津川 友介

UCLA准教授、医療政策学者、医師。ハーバード大学PhD(医療政策学)。 著書: 10万部突破「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」 、2017年「ベスト経済書」第1位「原因と結果の経済学」(共著)、 「世界一わかりやすい医療政策の教科書」、「ヘルス・ルールズ」等。

津川 友介

UCLA准教授、医療政策学者、医師。ハーバード大学PhD(医療政策学)。 著書: 10万部突破「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」 、2017年「ベスト経済書」第1位「原因と結果の経済学」(共著)、 「世界一わかりやすい医療政策の教科書」、「ヘルス・ルールズ」等。

最近の記事

医療経済学の「逆選択」ってなに?

以前の記事(「なぜ医療に市場原理は通用しないのか?」)で書きましたが医療保険で市場原理が通用しないのは、モラル・ハザードと逆選択の2つが主な原因です。 モラル・ハザードに関しては以前のほかの記事(「モラルハザードとは、コンビニ受診のことである」)で説明しましたので、今回は逆選択に関してご説明します。 逆選択とリスク選択は一枚のコインの裏表であると考えることができるので、まずはこの2つを一緒にお話して、そのあとに逆選択にフォーカスしてもう少し詳しくご説明しようと思います。

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    • 医療保険を「二階建て」にすると日本の医療はどうなるのか?

      日本は1961年に国民皆保険を達成し、それ以降ずっとこの制度を維持してきました。 日本の皆保険の特徴は、雇用に紐づいた形で保険が提供される職域保険と、どこに住んでいるかで保険が決まる地域保険を組み合わせることで皆保険を実現しました。 1961年の段階で、雇用されている人の多くは職域保険でカバーされていました。そこで残ったのが、自営業と無職の人たちでした。この人たちに、住んでいる地域に応じて国保(国民健康保険)に加入することを義務付けたことで、日本は皆保険制度を実現すること

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      • 政府が高額療養費の上限の引き上げを検討中~そもそも高額療養費制度って何?上限を引き上げると健康被害はあるの?

        2024年11月8日に、政府が「高額療養費制度」の上限額を引き上げる検討に入ったことがニュースになりました。医療費の自己負担の上昇ということで、様々な反応があったこのニュースですが、そもそも高額療養費制度って何なのでしょうか? 医療に関するお金の流れ高額療養費制度の話をする前に、まずは医療に関するお金の流れに関しておさらいしてみましょう。 手術や検査などを医療機関で受けた場合には、医療費が発生します。その支払いには、①健康保険によって支払われるお金(医療費支払い)と、②患

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        • 日本の医療費抑制に必要なのは外来診療への「包括支払い」制度の導入

          欧米では、政策の制度設計はエビデンス(科学的根拠)に基づくべきだとの考え方、EBPM(Evidence-based policy making、エビデンスに基づく政策立案)が浸透しています。 政策立案の段階で十分なエビデンスが存在しない場合、経済学者や政策学者のアドバイスのもとで理論に基づき綿密に制度を設計して、導入後に実際のデータを用いた政策評価をします。そしてエビデンスを集め、それを基に制度を変更していくのが一般的です。 それと比べて日本ではEBPMはあまり進んでいま

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        • 医療経済学の「逆選択」ってなに?

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        • 医療保険を「二階建て」にすると日本の医療はどうなるのか?

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        • 政府が高額療養費の上限の引き上げを検討中~そもそも高額療養費制度って何?上限を引き上げると健康被害はあるの?

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          国の経済成長は何によって促進され、何によって阻害されるのか?

          今日は、国の経済成長の規定因子についてご説明します。経済成長って、なんだか難しそうに聞こえますが、実は私たちの日常生活にも深く関わっています。このテーマに関して理解度を高めるためにも、基本をおさえておきましょう。 では、どんな要因が国の経済成長を左右するのでしょうか?まだ分かっていないことも多いのですが、経済学者たちの長年の研究から分かってきたこともあります。 経済成長を後押しする5つの要因 1. 教育への投資(人的資本) まず、教育の力は侮れません。国が教育にお金をか

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          国の経済成長は何によって促進され、何によって阻害されるのか?

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          イノベーションと経済成長の関係

          医療や社会保障費の話をしているとしばしば出てくるのが、なぜ日本が経済成長をしていないのか?という話です。 以前の記事でもご説明したように、日本の社会保障費負担が高くなっている主な理由は、日本が経済成長していないからです。 この説明をするためには、国の経済が成長するために何が必要なのかを理解しておく必要があります。詳しい説明は、経済学の成書や論文にゆずりますが、ここではおおまかなコンセプトが分かる範囲内でざっくりと説明します。 特にフォーカスしたのは、知識やイノベーション

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          イノベーションと経済成長の関係

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          なぜ医療に市場原理は通用しないのか?

          日本では社会保障費の増加に伴い、世代間での不公平感が強まっています。医療が保険料や税金などによって一部賄われており、そのせいで不必要な医療行為が行われ、医療機関が儲けているのではないかという意見も散見されます。 この問題を解決するためによく議論されるのが、強い規制の下で管理されている医療で規制緩和すれば、この問題が解決されるのではないかというロジックです。 先進国の中で、医療が規制されていない国は存在しません。一番規制が緩い国はアメリカだと思いますが、それでもかなり強い規

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          なぜ医療に市場原理は通用しないのか?

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          モラルハザードとは、コンビニ受診のことである

          「モラルハザード」という経済学の用語があります。モラルとは、「モラルハラ」などの形で使われるように倫理や道徳意識のことを指します。またハザードとは危険という意味です。 よって、モラルハザードというと、なんとなく「倫理観を失って問題行動を起こしている」みたいなことをイメージする人がけっこういるみたいなのですが、実はこれは誤用です。 実はモラルハザードとモラルとは関係がなく、それどころか、モラルハザードは特に悪いことですらありません。 これはどういうことなのでしょうか?順番

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          日本の医療の特徴は「低いPと高いQ」

          日本で医師をしていた私が、医療政策学と医療経済学を学ぶために渡米したのは2010年のことです。 当時、私は増え続ける社会保障費と、救急外来を訪れる数多くの患者さんを見ていて、日本の医療はサステナブルではないと感じ、日本の医療が直面する問題を解決する糸口を見つけるために渡米しました。 医療経済学を大学院などで習うと、一番はじめにならう数式が下記になります。 総医療費=P(単価)×Q(医療サービスの提供量) 難しい話ではありません。「医療費の総額は、単価と量のかけ算で決ま

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          生活習慣病では、健康と病気の境目は、意外とあいまいである

          日本では「未病」という言葉をよく聞くようになりました。 色々な定義があるようですが、未病とは「発病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態」を指しており、つまり「病気になる手間の状態」を表しているようです。 このコンセプトが成り立つ疾患もあります。 例えば、脳梗塞や心筋梗塞など、発病前は身体の機能に異常がないものの、発病すると「非連続性」に機能が低下する疾患です。脳梗塞であれば、発症前は何も問題ないものの、発症すると麻痺がでたりします。このような急性疾患では、発

          生活習慣病では、健康と病気の境目は、意外とあいまいである

          日本が「医療費の安い国」でなくなった主因は、経済成長の鈍化

          前回までの記事で、以前までは日本は「医療費が安くて、寿命の長い」世界がうらやむような医療先進国であったとご説明しました。しかしながら、近年ではそのような日本の地位は揺らぎつつあります。 はじめにほころびがでたのは、医療費の問題です。 2015年頃まで日本の医療費はOECD平均よりも低く、日本は「医療費の安い国」であると思われていました。しかし、2015年にこの状況は一転し、日本のGDPに占める医療支出の割合(GDP比)が11%を超え、加盟国中でアメリカ、スイスに次ぐ第3位

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          医療費上昇の一番の原因は「医療技術の進歩」であり、高齢化ではないって本当?

          先進国の多くでは医療費が高騰しており、国の財政を圧迫していることが問題となっています。日本においても2021年度の国民医療費は45兆円と過去最高であり、医療費は我々が直面している大きな問題の一つであると言わざるをえません。 将来の国の医療費の予測モデルがどれくらい正確かに関しては議論の余地がありますが、少なくともアメリカにおける現在までの医療費高騰の原因に関しては研究されています。それらによると医療費高騰の一番の原因は「医療技術の進歩」であると考えられています。高齢化は一番

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          医療費上昇の一番の原因は「医療技術の進歩」であり、高齢化ではないって本当?

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          日本はもはや「医療費の安い国」ではない

          前回の記事で、日本が10年くらい前までは「世界一の長寿国で、医療費も安い」世界がうらやむような医療制度を持った国であったと説明しました。しかし、日本のそのような立ち位置は崩れつつあります。 まず医療費に関して見てみましょう。 最新のデータを見てみましょう。これは各国がGDPの何%を医療支出に使っているのかを示したグラフです。医療支出とは、医療費に介護保険に係る費用のほか健康診査などの予防の費用を加えた数字で、一般的に医療費の国際比較で用いられる指標です。 2022年のデ

          日本はもはや「医療費の安い国」ではない

          濫用のおそれのある成分を含む風邪薬や咳止めには、そもそもエビデンスがあるのか?

          いま日本では医薬品の過剰摂取(オーバードーズ)が問題となっています。未来のある若者が、ドラッグストアで市販薬として販売されている薬を大量摂取することで、倒れて救急搬送されたり、死亡したりしています。 2022年には1万682人がオーバードーズで救急搬送されており、10代は2年で1.5倍と急増しています。20代の患者数の多さも目立ちます。消防庁と厚生労働省の調査によると、市販薬のオーバードーズが原因と疑われる救急搬送が、ことし6月までの半年で5600件余りに上っています。

          濫用のおそれのある成分を含む風邪薬や咳止めには、そもそもエビデンスがあるのか?

          日本の医療制度の「転落」

          世界がうらやんだ日本の医療制度 日本は世界がうらやむ理想的な医療制度を達成した国でした。これはそう昔のことではありません。 10年ほど前まで、日本は医療費が他国と比べて低く、かつ世界一寿命が長いという、理想的な医療がある国だと他の国から思われていました。諸外国は「日本がなぜこのようなすばらしい医療制度を設計し、維持することができるのか」に関心を持っていました。   戦後の経済成長により、日本の名目国内総生産(GDP)は1968年にアメリカに次ぐ、世界第2位になりました。1

          日本の医療制度の「転落」

          保険収載されている医療行為の中には、健康の改善につながらない「低価値医療」も含まれている

          最新のデータによると、日本の保健医療に係る支出(国際的に比較可能な数値で、厚生労働省が発表する国民医療費に介護費や一部の自由診療・市販薬等の額を加えたもの)はGDPの11.5%を占めており、OECDの平均(9.2%)を上回ります。 日本は、アメリカ、ドイツ、フランスに次ぐ、世界第3位の高医療費国です。 医療費の急激な増加に直面し、先進各国では、価値の高い医療システムを推進していくことが不可欠となっています。しかし、医療において提供されている全てのサービスに価値があるわけで

          保険収載されている医療行為の中には、健康の改善につながらない「低価値医療」も含まれている