「糖尿病」の表記変更案はいかなる問題を含むか

昨日、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は糖尿病の通称の候補として、英語名「ダイアベティス」を提案しました[1]。

今回の提案は患者から「糖尿病」という病名が怠惰や不潔といった負の印象に繋がるという意見があり、変更を求める要望があったことに基づく措置ということです[1]。

確かに、病名に否定的な意味合いが含まれ、偏見へと繋がるなら、病名をより適切な表記に変更することは重要です。実際、これまでにも「分裂症」が「統合失調症」に、「痴呆症」が「認知症」に改められ、それに伴う啓発活動により、これらの病気に関する人々の理解は一定程度深まったように思われます。

また、「糖尿病」という名称ではあるものの、尿から糖が出ても糖尿病とは限りませんし、糖が出ない場合もあります。

その意味で、「糖尿病という名称は、科学的に正しいか疑問で、患者に喜ばれない。世界の共通言語に思い切ってかじを切るべきだ」という日本糖尿病協会の清野裕理事長の発言[1]も一定の合理性を持ちます。

一方、「ダイアベティス」に名称を変更したとしても、英語の中でも日常的に使用する語彙ではないため人々になじみがなく、対応する日本語訳が求められることになります。「ダイアベティス」という表記が採用された際に「ダイアベティス(糖尿病)」と従来の表記を併用するよていであること[1]は、こうした事情によります。

しかし、これでは患者の期待に十分に応えておらず、しかも「ダイアベティス」というなじみのない言葉が用いられることで、十分な啓発活動が行われ中れば、人々の理解が促進されるどころか、正体不明の病気と思われかねません。

むしろ、「糖尿病」の表記を改めるなら、なされるべきは"diabates"をカタカナに置き換えた「ダイアベティス」とすることではなく、候補の中に挙げられていた「糖代謝症候群」のように、日常的に用いる語彙の中でより適切な表現を用いることになります。

あるいは、「糖尿病」に対する人々の誤解や偏見を解くための啓発、啓蒙活動をこれまで以上に積極的に行うことも、日本糖尿病学会や日本糖尿病協会にとっては不可欠の取り組みとなります。

そうした基本的な事項を等閑視するかのような今回の提案は、患者の意見に基づき、患者の利益の擁護を目指しつつ、かえって患者にもそれ以外の人たちにも不利益をもたらすものになりかねません。

それだけに、今後関係者には予断を排し、真摯な態度で「糖尿病」の表記変更の問題に取り組むことが必要となるのです。

[1]糖尿病の新呼称提案. 日本経済新聞, 2023年9月23日朝刊40面.

<Executive Summary>
What Is an Important Attitude for the Relatives Who Aim to Change Japanese Expression of "Diabetes"? (Yusuke Suzumura)

The Japan Diabetes Society and the Japan Association for Diabetes Education and Care announce that the Japanese expression of diabetes (Tonyobyo) will be changed "diabetes" itself on 22nd September 2023. On this occasion, we examine problems of such attempt for patients of diabetes and other people.

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