NHK交響楽団NHKホール12月公演にまつわる雑感
昨日と本日の2日間にわたり、NHK交響楽団はNHKホール12月公演を開催しました。
この公演については、NHK FMの実況中継を聴取した結果に基づく寸評を昨日の本欄で取り上げています[1]。
そこで、本日は今回の公演にまつわる雑感をご紹介します。
まず、この日の公演で最も注目されたのは、NHK交響楽団が伊福部昭の作品を取り上げたという点です。
定期公演においては1982年3月の第865回が伊福部の作品を演奏した唯一の機会であり、定期公演以外の演奏会を含めても、記録の上ではこの時と合わせて4回のみとなっています。
NHK交響楽団が日本の同時代の作曲家の作品の紹介に積極的であるのは、例えば日本人作曲家による新作を顕彰する尾高賞を制定し、尾高賞受賞作を紹介する演奏会Music Tomorrowを開催したり、正指揮者であった岩城宏之が定期公演の中で日本人作曲家の作品を継続して取り上げてきたことからも明らかです。
その一方で、第865回から第867回にかけて、1912年から1980年に作曲された約1600作品を対象に専門家が15曲を選び演奏する、日本人作曲家のみの作品による定期公演を行って以降[2]、定期公演における日本人作曲家の演奏の頻度は低下する傾向を示しています。
伊福部の『交響譚詩』が第865回定期公演で取り上げられたのは、こうした企画を背景としたものであり、現代の日本を代表する作曲家として伊福部の力量と芸術性が認められた結果でありました。
ただ、NHK響が比較的定期的に取り上げる武満徹や黛敏郎に比べれば、伊福部を含め間宮芳生、松平頼則、一柳慧などの作品が演奏される機会は少なく、それ以外にも日本の音楽史の発展に寄与した多くの作曲家の作品が紹介されていないことも否めません。
もとより、同時代の自国の作曲家の作品を一つの楽団のみが演奏する必要はありませんし、各団によって取り上げる頻度の多い作曲家と少ない者がいるのは当然です。そして、そうした違いが、それぞれの団体の特徴を形成しているのということも疑い得ないところです。
それでも、今回の公演に対する人々の関心が高かったことからも、日本を代表する交響管弦楽団であるNHK交響楽団が定期的に多くの日本人作曲家の作品を取り上げることは、聞き手の裾野を広げるという点からも意義のあることであろうと思われます。
その意味でも、この日の公演の持つ意味は大きなものであっただろうと感じられた次第であり、定期公演の再開後に何らかの形で今回の成果が活用されることが願われるところです。
[1]鈴村裕輔, NHK交響楽団NHKホール12月公演. 2020年12月5日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/0394f9a8a875f8ec77630b7429ff11e0?frame_id=435622 (2020年12月6日閲覧).
[2]岩野裕一, 繁栄の中の混沌を経て新時代へ "世界のN響"への飛躍をめざして. Philharmony, 74(2): 43-44, 2001.
<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of NHK Symphony Orchestra's December Concert at the NHK Hall (Yusuke Suzumura)
The NHK Symphony Orchestra held the December Concert at the NHK Hall and broadcasted via NHK FM on 5th and 6th December 2020. In this time I express my miscellaneous impressions of the concert.