🍥なめことベーコンのおぺぺ🍥

腹がへった──というか、

ナニか──口にしたい、気もしなくもなくて、

できれば──ビールなんかも....あれば飲みたい、というか、

なんだか、言い淀んでしまう。
これは、奥歯にモノが挟まっているにちがいない。

この「モノ」は、フロスや楊枝で除去できる類のものでは──どうもなさそうだ。

ここは、ヌルッとヌメっとした──すべりのよさそうな食べものを口にいれて「挟まったモノ」をヌメり取るのが良いにちがいない。

それにしても──「ヌメり取る」という表現は、我ながら気持ちが悪い。酒に酔った狒々爺ひひじいが迫ってくるような不快な響きである。
「愛のヌメりとり」「ヌメり取れた哀しみへ」などと詩情を与えようとしても、趣を感じる間もなくヌルッとヌメり取られてしまう。ひるがえって、

脳髄のうずいをヌメり取る

ヌメり取られた臓腑はらわた

死霊のヌメり

Numery of the Dead

などと、不気味さ、薄気味の悪さを増幅ブーストさせる効果は大いにありそうなので、いつか書こうと思っているホラー小説で使おうかと思わなくもなくもないかもしれない。

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さて、ヌメる食材といえば枚挙にいとまないが、旬に左右されずにいつでも手に入る、となると、数は絞られてくるだろう。
なめこ、納豆あたりが、スーパーでいつでも売っている「二大ヌメり」と言っていいかと思うが、納豆に関してはヌメり、というよりは「ネバり」要素のほうが強い。

死霊のネバり

などと言われても、何にも怖くないし気味だって悪くない。

──ガンバレ死霊

──ドンマイ死霊

などといったシンパシーまで抱く始末である。

前置きが長くなってしまったが、奥歯に挟まったモノをヌメり取る食材は──群雄割拠のヌメり界を制したキング・オブ・ヌメヌメのなめこに決定した。

手薬煉ベーコン

「おれの出番はまだか」と、特性ベーコンが手薬煉てぐすねを引いて待っている。
ちょっと良さげなＥＸＶオリーブオイルも手に入れた。
酒盗もある。にんにくも、ハラペーニョも、大葉だってある。
アラ不思議──程よい太さの麺パスタもある。

これだけの材料があれば、甘く炊けた餡のおはぎを作ることができる。

嘘を──ついてしまった。

この材料でおはぎが出来あがるなんて、もう、なんだか──祟りとしか思えない。

さて、さっそくベーコンを弱火にかけると、じわじわと脂が融とけ滲んでくる。その脂でベーコンをじっくりと煮出し半ばカリカリの状態になったら、取りだしておく。

ベーコンから湧いた油脂も次に使うが、余分に出たものは取り除いておく。

続いて、ベーコンの油でなめこを焼きつけていく。かき混ぜてヌメヌメを楽しみたいのもヤマヤマ、つまりヌメヤマだが、香ばしいメイラード反応を引き出すためにそっとしておく。

別鍋にオリーブ油を注ぎ、にんにくとハラペーニョのみじん切りを弱火で煮出す。香りが立ってきたら酒盗を投入して少し火を強め、香ばしさを引き出す。

焼きつけたなめこが香ばしくなってきたら、別鍋で作ったソースを加えて鍋底の焦げをこそげるようにして混ぜていく。これは、ポトフの記事で説明したデグラッセという手法で、鍋底の旨味焦げスュックを煮溶かすことによって、料理に香ばしい深みを出すことができる。
今回はヌメりでスュックをこそげ落としたので、これを栃木は足利地方の方言でヌメラッセと言う。妙に信憑性があるが、デマ中のデマなので人に話すのは避けておこう。

先のヌメり覇権に敗れた納豆が不憫でならないので、ソースに加えてヌメネバっとネトネトさせ、パスタの茹で汁をひと回し加えて煮詰める。

ベーコンを戻し、やや硬めアルデンテにあげたパスタとソースをよく絡め、ブラックペッパーをたっぷりと挽き、ぺぺっと大葉を散らして完成だ。

ドゥクシとフォークを突き刺し巻きとる。ヌメりネバりの霊験はあらたかで、味の絡みかたが尋常ではない。フォークを中心に、とめどなく麺と具が集まってくるさまは、どこか事象の地平線ブラックホールを思わせた。

ぬらりと光るフォークの塊に興奮ムラムラを隠しきれずにフガフガと鼻息を猛らせながらかぶりつく。

──おお──これはいい....

予想を超える味わいに「まんが日本昔ばなし」と脳裏に浮かび、そして消えていった。人は驚くとまんが日本昔ばなしに帰着するものなのかもしれない。

蛇足だが、ムチン、ペクチン、コンドロイチンという、いわゆる３チンが、なめこを「ヌメらせる成分」と言われている。繰りかえし何度でも呟きたくなる語感だ。そして、「語尾をチンにすること」によって異様なまでに言葉が柔和になる、というアインシュタインもびっくりの特殊相対チン理論の発見があった。

天上天下唯我独てんじょうてんげゆいがどくチン

などと宣われても、「おう、気をつけて帰りや」と頭をポンポン撫でてやりたくなるし、

天網恢恢疎てんもうかいかいそにして漏もらチン

と言われたって、「なんやオムツぱんちくりんやんけ！おっちゃんが替えたるわ」などと世話のひとつでもしたくなるのが人情というものである。

忙しない日々のなかで、ついつい苛立ちトゲトゲしくなることは往々にしてある。そのチクチクと刺さって鬱陶しいそのトゲトゲにはチンをつけて祓っておこう。

その日は、眉間のシワも消え、笑顔で締めくくれることを保証しよう。

──なぜ──保証ができるかだって──？

なぜなら、４０年以上、ブラサゲチンで過ごしてきた私が──

──言うのだから。



おっと──奥歯に挟まったモノが取れたばかりか、口がヌメり滑って、止まらない。

などと、くだを巻きつつフォークに巻く麺は、あとも引くが糸も引くうまさなのだった。