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本当のデザインは流行と戦うところにある。

「売上はお客様からの評価だと、弊社では考えております」

とあるミーティングでこんな発言が出た。小売業界に身を置く発言主が実際にそう信じているのかどうかはよくわからなかったが、少なくともその会社においてはそれをひとつの“共通認識”としている、ということのようだった。

その考えに則れば、売上が大きければ大きいほど、お客さんから高く評価されている、ということになる。ということは当然だが、売上を最大化することをいかなる時でも目指すべきである、と考えていることになる。それはきっと、ある側面から見ると正しい。特にこの資本主義社会においては、「売上こそが正義」という発想は歓迎される節すらある。

上記発言に、私自身は首肯こそしないものの、一方で批判も否定もするつもりはない。私は小売よりもものづくり寄りにいるので、小売がどういった哲学を持って仕事をするべきかについては、あまり明るくないのだ。

ただし、「ある側面から見ると正しい」ものは、往々にして全体から眺めると間違っている。先の発言は一部の小売にとっては正しい考え方かもしれないが、もう少し広い、「ものを作って売る」、つまりものづくりまで包含した、川上から川下までをひとつの大きなが流れと捉える立場から見ると、ただ闇雲に大きな売上を追求することが正しいとは言えないはずだ。

特に、「ものづくり」的な発想では「いいもの」と「売れるもの」には本来多かれ少なかれ乖離があるはずなのに、それを混同する傾向が昨今強くなっているように感じる。これは小売側の力学が強く働いていることに加え、SNS等で“バズる”ことが“当たり前”になってきていることも無関係ではないように思料する。「派手さ」を持っているものがより売れやすくなることで、消費者側も、わかりやすく、かつ流行っているものこそが「いいもの」だと認識してしまっているのだろう。その認識が、ものづくりの側にまで無視できない影響を与えているのだ。

また、それに伴って、オーセンティックで権威のあるものの力が弱くなっているのも感じる。「もの」からは少し離れるが、わかりやすい例を上げると、ミシュランガイドが持っていた権威が、食べログやGoogleマップの口コミに移譲され、今日ではInstagram上での“映え”や“バズ”がそれに取って代わっている、と言ったようなことが、あちこちで起こっているのだ。もちろんネット上の口コミや“映え”、“バズ”を一括りに悪いというつもりはないし、同時に権威のあるものが一にも二にも正しいとも思っていないが、体系だっていない評価があまりにも力を持つことに些か不安を覚えるのは私だけではないはずだ。それはいわゆる「ポピュリズム」になりかねない。


冒頭の発言は、「ものを作って売る」という一連の流れにおける、一番川下の「売る」部分にフォーカスした人々の考えとしては間違っていないのだろうが、その力が強くなりすぎると、本来川上の方にいる人たちが考えなければならない「いいものづくり」が蔑ろになってしまう。さらに、昨今のようにマスが大きな力を持っていると、小売側もそれに引っ張られ、派手でわかりやすいものや売り方に頼っていくことになってしまう。そしてそれが、川上のあり方にも大きな影響を与えてしまうのだ。


ミーティングを終えた後、私は冒頭の発言を反芻していた。反芻しながら、小売には小売の哲学があるからこそ、そういった発言が出たのだろうが、だからこそ、ものづくりの側はものづくりとしての哲学をもっと大切にしなければならないのではないか、そして今日において、ものづくりが小売やマスの力に押され、その哲学を放棄しかけているのではないか…という危機感を抱くに至った。

考えすぎなのかもしれないが…


ところで、今私は出張先の金沢のホテルにてこの記事を執筆している。今年最後の出張は、トラブル対応という残念ながらあまりポジティブではない内容だった。

購入した資材が全て不良品だったのだ。それがどういう状態で輸送されてきたのかを確認するために工場まで赴いた。工場の荷受け担当の方々も、「ここまで酷い不良は私たちも見たことがありません…」と口にした。

今後の対応について確認し工場を後にした。その後、落ち込みながら金沢の街を少し歩いていると、「柳宗理記念デザイン研究所」の前をたまたま通りかかった。そんなものがあることすら知らなかったが、無料の展示をしていたので、とりあえず入ってみることにした。


そこで出会ったいくつかの言葉を、ここに記して今日は筆を置くことにする。とても勇気をもらった。

「柳宗理記念デザイン研究所」にて

よく売れるものは良いデザインであるとは必ずしも言えない。
また、良いデザインは必ずしもよく売れるとは限らない。

良いデザインは優れたデザイナーのみでは生まれ得ない。

本当のデザインは流行と戦うところにある。

伝統は創造のためにある。伝統と創造を持たないデザインはあり得ない。

デザインは社会問題である。

「柳宗理記念デザイン研究所」


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