菅義偉首相は「残りの日々」に何をなすべきか
報道によれば、菅義偉首相は今日開かれた自民党の臨時役員会で総裁選への立候補を見送ることを表明し[1]、自民党総裁としての任期満了をもって首相の座を退くこととなりました。
総裁選への出馬の意向を強く示していた菅首相の変心は、一面において内閣の支持率の低迷する中で総選挙を行わねばならず、現有議席の減少が不可避と予想されること、他面において立候補を表明している岸田文雄前政調会長が二階俊博幹事長の交代を要求するなど、党人事が行き詰まりを示していることを理由とすることが推察されます。
後者については、週明けにも二階幹事長や下村博文政調会長の交代を含む役員人事を行うとされていただけに[2]、菅首相の後ろ盾である二階氏が「自分が退くからには総理も相応の対価を」と、首相の総裁選への不出馬を求めた可能性も排除できません。
一方、総裁選への不出馬を決意した経緯や心境などについては後日菅首相が明らかにすると思われるものの、その心境は大平正芳首相の急逝を受けて政権を引き継いだ鈴木善幸首相の場合と同じく、「棚からぼた餅でもらった政権だったから、『もういいや』と思った」という類のものであるかも知れません。
鈴木首相は「暗愚の宰相」という綽名によって、首相としての能力が不足していることが表現されました。菅首相の場合は新型コロナウイルス感染症の感染拡大を抑えきれないという点から、「明かりが見える」という発言を踏まえ、「明かりが見えなかった宰相」と呼ばれることになるかも知れません。
しかし、「ワクチン接種推進」は政権の支持率の上昇のための手段であったとはいえ、菅首相が意欲をもって取り組んだ事項であり、その調整力の一端を示します。また、広島市への原子爆弾の投下にかかる「黒い雨訴訟問題」で示した国の上告断念も、高く評価される判断です。
その意味で、評価すべきは評価し、批判すべきは批判することで、菅義偉首相の真価もより立体的に描かれることになるでしょう。
そして、菅首相には内閣総理大臣の座を退くまで、国政の諸課題の解決に全力で取り組むことが改めて求められるのです。
[1]菅首相 自民党総裁選に立候補せず 党臨時役員会で表明. NHK NEWS WEB, 2021年9月3日, https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20210903/1000069760.html (2021年9月3日閲覧).
[2]下村政調会長交代へ. 日本経済新聞, 2021年9月1日朝刊1面.
[3]御厨貴監修, 渡邉恒雄回顧録. 中央公論新社, 2007年, 375頁.
<Executive Summary>
What Do We Want to Mr. Yoshihide Suga during Remaining Days as the Prime Minister? (Yusuke Suzumura)
It is reported that Prime Minister Yoshihide Suga will not run for the LDP Presidential Election and leave the position of the Prime Minister. In this occasion we require Prime Minister Suga to do his best during remaining days as the Prime Minister of Japan.