
Good taste, ok. Bad taste, ok. But...
パリファッションウィーク期間中、何が一番大変だったか、と思い返してみたが、アテンドでの通訳や道案内ではなく、一日中フルで動きながら毎日noteに記事をアップすることだったかもしれない。
パリにくるフライトの中で2記事のストックを作ることができた。6日間のファッションウィークのバイイング同行が始まったのは到着の翌々日からだった。出勤と帰宅のメトロの中を主に使って大まかに記事を執筆しつつ、ショールームでの隙間時間を使って手直しをして投稿した。ストックの記事をうまく使ったことで、仕事に支障をきたすことなく、あと4ヶ月弱で5年間となる毎日投稿をなんとか継続することができた。ホッとしている。なんならいつもよりもクイックに記事を書くことができたような気がする。普段もこれくらいサクサク執筆できるといいのだが。
そんなわけで、これがファッションウィーク終了後に書き始めた最初の記事となる。前回のものも実は終了前から少しずつ執筆を開始していたのだ。忙しさから解放されたホッとした感じが行間から滲み出てはいないだろうか。
とはいいつつ、やはり書きたい内容はファッションウィークでの出来事となる。ここ最近の私の生活はそれ一色だったし、そこで受けた衝撃も大きかったのだ。同行は大変だったが、行ってよかったと思えた。
今シーズンからコレクションを発表する小さなイギリスのブランドのショールームを訪問した時のこと。それが今回最後のショールーム訪問だった。
まだ実物を目にしたことはなかったものの、バイヤーたちの期待値は非常に高かった。Instagram等で見る限り、派手さこそないが、生地のクオリティ、そしてオリジナリティは群を抜いていたのだ。
予定より少し早い時間にショールームに到着すると、まだ前のアポイントが終わっていないようだった。外で待っていると、私たちを見つけたデザイナーが徐に出てきてくれた。私たちの名前を告げると、挨拶も早々に、私たちが着ていた服を触り出した。
「これはどこのブランド?」
彼は私が着ていたジャケットの親指と人差し指で揉むように触りながら尋ねた。
Yuta Matsuokaという日本のブランドのものだ、というと、
「知ってるよ」
という答えが返ってきた。
大好きなブランドだが、まだ海外展開もほとんどしていないYuta Matsuokaのことを知っていることに私は驚いた。
「いい生地を作っているからね。俺は生地が好きなんだ」
一人称は「僕」でも「私」でもなく、彼の話し方には「俺」のニュアンスがあった。ただ、そこにはどこか上品さが漂っていた。多分彼のキャリアがそうさせていたのだろう。細かいことは書かないが、なかなか面白い経歴の持ち主だったのだ。
少し待って中に入った。服を見た瞬間、バイヤーたちは興奮した。コレクションは彼らの期待値を大きく超えるものだった。
デザイナーはわかりやすい英語で、ブランドの成り立ち、やりたいこと、デザインソースなどを時間をかけて説明してくれた。私たちはあれこれ試着しながらも興奮を隠せなかった。
ショールームの滞在時間は3時間にも及んだ。その間私たちは様々なことを語り合った。はじめて会ったのに、私たちはすぐに打ち解けあった。何がそうさせるのか、私にはよくわからなかった。デザイナーの性格なのかもしれないし、服を通してのコミュニケーションかもしれない。あるいは、デザイナーが巧みに計算をして、そういう雰囲気を醸成したのかもしれない。いずれにしても、訪れたショールームの中で、一番笑いに包まれた。
「Good taste, ok. Bad taste, ok. But...」
突然デザイナーがそんなことを口にした。「センスがいいのはいいことだ。センスが悪いのも問題ない」という主旨だ。
「No taste, bad thing」
センスがない、好みがないというのはよくないことだ、と言いたいのだろう。
「好きの反対は無関心」とはよく言うが、まさにそういうことなのだろう。彼は好みがないということに対して批判的であり、それはセンスが悪いこと以上によくないことだと考えている。
その批判の矛先は、一般の人に向いているとは思えない。きっとバイヤー、そして作り手に向けられているのだ。自身のセンスではなく、売れるかどうかという経済的な判断や、トレンドを追いかけるだけで自分がいないバイイングまたはクリエーションに、きっと嫌気がさしているのだろう。
ここ数日のnoteで、私はニッチフレグランスマーケットに対して批判的な言葉をいくつか投げかけたが、それはファッションウィークからの影響が大きい。ファッション業界には“No taste”のブランドも当然あるが、そうでないブランドがきちんと存在し、そしてそれらのブランドが一部からきちんと支持されているのを目の当たりにしたのだ。
今のニッチフレグランスはどういう状況であるか、ということを、作り手側は改めて認識し直すべきだと思う。
マーケット全体が、“No taste”にならないようにするために。
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