伊勢に2度行く(中編)
(前回からの続き)
20時09分
到着予定時刻から2分遅れでの到着。帰りの電車までの9分あった猶予はこれで7分になる。まぁいい、やってやろうじゃないか。駐車場まで戻る、車を開けてスマートフォンとカメラを取る、閉める、駅に戻る。うん、5分もあればきっと十分。
電車の扉が開くと、ありがたいことにすぐ目の前が改札だった。神様は味方してくれている。
20時10分
走って車の前まで到着した。この距離なら帰りも問題なさそうだ。
車に会員カードをかざす。
あれ…?開かないぞ…
何度やってもうんともすんともいわない。どうしたのだろう?
タイムズカーシェアのアプリを見てみると、私が予約したのは、その日の午後に借りたものとは違う車だった。その予約を解除して、新たに予約を入れようとするも、私のスマートフォンとカメラが中に入っている車は予約できない。
もうこの頃には予定していた20時16分の電車で帰るのは諦めていた。私はフランスのSIMカードが入っている電話の機内モードを解除し、タイムズカーシェアの問い合わせ窓口に電話をかけようとした。
海外の番号からは、フリーダイヤルにかけられなかった。
20時16分
本当ならば電車に乗っていたはずのこの時間、私は駅前の公衆電話の中にいた。電話をかけるための小銭がなかったので、近くの自動販売機で炭酸水を購入してお金を崩した。線路からは私が意気揚々と乗るはずだった電車が非情な響きと共に発車した。
電話に出てくれた方は状況をすぐに理解し、テキパキと対応してくれた。どうやら誰か違う人の予約が入っているが、その人がまだ車を使っていない状況だったようだ。あとは遠隔で解錠してもらうだけ、というタイミングで、こう尋ねられた。
「渡辺様は今お車の前にいらっしゃいますか?」
私は車から走って30秒ほどの公衆電話の中にいた。そのことを告げると、
「防犯上の観点から、車の前でかけていただかないと解錠できません」
それであれば、フリーダイヤル以外の番号であればこちらからかけられる、と提案するも、タイムズカーシェアの電話番号はフリーダイヤルしかない、とのことだった。
あとちょっとだったのに…
私は何か解決法を考える、とだけ告げて、文字通り受話器を置いた。とりあえずまた駐車場に戻ることにした。
20時21分
とぼとぼと駐車場に戻ると、車を掃除しているひとりの中年男性が。意を決して話しかける。
「あの…大変申し訳ないのですが、携帯電話を貸していただくことはできませんか…?」
簡単に事情を説明すると、どうやらその方はタイムズカーシェアの仕事を請け負っているようで、その方が直接電話をかけてくれた。
そこからはスムーズだった。簡単な本人確認の後に解錠。スマートフォンとカメラは、どうやったら私たちを忘れることができるの?という顔で、助手席のど真ん中で怒っていた。私も、どうやったらふたりを、しかもそんなわかりやすい場所にいらっしゃるふたりを忘れて立ち去ることができるのか、理解ができない。
自分が、わからない…
携帯電話を貸してくれた男性にお礼をいい、少しお金を渡したかったのだが固辞された。改めてお礼をいい、駅に向かった。
20時38分
前の電車の特急券の払い戻しができるのか尋ねたかったが、伊勢市駅の窓口は20時半で閉まっていた。追加の特急券は駅のホームの自動券売機で買わなければならないようだ。
次の電車は21時16分。さてどうしよう。
どこかで夕飯でも食べようかとも思ったが、伊勢市駅の近鉄側にはレストランどころかコンビニすらなかった。JR側に行けばあれこれあったのかもしれないが、それには30分というのは中途半端だったし、それをするには私は疲れ過ぎていた。ホームに向かい、ベンチに座り、公衆電話を使うために買った炭酸水を飲み干した。名古屋で泊まるホテルを予約して、名古屋までの特急券を買った。
20時51分
電車が来るまであと少し時間がある。私はやおらnoteの記事の執筆を開始した。まさに今皆様が読んでいるこの記事は、伊勢市駅のホームで書き始められた。ちなみに今は近鉄特急の中で、ちょうど中川駅に着いたところだ。アイドルグループの音楽を爆音で聴いていたおじさんが降りていったあの駅だ(前編参照)。
こんなふうに、時間があくとnoteを書くというのはもはや病気だろう。盆も正月も、母が死んだその日でさえも、私はnoteを書いた。4年と3ヶ月、毎日。これはいつまで続くのだろう。
21時16分
到着した電車に乗り込む。涼しい。
近鉄特急の車内は綺麗で、コンセントもある。電子機器を充電しながら、私はnoteを書き続けた。
文章を書くのは好きだが、才能はないような気がしている。全然書けなくて中途半端なものを出してしまう日も多い。
私にはどんな才能があるのだろうか。才能なんて、何もないのではないだろうか。
何もできずにおっちょこちょいで、人に迷惑をかけてばかりいる自分に嫌気がさすことがある。伊勢神宮にお参りした後の私は、そんな私の悪いところが凝縮されたような私だった。
斜め後ろでは、コンビニで買ったと思われるサンドイッチを食べる中年男性。私も少し頑張って、コンビニまで行けばよかったな…
お腹、減ったな…
(後編に続く)
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