「世界観」と過不足のなさ
「世界観」という言葉がイマイチ好きになれない。
フレグランスブランドのファウンダーであることを知ると、「フレグランスって、世界観が大事だよね」と気軽に口にする人は少なくない。そう言いたくなる気持ちはわからないでもないが、「世界観」という言葉の意味するところをきちんと規定した上でその言葉を発している印象を受けたことは残念ながら一度もなかった。「世界観」という“それっぽい言葉”を使いながらも、実際のところは「わかりやすさ」とか「マスっぽさ」程度の意味合いでしかないのではないか、と常々感じていた。
ブランドにおける「世界観」とは何を意味するのだろうか。「そのブランドをわかりやすく伝えること」、つまりは「コンセプト」と同義で使われることが多々あるように思われるが、本当の意味はきっと違うのだろう。もっとブランドとしての哲学や思想といったことに近いはずだ。
あるいは、そもそも哲学も思想もない、表面的なコンセプトだけのブランドが増えているから、それに伴って「世界観」という言葉が表すものも空疎になっているのかもしれない。そうであるならば腑に落ちる。
この「世界観」という言葉、特に私が店舗について言及する際によく登場する。「いつかçanomaの店舗を作りたい」という主旨の発言に対して「店舗を持つのなら、世界観が伝わる空間にしなきゃね」というリアクションがしばしば返ってくるのだ。「世界観」そのものがピンときていない私は、それがどういう空間なのか全く見当がつかない。çanomaの「世界観」とは、もしそんなものがあるのならば、どんなものなのだろう。
ところで。
今日は新しくçanomaの取り扱いを開始してくれた「イッヒローマン」という福岡のサロンにてミーティングがあった。早い時間から開始されたミーティングだったが、あれこれ話していたらあっという間にランチの時間になってしまった。まだまだ話し足りないこともあったが、その後の用事もあったためとりあえずランチに向かうことにした。
高低差のある住宅街をふたりでてくてく。湿気を含んだ空気はようやく秋の色を帯びていた。雲が敷き詰められた低い空からはいつポツリと落ちてきてもおかしくない気配を感じた。
「本」
と書かれた、かまぼこ板のような表札が目に留まったのは、そこから漂う“ただならぬ雰囲気”のためだったのだろうか。住宅街に突如現れた、「店」と「露店」の中間のような「それ」に、私は強く惹かれた。
「イッヒローマン」のオーナーは、どうやら最初から私をそこへ連れていくつもりだったようだ。私たちは「それ」に入った。
車庫を改装して作られた「それ」の中は、外の風が入る構造ながらも暖かかった。狭いし天井も恐ろしく低いが、居心地は不思議と悪くない。洗練という言葉からは遠いかもしれないが、そこには間違いなく哲学や思想があった。少なくとも私にはそう感じられた。
「図書室 月桃」について、私もまだきちんと理解できていないので、気になる方はそちらに足を運んでいただくか、以下のnoteの記事を参考にしてほしい。
私はとにかく圧倒されてしまった。素晴らしい場所だと感じた。
その詳細については、正直うまく書くことができないが、なぜそのように感じたかについては、夜中にこうやって文章を認めながら、ようやくわかってきた気がした。
「過不足がない」のだ。
余計なものも、不足しているものもない。そこには「必要」のみがある。その必要が、本当の意味合いでの「世界観」を形作っているのだ。
「世界観」という言葉が好きになれなかった理由は、一般的に「世界観」と呼ばれているものが、装飾的な役割しか果たしていなかったからだと気づいた。本来は不必要だが、誤解を招く可能性が大いにあったとしてもわかりやすさを優先して付与されるものばかりだ、と私は感じているのだろう。
私がçanomaを立ち上げる際に、「ブランド名、香水名、ボトル、Eau de toiletteという表記…これらは本当に必要なのか?」という問いから考え始めたことをふと思い出した。だからçanomaは私が思う「必要」だけで構成されている。
シンプルであれ複雑であれ、それが「過不足のない」ものであれば、そこには必然的に哲学が、思想が反映される。私はそういうものに魅力を感じる。「図書室 月桃」はきっと、そういう場所なのだ。
また福岡に来たくなる理由が増えた。今日からそう離れていない日に、再び訪れることになるだろう。
1週間超の長い出張を終え、明日ようやく東京に戻る。寂しいような、ホッとするような、不思議な気持ちだ。
今から荷造り。明日は早起きしなければならない。もうすぐ深夜2時。どうやら寒い朝が待っているらしい。
今日はとてもいい1日だった。明日はもっと、素敵な日になりますように。
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