第217回国会における石破茂首相の施政方針演説はいかなる意味を持つか
本日、第217回通常国会が召集され、石破茂首相が衆参両院本会議場において施政方針演説を行いました[1]。
就任後初の施政方針演説となった今回、石破首相は演説の3割を地方の活性化のための施策に関連した話題に充て、過去2回の所信表明演説との違いを鮮明にしました。
すなわち、「令和の日本列島改造」と銘打ち、(1)若者や女性にも選ばれる地方、(2)産官学の地方移転と創生、(3)地方イノベーション創生構想、(4)新時代のインフラ整備、(5)都道府県域を超えた広域連携、の5点を強調しました。
石破首相が政治上の師と仰ぐ田中角栄が「日本列島改造論」を提唱して国民的な人気を博したこと、さらに第二次安倍晋三政権で国務大臣として地方創生担当を兼ねたことを考えれば、自らの政権として初めて行う施政方針演説で自らの得意とする政策を取り上げることは当然と言えます。
その一方で、地方の活性化のための施策がこれまでの政権が行ってきた取り組みの見出しを変えただけで内実が同じように見えることは、「令和の日本列島改造」が狂乱物価をもたらし、石油危機により頓挫した日本列島改造論の故事と同様に、理念の尊さと実際の成果とが結びつかない譲許に陥ることを懸念させます。
また、現在は首相の直下に置かれている危機管理監や危機管理センターが担っている防災時の初動対策を、新たに防災庁を設置して担当させるという構想は実効性の点で疑問が残ります。
それだけに、石破首相の側近がどれだけ現実を直視しながらより効果的な防災対策を講じられるかについては注意が必要です。
ところで、今回の施政方針演説において、石破首相は昨年11月の所信表明演説に続いて石橋湛山を引用しました。
今回は石橋が1957年1月8日に自民党の全国遊説の出発地であった日比谷公園で行った演説会で披露した「5つの誓い」を施政方針演説の最後で参照しています。
「5つの誓い」とは、(1)国会運営の正常化、(2)政界、官界の綱紀粛正、(3)雇用の増大、生産の増加、(4)福祉国家の建設、(5)世界平和の確立、の5項目であり、党内で少数主流派であった石橋湛山が国民的な人気の高さを背景に早期に解散総選挙を行い、自らの権力基盤を強化する環境を整えるために行ったのが全国遊説でした。
ただ、過密な日程が石橋の健康を害し、結果として65日間で退陣する結果になったのも、この全国遊説でした。
そうした背景を知りつつ石破首相が「5つの誓い」を取り上げたことは、今国会の円滑な運営や政治資金問題の解決への意志を強く示すとともに、石橋と同様に党内で少数派である自らの状況を石橋に重ね合わせ、政策の実現への決意のほどを表したと言えるでしょう。
所信表明演説と施政方針演説において同じ人物を取り上げることは珍しいことです。
その意味で、石橋を尊敬する政治家に挙げる石破首相の傾倒ぶりが示されていると言えます。
このように、自らの師と尊敬の対象を一つの演説の中に取り入れたのですから、あとはこれからの国会の中でどれだけ自らの政策を実現できるかが注目されるところです。
[1]第217回国会における石破内閣総理大臣施政方針演説. 首相官邸, 2025年1月24日, https://www.kantei.go.jp/jp/103/actions/202501/24shiseihoushin.html (2025年1月24日閲覧).
<Executive Summary>
What Is the Meaning of the General Policy Speech by Prime Minister Shigeru Ishiba? (Yusuke Suzumura)
Prime Minister Shigeru Ishiba held the General Policy Speech on the occasion of the opening of the Ordinary Session of the Both Diets on 24th January 2025. On this occasion, we examine the meaning of Prime Minister Ishiba's speech.