【追悼文】中川李枝子さんについて思い出すいくつかのこと
去る10月14日(月、祝)、児童文学者の中川李枝子さんが逝去しました。享年89歳でした。
中川さんが妹の山脇百合子さんの挿絵とともに完成させた『ぐりとぐら』(福音館書店、1967年)が日本の児童文学の金字塔として幅広い世代に読み継がれていることは周知の通りです。
私も『ぐりとぐら』に始まる連作を読み、その朗らかで温かみのある話の筋立てを大変印象深く思ったものです。
ところで、童話であれ小説であれ、あるいは論説であれ、ときにその本と読んだ場所が深く結びつく一冊があります。
『ぐりとぐら』は私にとってそのような一冊の一つでした。
すなわち、私が初めて『ぐりとぐら』を読んだのは、かかりつけの小児科医で今は廃院となった目黒区緑が丘の中野小児科医院でした。
入り口を背に、廊下の右側が診察室で左側が待合所として椅子が置かれた医院は木の床に白い壁という、いかにも診察所らしい作りでした。
病気の流行に関する注意を喚起する印刷物や目黒区内の保健情報の案内が貼られている掲示板の下に本棚があり、童話や漫画などが収められ、診察の前後の子どもたちがそれらの本を思い思いに手に取っていたものです。
その中の一冊が『ぐりとぐら』で、背の上下が少し朽ちており、どのページも開きやすくなっていたのは、多くの子どもやその親が本を利用していた証拠でした。
母に読んでもらった『ぐりとぐら』は、とぼけた雰囲気の2匹のねずみが、信じられないような大きな卵からホットケーキを作るといういか筋立てが魅力的で、診察までの時間に何度か繰り返し読んでもらいました。
その後、通っていた幼稚園にも『ぐりとぐら』があることを知り、また母に買ってもらったこともあって、『ぐりとぐら』はより親しいものになりましたし、私が童話として最初に思い出す一冊となりました。
今ではわが家にも『ぐりとぐら』があり、今度は私がわが子たちに読み聞かせています。
そして、この本を手にするたびに、中野小児科医院の院内の静かな様子と中野敏江先生の優しい雰囲気が思い出されます。
子どもをもって新生児向けの絵本を手にした際に、その簡潔な内容に驚き、私が思い描いていた絵本の基準が『ぐりとぐら』であることに気付いたことも含め、これは私にとって今も思い出深い一冊となっています。
中川李枝子さんのご冥福をお祈り申し上げます。
<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Ms Rieko Nakagawa (Yusuke Suzumura)
Ms Rieko Nakagawa, an author, had passed away at the age of 89 on 14th October 2024. On this occasion, I remember miscellaneous memories of Ms Nakagawa.