はるかぜ
思い出の場所がある。
ボクが初めて1人で東京へ行った日、高速バスで降り立った「あざみ野」がその場所になる。
うろ覚えだけど、2月から3月にかけての肌寒さが残る季節。その肌寒さが春っぽい雰囲気に変わるとき。そんな感じの季節だった。
もう何年も前のことだから明確に何をしに出掛けたのかは忘れた。ただ、東京に行きたくてウズウズしていたことだけは覚えてる。
誰にも邪魔されず、誰かの指示でもなく、全て自分自身の意志と決断で動いた。
その時に聴いていた欅坂46の二人セゾンは今でもあの時を鮮明に思い出させてくれる。
寒くて冷たい空気を肺に送り込むたび、自分が今どこに立ち、何を考えているのかをハッキリと認識させてくれた。
同時に春の笑うような気温、温度。
朝方の4時ごろに起き、静岡駅を出発の高速バスで出た。
途中の海老名サービスエリアに着くまで空を飛んでいるような気分だった。
”二人セゾン
二人セゾン
秋冬で去って行く
一緒に過ごした季節よ
後悔はしてないか?”
海老名サービスエリアに着くと、目的地の東京方面から山の間をぬって、眩しい光を放ちながら朝日が顔を出し始めていた。
「あぁ、やっとココまで来たんだ。ココまで来れるんだ。」
冬空は何も邪魔をさせず、なにもかもくっきりと映し出す。
バス停をあざみ野で降り、自分の足で一歩一歩、冬のコンクリートの上を歩く自分。その度にソコにいる自分を実感することができた。
”道端咲いてる雑草にも
名前があるなんて忘れてた
気づかれず踏まれても
悲鳴を上げない存在”
まだ早い朝、車の通りも少ない。道端の草木は枯れている。近づくとほんの少しだけ蕾を認識することができる。
予感がする、何かが起こる予感。
大げさなくらいじゃないと伝わらないあの感覚は確かにあった。
きっとまたここに戻ってくる。
今も変わらずその感覚は胸の中で燃えている。
いつしか「戻る」から「住みたい」に変わった。それほど東京という土地はボクを貪欲にさせたと思う。
東京がボクにとっての一つの目標になった。目指すモノになった。
”太陽が戻って来るまでに
大切な人ときっと出会える
見過ごしちゃもったいない
愛を拒否しないで”
それからは毎年、夏も秋も東京に通った。展覧会、知人、目的は違ったけれど、目標はただ一つ。
第二の拠点を東京に変える。
最初は無我夢中で、ソロバンを弾けずに【ただ東京に行きたい】が先行してしまっていた。
何年かする内に落ち着き、冷静に自分が何をしたいか、どんなことを東京に求めているのかが分かっていった。
迷わなくなったおかげでより一層にやるべきこと、成し遂げたいことが増えた。
”花のない桜を見上げて
満開の日を想ったことはあったか?
想像しなきゃ
夢は見られない
心の窓
春夏秋冬 生まれ変われると
別れ際 君に教えられた”
もう何年も過ぎた、周りからすればもう東京に移り住んでいてもおかしくない年月。それは失敗に失敗を重ねすぎての今だから。ただ、この失敗は必要に値する。
地盤は少しずつ出来上がっている。”その時”が来るまでの準備。
冬から春に移り変わる季節。
もう少し、もう少し、もう少しで咲くから。