石破茂首相が念頭に置くべき石橋湛山の議論は何か
今国会で石橋湛山の存在が注目されていることは、すでに本欄でも言及した通りです[1]。
その際に指摘したように、石橋湛山は、16巻の全集と、そこに未収録の数多くの論考を残しています。
また、論者が自らの主張を補強するために石橋の議論の一部を取り出し、恣意的に活用するという可能性があることには十分な注意が必要であることも、本欄の指摘するところです。
一方で、石橋が残した様々な議論の中には現在も通用する重要な主張があります。
その一つとして挙げられるのが、政治にとって必須の要素の一つが国民の信頼であると説く『湛山座談』(岩波書店、1994年)の記述です[2]。
1963年から始まった石橋湛山への聞き取りこの時はかつて二大政党制の候補として考えていた日本社会党を例として、社会に党が政権を獲得できない理由が指摘されています。
すなわち、当時の社会党が階級闘争主義の政党であり「国民はそのにおいをかいで社会党を信用しない。国民に信用がないから社会党に政権はぜったいにゆかぬ」[3]のであり、国民の福祉よりもイデオロギーを優先するあり方を批判しています。
もちろん、こうした主張は、保守と革新の対立が明確であった時代だからこそ成り立つものであり、そのような対立軸が不鮮明になっている現在においては、歴史的な役割を果たす以外の価値はないかもしれません。
しかし、現在政権を担当する石破茂首相は『石橋湛山全集』を読み、所信表明演説でその所説を引用するなど、石橋湛山に傾倒していることは周知の事実です。
それだけに、石橋の「政治には国民の信用が不可欠である」という趣旨の指摘は、石破首相にとって自らの政権のあり方を考える際に、念頭に置く価値があるといるでしょう。
石橋湛山を過去の偉人ではなく現に行われている政治のあり方を参照する鏡とするのであれば、その所論はより一層われわれに大きな意味を持つことになるのです。
[1]鈴村裕輔, 第216回臨時国会における石橋湛山への注目度の高まりをいかに考えるべきか. 2024年12月4日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/88fde6c9431c072de980ca36282a95ad?frame_id=435622 (2024年12月6日閲覧).
[2]石橋湛山, 湛山座談. 岩波書店, 1994年, 158頁.
[3]同, 156-158頁.
<Executive Summary>
What Is the Meaning of Ishibashi Tanzan's Discussion for Prime Minister Shigeru Ishiba to Maintain His Cabinet? (Yusuke Suzumura)
After starting of the 216th Extraordinary Diet Session, the name of Ishibashi Tanzan became for the people. On this occasion, we examine the meaning of Ishibashi's discussion for Prime Minister Shigeru Ishiba to maintain his cabinet, since it is said that he has a deep sympathy to Ishibashi Tanzan.