女性に村上春樹の小説を参照しながら頭で考えてないで自分を愛し、他者を愛し、愛に傷つきなさいという気持ち悪いコメントをした。
でも、今自分が他者を愛しているとして、その愛はいかなるものなのか、そしてそれはどう考えるべきなのか?について、凄く言語として腹落ちする一冊。
愛の哲学という意味では最近読んだこれも面白かった。
Ryan Stringer, 2024, "How will i know if he really loves me? Toward an epistemology of love," 'The Philosophical Forum,' 55(3): 271-292.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/phil.12371
渡邉雅子『論理的思考とは何か』岩波書店
既に『「論理的思考」の社会的構築』や『「論理的思考」の文化的構築』で知られる著者による2冊の入門編的な一冊。この本でロジカルシンキングを磨こうとする人は一度立ち止まってほしい。この本はむしろ、その「ロジカルシンキング」なるものがいかなる「ロジカルさ」を重視するものなのかを問うている。
つまり、論理的思考とは社会や文化によって全く異なるものであるというのが本書の重要な主張の1つ。面白かったのは、自称インテリと海外出身でなぜか日本の教育に執拗にキレている人らによって批判される日本の国語教育も実は、かなり論理的な作り方になっているよという話。それが「社会にとって本当に良いか」は別として、それが論理的じゃないというのはある意味で、アメリカン・スタンダードの強要かもしれないという点は考えるべきだろう。
その上で僕は、「お前のロジカルは何に基づいてる?」を流行らせたい。
渡邉雅子『論理的思考とは何か』岩波新書 が読みやすくて面白かった。ちょうどゼミで専攻による格差認識の違いの議論が出たところでそれともリンクして読めた。
— Yutaro Euro UENO (@yutaro_0518) October 30, 2024
「お前のロジカルは何に基づいてる?」を流行らせたい。 pic.twitter.com/hYhYb6VXtL