「大リーグの公式戦開幕」は「トランプ大統領の初めての始球式」を実現するか

1910年のウィリアム・タフト以来、米国の歴代大統領が大リーグの開幕戦を中心に始球式を行っているのは周知のところです。

そして、2017年の就任以来、現職のドナルド・トランプ大統領が始球式を行っていないことも、広く知られるところです。

トランプ大統領が始球式を行わない理由の一つとして挙げられるのが、登場した時に球場内から罵声や嘲笑が起き、その様子が放送されることを嫌っている、というものです。

確かに2018年1月8日にジョージア州アトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムで行われた全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association: NCAA)の2018年カレッジ・フットボール全米優勝決定戦(2018 College Football Playoff National Championship)の国歌斉唱の際に登場したトランプ大統領に対し、場内からは罵声が起きました[1]。

その意味で、トランプ大統領の「懸念」は決して杞憂ではないと言えるでしょう。

ところで、現在選手会と大リーグ機構との間では、独立記念日である7月4日(土)の前後を目標として無観客による公式戦を開幕するよう調整がなされてはいるものの、年俸の削減を巡り両者の対立が深まっています[2]。

しかし、NBA、NHLなど、他の米国のプロ・スポーツが中断されたシーズンの再開や今後の運営方針を決定する中で野球だけが公式戦を開始できないことは、大リーグの存在感を相対的に低下させることに繋がります。

従って、現時点では鋭く対立する両者も、最終的には合意点を見出すものと推察されます。

この時、トランプ大統領にとっては、自らが登場しても場内から罵声や怒号が飛び交わない、ある種の理想的な環境の中で始球式を行うという格好の条件が揃うことになります。

何より、今年11月に大統領選挙を控える一方で、新型コロナウイルス感染症への対策やクリス・フロイド氏の暴行死に発端して米国各地で抗議運動が起きるなど、トランプ大統領の指導力への疑問が呈される事態が続いています。

米国において最も重視される独立記念日に始球式を行い、その様子を放送することは、トランプ大統領にとっては支持者に対して「力強い指導者」という像を強調するとともに、自らの新型コロナウイルス感染症対策が成功したことを誇示するための格好の機会となることでしょう。

それだけに、トランプ大統領にとって今回の開幕戦は現在の任期中に始球式を行う最後の機会であるばかりでなく、政治的にも重要な舞台となることでしょう。

[1]Trump stands on field for National Anthem at college football championship game. CNN, 9th January 2018, https://edition.cnn.com/2018/01/08/politics/donald-trump-college-football-georgia-alabama/index.html (accessed on 7th June 2020).
[2]MLBPA stands firm against additional pay cuts, 'resoundingly' rejects league's plan. ESPN, 5th June 2020, https://www.espn.com/mlb/story/_/id/29268944/mlbpa-stands-firm-additional-pay-cuts-resoundingly-rejects-league-plan (accessed on 7th June 2020).

<Executive Summary>
Will President Donald Trump Throw a Ceremonial First Pitch? (Yusuke Suzumura)

It is announced that the MLB will start the new season of 2020 from the 4th July 2020 and negotiate with the Major League Baseball Players Association. When they agree to start the season from the Independence Day, it might be the last opportunity for President Donald Trump throw a ceremonial first pitch.

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