広島市への原子爆弾の投下から78年目に際して考える「科学精神」の意味

今日で1945(昭和20)年8月6日(月)に広島市に原子爆弾が投下されてから78年目を迎えました。

人類史上最初の惨事となった原爆の投下が多くの人々の命を奪ったことは周知の通りであるとともに、軍当局と報道機関が事態をより小さく見せようと試みたことも広く知られるところです。

ところで、当初は「新型爆弾」とされていた原子爆弾を生み出したのは科学技術であり、人間の頭脳に他ならないと指摘したのが石橋湛山です[1]。

石橋は日本の敗戦からの復興には科学技術に象徴される「科学精神」が不可欠であるとします。何故なら、戦中に日本が軍備の不足に直面した際、より高度化された科学技術によって事態を打開しようとするのではなく、精神力で補おうとする軍当局者の精神主義が敗戦を招いたという反省があるからです。

もちろん、戦争は最後は一人ひとりの将兵の戦いである以上、各人の気迫が状況に何らかの影響を与えることは否定できません。また、高度に発達した科学技術が原子爆弾という凄惨な兵器を生み出したことも明らかです。

一方で、連合艦隊司令長官の山本五十六が「飛行機の数こそ大東亜戦の運命を決する鍵」と強調したにもかかわらず、その訴えが国民に伝わらなかったことや、米国の飛行機生産計画を非現実的な内容と等閑視した他の軍部首脳の態度は「科学精神」からは程追いものでした[2]。

その結果が広島市への原子爆弾の投下であり、それでも連合国によるポツダム宣言の受諾を逡巡したことが8月9日(木)の長崎市への原爆の投下に繋がったのです。

その意味で、今日という日は、われわれにとって「科学とは何か」「科学精神とは何か」を考えるためにも重要な一日となるのです。

[1]石橋湛山 「更生日本の門出」石橋湛山全集編纂委員会編『石橋湛山全集』第13巻、東洋経済新報社、2011年、4頁。
[2]石橋湛山「故山本五十六元帥の心事」石橋湛山全集編纂委員会編『石橋湛山全集』第12巻、東洋経済新報社、2011年、549-551頁。

<Executive Summary>
What Is the Meaning of Atomic Bombing for the City of Hiroshima for Us? (Yusuke Suzumura)

The 6th August, 2023 is the 78th Anniversary of atomic bombing for the City of Hiroshima. On this occasion, we examine the meaning of this miserable incident for us who live in the 21st century Japan.

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