菅首相は「デジタル庁新設問題」を契機に「第二次中央省庁再編」を断行できるか
昨日、菅義偉首相は平井卓也国務大臣に対し、「デジタル庁」の検討を指示するとともに、2021年秋までに同庁の新設する方針を固めました[1]。
関連法規の整備や予算措置を考えれば、根拠法がなく、来年度予算の概算要求が行われている現状では「デジタル庁」を新設することは出来ませんから、2021年秋の設置は現在考え得る最短の取り組みとなります。
「2021年秋」と聞けば迂遠な話のように思われるかもしれないものの、こうした事情を考えれば、菅首相の「デジタル庁」の設置に対する意欲の高さがうかがえると言えるでしょう。
一方、菅首相が推進する「デジタル庁」について、懸念すべき点も少なくありません。
例えば、「デジタル庁」を民間人を長官に起用するという案があるとされるものの[1]、情報技術の実務に詳しい者が情報技術行政に通暁しているとは限りませんし、行政機構や法制度のあり方に明るくなければ「民間人長官」の力量がどれほど高いとしても、優れた案を実際の施策に反映させることは容易ではありません。
従って、「デジタル庁」の長官に民間人を起用する場合は、次長以下にも情報技術に通じた人材を充て、行政に不慣れな長官の発想を可能な限り具体的な政策として整える必要があるでしょう。
あるいは、最終的に民間人を起用せず、官僚を長官とする、あるいは大臣庁とする際にも、実務の担当者に求められる能力は「民間人長官」の場合と変わりません。
また、根本的な問題として、情報技術行政に長けた官僚の層を厚くするためにも人材の育成もより積極的に行われなければならないと言えるでしょう。
これに加えて、大臣庁であるかいずれかの省の外局であるかは問わず、行政機構の肥大化も見逃せません。
2001年の中央省庁再編によって1府12省庁体制になったものの、その後は時代の変化に対応する必要があるとして消費者庁やスポーツ庁といった外局が新設され、内閣にも各種の担当相が置かれているのは周知の通りです。
現在では五輪担当や万博担当の国務相も任命されているのですから、大臣の数が増えることで「大臣病」となっている国会議員の欲求を満足させることになっても、冗費冗官の削減といった視点が忘れ去られていることは否めません。
ひとたび設けられた省庁や各部局を改廃することの難しさは、中央省庁再編の過程を一瞥するだけでも明白です。
もとより、「デジタル庁」の設置が新たな「利権官庁」の誕生となってはならず、「デジタル行政」が新たな既得権になることも許されません。
それだけに、「規制改革」や「縦割り行政の打破」を掲げる菅首相[2]には、「デジタル庁」問題を契機に再度の中央省庁再編に取り組むだけの気概を示し、実践することが求められると言えるでしょう。
[1]デジタル庁 来年設置. 日本経済新聞, 2020年9月18日朝刊1面.
[2]規制改革へ縦割り打破. 日本経済新聞, 2020年9月17日朝刊1面.
<Executive Summary>
Planning to Form "The Digital Policy Agency" Is a Good Opportunity to Take Second Central Government Reform (Yusuke Suzumura)
Prime Minister Yoshihide Suga ordered Minister Takuya Hirai to examine to form the Digital Policy Agency on 17th September 2020. It might be a good opportunity for Prime Minister Suga to take the Second Central Government Reform, since there are unnecessary expenses and positions in the government.