室伏広治氏は「スポーツ庁新長官」としての手腕を発揮するか

昨日、9月30日(水)に任期満了となるスポーツ庁の鈴木大地長官の後任に東京オリンピック・パラリンピック組織委員会スポーツディレクターの室伏広治氏の就任が決まりました[1]。

長官就任後の室伏氏の当面の課題が、新型コロナウイルス感染症の拡大により、開催時期が今夏から来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックをいかに実施するかという点に求められるとともに、より具体的には選手の強化などの施策の推進に取り組むことが予想されます。

その意味で、鈴木氏と室伏氏という、オリンピックの出場経験があり、金メダルを獲得した実績を持つ人物がスポーツ庁の長官に補任されることは、スポーツ庁を「東京オリパラの推進機関」と捉える限りにおいては適切な人事と言えるでしょう。

しかし、文部科学省の外局であるスポーツ庁は、「スポーツの振興その他のスポーツに関する施策の総合的な推進を図ることを任務とする。」[2]という目的で設置されていることを考えれば、長官の役割が「東京オリパラの推進」のみに限られないことは明らかです。

また、文部科学省の外局であるとはいえ、スポーツ庁も官僚機構の一角を占めるのですから、たとえ長官がオリンピックで金メダルを獲得した経験を有しているとしても、競技者としての実績が行政官としての能力と関連しないことも疑い得ないところです。

例えば、現任の鈴木長官は既存の大学運動部と連盟、あるいは一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)と連盟の関係を見直すことなく、既得権を温存したままUNIVASを設立し、大学スポーツを抜本的に改革するとしながらも実際には学生スポーツの興行化を進めるというように[3]、複雑な利害関係を調整するといった取り組みを必ずしも得意とはしません。

あるいは、「東京オリパラ」の延期の決定を受け、スポーツ庁長官としての談話を公表した際には[4]、「スポーツ行政をしっかりと牽引してまいります。」という決意は明確であったものの、そのような決意を実現させるための具体的な方策などを明示せず、努力する姿を証拠として残そうとする、「国内向け点数稼ぎ以外の何物でもない」[5]という官僚の取り組みを実践するかのようでした。

もとより、社会的な知名度は高くとも官僚機構の仕組みを知悉するのではない人物を長官職に据えることは、次長以下の官僚が主体性を発揮する場合には何らの問題も引き起こしません。

一方で、発揮すべき主体性に欠ける場合、スポーツ庁はスポーツ行政の一元化といった目標を達成することは難しくなります。

それだけに、行政官としての手腕が定かでない室伏氏がどこまで人心を掌握してスポーツ庁の運営に取り組めるか、今後の動向が注目されるところです。

[1]スポーツ庁長官に室伏氏. 日本経済新聞, 2020年9月12日朝刊31面.
[2]文部科学省設置法. 第十五条.
[3]鈴村裕輔, 三度時期尚早なUNIVASの設立を批判する. 2019年2月28日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/7d5e360e63147ad371a3a46adb17a84f?frame_id=435622 (2020年9月12日閲覧).
[4]スポーツに関わる全ての皆様へ. スポーツ庁, 2020年3月27日, https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/choukan/jsa_00011.html (2020年9月12日閲覧).
[5]堺屋太一, 時代末. 下巻, 講談社, 105-111, 1998年.

<Executive Summary>
Will Professor Dr. Koji Murofushi Be a Good Commissioner of the Japan Sports Agency? (Yusuke Suzumura)

It was announced that Professor Dr. Daichi Suzuki would leave the position of the Commissioner of the Japan Sports Agency and Professor Dr. Koji Murofushi would be the next Commissioner from 1st December 2020. It might be very remarkable opportunity for Professo Dr. Murofushi to perform his abilities to manage and organise the Agency as a competent commissioner.

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