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月曜始まりのカレンダーはどこへ
朝起きたら左肩から背中にかけて痛みを感じた。ひどく寝違えたようだ。
昨晩はなぜだか疲れ果てていて、気がついたら眠ってしまっていた。日中は3匹の猫を見倣って家でダラダラ過ごしていたのに、なぜあんなにも眠かったのだろう。不思議でならない。私も猫になってしまったのだろうか。
パリ滞在最後の1週間となった。出国自体は来週の火曜日だが、今週は日曜日まで予定が詰まっているので、来週月曜は出国準備と部屋の片付け、お土産の買い物で終わってしまうだろう。
今週月曜と火曜は自分の仕事の間にアテンドが入り、水曜から金曜までがミラノ。ミラノでは少しのんびり観光の予定だったが、結局あちこち行かなければならなくなった。いつもこうなのだ。予定というのは直前に、雨後の筍のように生えてくる。そして土曜は調香師との最後のミーティングで、日曜はまた別のアテンドがある。
こんな感じで今週は、早朝から遅い時間まで毎日走り回ることだろう。きっと疲れ果てて、東京へ帰るフライトでは爆睡できるはず。
ところで、「1週間の始まりは何曜日?」と尋ねられたら、何と回答すべきだろうか。
私は月曜日だと答える。私のスマートフォンやPCのカレンダーも月曜始まりだし、会話の中でも週をまたぐ際の区切りは日曜と月曜の間にあるという前提でいる。そもそも、フランスでは週の始まりは必ず月曜だ。
ただ、昔は日曜だと認識していたように記憶している。日月火水…と日曜から数えはじめていたし、幼少期に覚えた英語で曜日を数える歌もSundayから始まって“Sunday comes again”で終わっていた。
いつから月曜が週の始まりだと考えるようになったかについて、あまり記憶は定かではないのだが、就職後だったのではないかと思う。入社後上司に最初にお願いされたことは、常にチーム全員のスケジュールを把握しておくことだった。デスクのパソコンの2つのディスプレイの片方は、常に全員のスケジュールが掲載されたカレンダーが表示されていたが、それが月曜始まりだったのだ。毎日朝9時から夜中3時まで働いていたので、相当な時間その月曜始まりのカレンダーを、知らず知らずのうちに目にしていたことになる。そうやって私の中のカレンダーまで月曜始まりになったのだ。そしてもちろん、その後のフランス生活がカレンダーの月曜始まりを定着させたことは言うまでもない。
母の介護を私の家でしている際、母に壁掛けのカレンダーを買ってくるようにお願いされた。母は昔からカレンダーにスケジュールを書き込むのを習慣にしていたのだ。
2月中旬だったこともあり、1月始まりのカレンダーは限られていた。少ない選択肢の中で、とりあえずシンプルで書き込みがしやすいものをチョイスした。
家に帰って母からよく見える位置にカレンダーを掛けた。カレンダーが常に目に入るというのは、彼女をいささか安心させたようだった。
その日は訪問看護の看護師さんが来る予定になっていた。代々木病院からの訪問診療及び訪問看護にはとにかくとても助けられた。母は特に看護師さんの訪問を心から楽しみにしていたほどだ。
看護師さんと一緒に、カレンダーに訪問日を記入していると、看護師さんが違和感に気づいた。
「あれ…このカレンダー、月曜日から始まってる!」
私は特に何も考えることなく、月曜始まりのカレンダーを購入していた。一方で母と看護師さんにとっては、カレンダーは日曜始まりがスタンダードだったのだ。
「月曜始まりのカレンダーなんておかしいよー。ねぇ、そうですよねー」
母は笑いながら私を嗜めた。看護師さんも一緒になって笑った。
「フランス生活が長いもので…ついつい月曜始まりを選んでました」
私は看護師さんにそう釈明した。看護師さんは笑って、母と一緒に私をなじった。
その時はあまり深く考えなかったが、母にとってあの壁掛けのカレンダーはとても重要だったような気が、今朝、ふとしたのだ。カレンダーに几帳面に書かれた彼女のスケジュールは、彼女の人生そのものをよく表していたように思う。だからその壁にかけられた彼女にとっての最期のカレンダーは、彼女の人生のカウントダウンでもあったはずだ。2月上旬に余命2ヶ月を宣告された彼女は、めくられることのなかった3月のカレンダーのその先に、彼女の最期となる日を記そうとしたかもしれない。尤も、彼女がカレンダーに書き込めなくなるまでに、そう時間はかからなかったのだが。
いずれにしても、月曜はじまりのカレンダーを選んだことが、何か大きな過ちであったような気がした。今朝の寝違えと、何か関係があるのかもしれない。私は鎮痛剤を飲んで、そんな考えを払拭しようとした。
そういえば、あのカレンダーはどこにいったんだっけ。捨ててしまった記憶はないが、どこにも見当たらない。
もしかしたら、母が天国へと持っていってしまったのかもしれない。それならなおさら、日曜はじめのカレンダーを買うべきだった。少なくとも2023年末までは、彼女は「月曜始まりのカレンダー買ってきたんだよ、あの子ったら」と文句を言いながら、カレンダーにあれこれ書き込んでいたはずだ。
きっと、笑顔で。
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