ブゾーニの音楽の特徴を余すところなく伝えた『クラシックの迷宮』の特集「バッハに未来を観た巨人」
本日NHK FMで放送された『クラシックの迷宮』は、「バッハに未来を観た巨人~ブゾーニ没後100年に寄せて」と題し、今年7月27日に没後100年目を迎えるフェルッチョ・ブゾーニが取り上げられました。
今回の特集は、ブゾーニをピアノの超絶技巧的な技術による音楽の革新とバッハの作品、特にフーガに秩序だった世界の姿を見出し、リストの名人芸とバッハの芸術を拡大させ、全世界、全宇宙が音楽の中に包まれる間隔を究極の目標としていた音楽家として描く点にあります。
すなわち、ブゾーニにとってはバッハの芸術の拡大による全宇宙の包摂という究極の目標が音楽家としての個性の発揮を乗り越えており、自分の使命を遂行するためには作曲も編曲も区別はありませんでした。
さらに、神と崇拝するバッハを自らの時代に蘇らせるためであれば、作曲的な技術や手練手管を用いてバッハの作品を積極的に編曲し、器楽曲やオルガン曲をピアノ用の作品として送り出したのでした。
こうしたブゾーニの姿を、具体的な作品とともに紹介するとともに、特にバッハにおけるフーガの持つ意味を重視する点は、かつてフーガの特集を組み、追いつきそうで追いつかない、永遠の運動として捉えた『クラシックの迷宮』ならではのものと言えるでしょう。
あるいは、世界秩序を音楽によって作るというブゾーニの野心は、結果として明晰な姿で世界秩序を描き出したいという願望に対し、しばしば荒々しい作品となることを指摘するのも、司会の片山杜秀先生の慧眼ぶりを示します。
また、「自分も昔は演奏者がもっとも明晰に演奏すればよいのにと生意気にも思っておりましたが、齢を取りましてからはこの荒々しさこそがブゾーニの音楽そのもかと思うようになってまいりました」という片山先生の解説は、ブゾーニの音楽の持つ多様性を聴取者に力強く訴えかけます。
その一方で、シェーンベルク、ドビュッシー、リヒャルト・シュトラウスら同時代の音楽家に比べ、バッハの超時代的もしくは古い音楽をリスト的な超絶技巧によって統一させようとす傾向が顕著であることが言及されるのは、死後にその作品が半ば忘れ去られたブゾーニを相対的に評価するためには重要な手続きとなります。
さらに、ドイツでの活躍が注目されるブゾーニではあるものの、民族性や地域性だけでなく、芸術性の観点からも分析を加えることで、ダンテが『神曲』において世界の姿を一人で描き切ろうとしたように、世界の姿を明徴にしたい、あるいは地中海のように明るい陽光の下ですべてを照らし出したいと考えていたという解説は、イタリアの文化的特徴を濃厚に受け継ぐブゾーニの像を明瞭に描き出すものでした。
実際、ブゾーニとって重要な音楽の形式であるフーガがイタリアで生まれ、バッハが大成したことを考えるだけでも、ブゾーニにとってイタリアはその音楽を理解する上で不可欠であることが分かります。
その意味で、掌の上に世界を置きたいというブゾーニの野心を音楽史と文化史の中に位置づけた今回の『クラシックの迷宮』は、ブゾーニという音楽家の持つ多層的なあり方を聴取者に伝える、大きな意義を持っていたと言えるでしょう。
<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Shows the Importance of Busoni and His Music (Yusuke Suzumura)
The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" featured Busoni and celebrated his 100th anniversary after the death. It was a remarkable opportunity for us to understand Busoni's great contributions for the development of music.