『クラシックの迷宮』の特集「指揮者・井上道義の世界」が示唆する井上道義の特徴と後世への価値
今日放送されたNHK FMの『クラシックの迷宮』は、2024年12月31日をもって指揮者を引退することを表明している井上道義を特集した「指揮者・井上道義の世界~NHKのアーカイブスから~」が放送されました。
独創的な企画や意欲的な演奏によって日本の指揮者界を牽引する一人である井上道義の芸術がどのように形成されてきたかを探るため、青年時代から中堅時代にかけての演奏を中心にNHKが収蔵する録音を取り上げるのが今回の企画の趣旨です。
紹介されたのは、井上が初めてNHK交響楽団の定期公演に出演した1978年5月25日の第752回定期公演で演奏されたロッシーニの歌劇『泥棒かささぎ』序曲、プロコフィエフの交響曲第1番「古典」、ドビュッシーの交響詩『海』のほか、東京フィルハーモニー交響楽団を指揮してNHKの番組『名曲アルバム』のために録音されたフォーレの『シチリアーナ』や堤剛のチェロ独奏によるカザルスの『鳥の歌』、あるいはチャイコフスキーのバレエ組曲『眠りの森の美女』のアダージョなどでした。
これらの演奏を通して司会の片山杜秀先生が描こうとするのは、NHK響の定期公演において示された、曲の振幅を大きくし、演奏者に負荷をかけながら曲の際を狙う青年指揮者の意欲的な演奏であるとともに、他面において『名曲アルバム』のようにいわゆる通俗名曲をより多くの視聴者に聞きやすい形で届けるという背景音楽も手堅く仕上げる、井上道義の指揮者としての多様な姿でした。
さらにはダグラス・リルバーンの序曲『アオテアロア』のように演奏される頻度の少ない作品も求めに応じて取り上げる幅の広さの一例として紹介するのは、片山先生の視野の広さを示すものでした。
それとともに、1978年のNHK響の定期公演から1980年代の『名曲アルバム』の演奏を通覧することで浮かび上がる「井上道義の世界」は、やがて1986年の教育テレビの番組『趣味講座』の一篇として放送された「第九をうたおう」を通して広く視聴者に知られることになります。
また、演奏者に負荷をかけながら曲の姿をより活き活きと描き出そうとする音楽作りは専門家だけでなく愛好家に対しても同じであり、2012年1月22日(日)の京都大学交響楽団の第190回定期演奏会におけるマーラーの交響曲第9番などは、指揮者と演奏者が正面からぶつかり合った結果として瑞々しく奥行のある演奏になったことからも分かります。
このように考えれば、今回の特集は井上道義という指揮者の発散する磁力の大きさが活動の初期から備わっていた特徴であり、その能動性のゆえにたとえ指揮活動から引退しても作り出された演奏は今後も長く後世に伝えられることを示唆したと言えるでしょう。
<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Implies Michiyoshi Inoue's Characteristics as a Conductor and the Future of His Art (Yusuke Suzumura)
The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" featured Michiyoshi Inoue to review his early career on 27th April 2024. On this occasion, this programme implies Inoue's characteristics and the future of his art as a conductor.
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