音楽人たちへのよき追善となった『クラシックの迷宮』の特集「2024年 逝ける人々を偲んで」

今日のNHK FMの番組『クラシックの迷宮』は、年末の恒例である前年最後の放送以降に逝去した音楽関係者を追悼する「2024年 逝ける人々をしのんで」が放送されました。

今回は、紹介順にアントニオ・メネセス、マウリツィオ・ポリーニ、小澤征爾、湯浅譲二、篠原眞、楳図かずお、鳥山明、増山江威子、小原乃梨子、大山のぶ代、三輪勝恵、堀絢子、中村メイコ、間宮芳生、谷川俊太郎の15人が取り上げられました。

チェロ奏者、ピアノ奏者、指揮者、作曲家、漫画家、声優、俳優、詩人と多岐にわたる人物が日本の内外から選ばれたことは、一面で今年も多くの人々が長逝したことをわれわれに改めて思い起こさせるとともに、他面では「クラシック」を交響管弦楽のみに限る狭義の理解ではなく、音楽にかかわるものであれば全てが「クラシック」の範疇に入るというこの番組ならではの視点を告げるものです。

特に、楳図かずおと鳥山明はともに漫画家として一時代を画し、世界中から高い支持を得ているものの、本人が音楽活動を積極的に行ってはいませんでした。それにもかかわらず二人が選ばれたことは、単に著名人であったからというだけではなく、楳図は映画『猫目小僧』の主題歌を本人が歌唱していたこと、また鳥山については代表作の一つである『Dr.スランプ アラレちゃん』のテレビアニメ版のはじめの歌が約5年にわたり毎週水曜日の19時の時報代わりに多くの人々に親しまれたことによります。

また、両者を受けて増山、小原、大山、三輪、堀と今年逝去した声優の作品が続いたことは、いずれもテレビアニメーションの初期から活躍しただけでなく、俳優としても豊かな経験を重ね、歌についても修養を積んだこと、さらに人々になじみ深い作品の主題曲や挿入歌を歌唱したことが、現在においては大衆文化的な現象であっても、時代を経れば古典的な文化として理解される可能性を持つことを伝えるものです。

あるいは、中村や谷川のように多くの分野で活躍した人物も取り上げるところに、この番組の懐の深さをいかんなく描き出しました。

その一方で、交響管弦楽の発展の歴史に大きな足跡を残したメセネス、ポリーニ、小澤、湯浅、篠原、間宮が選ばれたことは、この番組が狭義の「クラシック」の分野にも十分な配慮をしていることを象徴します。

とりわけ湯浅譲二について、1980年に入野義朗が逝去した際に追悼曲として手掛けた『クラリネット・ソリテュード』(独奏:森田利明)を取り上げ、逝きし先達への哀悼の念を切々とつづった様子を紹介するとともに、この作品が初演された、ドイツ文化会館におけるNHKの委嘱によるテレビオペラ『綾の鼓』の上映会を司会の片山杜秀先生が鑑賞しており、映写機を会場に運び込む様子や、上映後の演奏の状況などを詳細に回想したことは、「私事を申し上げますと」という前置きにもかかわらず、湯浅への最良の追善となりました。

このように、今年も多くの音楽人たちを追悼する今回の放送は、番組の1年を締めくくるにふさわしいものとなりました。

<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Expresses Condolences for the deceased of the Year 2024 (Yusuke Suzumura)

The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" featured gamelan named "Remembering the Deceased of the Year 2024" on 21st December 2024. It was an important opportunity for us to remember the deceased of the world of classical music and the neighbouring fields.

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