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オンライン診療は安全で有効性の高いツールである
日本ではいまオンライン診療をどこまで解禁するのかの議論が行われています。世界的に見ても実はオンライン診療は昔から盛んなのではなく、新型コロナのパンデミックによって急激に普及したものです。そして、コロナ禍に数多くの国でオンライン診療の利用が増えたため、それに伴いオンライン診療の有効性や危険性に関するエビデンスも急激に集まっています。今回はそれらをまとめてみました。
まずはオンライン診療のメリットとデメリットをまとめます。
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なぜこのようなことが言えるのでしょうか?それは最近の研究で様々なことが分かってきたからです。
まず、オンライン診療で身体所見が取れないなどの理由から、質の低い医療が提供されていた場合、その後の救急外来受診や入院が増えているはずです。それではエビデンスからは何が分かっているのでしょうか?
まずはオンライン診療後の救急外来受診からです。
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これを見てみると、対面診療と比べて、オンライン診療でその後の救急外来受診が多いわけではないことが分かります。一番上のReedらの論文のように、研究によってはごくわずかにオンライン診療を使用したグループで救急外来受診が増えているように見えますが、差は極めて小さく、臨床的に意味のある差ではないと考えます。
それではオンライン診療後の入院はどうでしょうか?増えているのでしょうか?
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こちらに関しても、増えていなそうです。
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受診目的ごとに見てみても、対面診療と比べて、オンライン診療後で救急外来受診や入院が多いわけではなさそうです。
オンライン診療では、聴診器があてられない、触診ができないなど、身体所見が取れないことがデメリットになるのではないかという意見がありますが、工夫すればそれなりに身体所見が取れるという研究結果もあります。
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オンライン診療で、高血圧、脂質異常症などの慢性疾患の管理が可能であることも分かっており…
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日本で行われた研究を見てみても、オンライン診療で効果的に血糖のコントロールが可能でした。
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さらには、産後においては、オンライン診療を利用することで、産後うつのリスクを下げることが可能であることが、日本で行われたランダム化比較試験(RCT)でも明らかになっています。
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これらを総合的に判断すると、オンライン診療は対面診療と遜色ない質の医療が提供できるといえそうです。
もちろん現場の医師は、オンライン診療で対面で診察した方がよいと思えば対面診療に切り替えます(対面スイッチ)し、重篤であれば救急車を呼ぶことを推奨します。つまり、オンライン診療と対面診療は、どちらか片方を選んだら最後までその方法でしか診察できないようなものではなく、あくまでファーストコンタクトをどのような方法でするかの違いだけなのです。だからこそ、オンライン診療と対面診療で、患者さんの予後には違いがないと考えられます。
さらには、アメリカの研究結果では、遠隔診療(その中でも特に電話診療)が、コロナ禍に、格差の是正に有効だったという研究結果が出てきています。ワーキングプアなど病院に行くため仕事を休むことのハードルが高い人達においては、遠隔診療をうまくつかうことで、いままでかかれなかった病院にかかれるようになったことが分かってきています。
オンライン診療は身体所見が取れないから「なんとなく危険そう」というイメージではなく、きちんとエビデンスに基づいて日本の医療制度を設計するべきだと考えます。技術が発展する中で、うまくそれを利用して健康増進や格差の是正を行うことは、日本の未来にとってもプラスだと思いますので。
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