ブランドとしての正しいあり方
とあるブランドの販売員と話した内容が印象深かった。
それは昨年ちょっとしたことで少しだけ“バズった”ブランドなのだが、ただその“バズり”も、ブランド側の意図とは関係のないところで“起こってしまった”だった。
「正直、怖いです」
ポップアップ等で何度も会っているうちに顔馴染みになったその販売員がそう口にした。
「去年はバズったこともあって、新鮮味をもって受け止めてもらえたと思うんです。だから接客中も、すごく売れている感触がありました。ただ今年はそんなに大きなニュースもないから、去年と比べるとやっぱりだいぶ落ちました。それは数字の面でも、私の感触の面でもそうです。お客さんの反応も少し飽きてきている印象です。このままだと来年以降、ダラダラと下がり続けていくような気がするんですよね」
経営に深く関与しているわけでもない彼女ができることは店頭での接客を頑張る程度、ということもあり、より不安も大きくなるのだろう。気持ちはよくわかる。
とにかく一時的なバズを生み出し“バッと売ってパッと散る”ような、“瞬間最大風速型”のブランドにおいては、バズらせた後に人気が後退することも織り込み済みだろうが、先の販売員のいるブランドはその手のブランドとは対極に位置している。先述の通り、ブランドの意向により生まれたバズではないので、よりもどかしいのだろうと想像する。このような“バズり”に代表されるような外からの力はブランド側ではどうしてもコントロールできないので、難しいところだ。
伊勢丹新宿店での「サロンドパルファン」にçanomaが出展したのは今年で3度目となった。年々商品数は増えているし、認知も拡大しているはずなので、ブランドとしては成長しているといえる一方で、この3回で大きく売上が伸びたということはない。おおまかにいうとあまり変わらない、といったところだろうか。もちろん、下がったわけでもないのだが。
店頭に立っている感覚としては、回を重ねるごとにお客さんの反応はよくなっている。特に今年の新作「10-20 蜻蛉」(ちなみに「蜻蛉」はここではカゲロウと読みます)はçanomaを知らなかった人にも評価していただいた印象がある。あとは年々リピーターの率も増えているのも、ブランドとしてはいい傾向だろう。
そういう状況でありながら売上が昨年や一昨年と比べて大きく伸びていない背景はあれこれあろうが、一番大きいのはçanomaの接客スタイルでは今の売上で既にある程度の「限界」に到達しているということなのではないか、と思っている。ブランド力ではなく香りが好きかどうかで購入してもらおうとすると、どうしても好みの香りの有無に購買は左右されるし、選ぶ側のお客さんとしてもブランド名等での判断ができない分より難しい判断が求められることになる。
香りを試した人のうちの購入割合、つまり「打率」を上げることに関しても注意が必要だ。そもそも「誰もが好きな香り」はキャラクターのなくつまらない「誰も興味のない香り」になってしまうし、だからといってキャラクターの強いものを作ると門戸を狭めてしまう。ちょうどいい塩梅のニッチさ及びマスさ、というのが求められるのだ。
また、スタッフを増やして接客の人数を多くするというのも、実質的にはあまり売上にはつながらないような気がする。今回少ない人数での対応とはなったものの、ブランドに興味を持ってくれた人にはある程度対応できたような印象を受けた。
結局、もしこの接客スタイルを貫きながら全体の売上を伸ばそうとするならば、客単価を上げること以外の施策はないように思料する。ただ残念ながら、それは私のやりたいこととはちょっと違う。
ということはつまり、çanomaとしてのあり方は、このままの売上を維持していく、というのが正しいだろう。売上を伸ばして大きくすることだけが正解ではない。ブランドごとに、「正しいあり方」というのはそれぞれであるはずで、それがçanomaにおいては、ある程度の時間をかけて丁寧に接客し納得してもらった上で買う買わないを判断してもらう、という、“地道なスタイル”をとっている以上、売上を追求しない、ということになってくるのだろう。
「サロンドパルファン」3年目でようやくその気づきを得ることができた。私にとっては目から鱗だった。ブランドとして、今後やるべきことが明確になったように思う。
そんなわけでこれからも、çanomaは粛々と、目の前にいるお客さんに懇々と説明するスタイルをとり続けるのです。
この三連休は名古屋ラシックの「サロンドパルファン」の店頭にいます。11時の開店から21時の閉店までいるので、ぜひ会いにきてください。
待ってます。
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