野村哲郎農水相の「全く想定していなかった」発言は何が問題か
8月25日(金)の閣議後の記者会見において、野村哲郎農林水産大臣が中国の税関当局による日本からの水産物の輸入を全面的に停止すると発表したことについて「大変驚いた。全く想定していなかった」と発言しました[1]。
これは、東京電力福島第1原子力発電所のいわゆる処理水の海洋放出を受けた中国政府の措置に関する発言であり、現行の制度では原発処理水の海洋放出に関連して海産物の売り上げや需要が減った場合に支援する基金を用意しているものの[2]、加工業者は対象外となっている点を念頭に置いたものです。
確かに、こうした基金が前提としていない事態が発生したことを考えれば、野村農水相の発言も適切なものと言えます。
また、財務省に対して追加の措置を要求するためにも、今回の出来事が例外的であることを強調するのは、政府内における限りある財源によって政策を実施する際の、重要な駆け引きとなります。
あるいは、野村氏は農林水産省を所管するのであって外務省は管轄外であり、外交政策についても主体的に取り組む立場にはない事を考えれば、ある意味で率直な発言ということになるでしょう。
一方で、いわゆる処理刷りの海洋放出に関する問題に対して政府が一丸となって対応することを岸田文雄首相が表明する中で、野村農水相が事態を想定していなかったと発言したことは、政府の危機管理能力の限界を露呈するかのようであり、好ましいものではありません。
さらに、こうした発言によって、政府が一丸となるという前提そのものの不確かさも示された形となりました。
その意味で、今回の野村農水相の発言は、その率直さゆえに様々な問題をわれわれに対して明らかにしたのです。
[1]中国の水産物禁輸「全く想定していなかった」 野村農相 処理水巡り. 毎日新聞, 2023年8月25日, https://mainichi.jp/articles/20230825/k00/00m/020/148000c (2023年8月28日閲覧).
[2]水産物に追加支援策、政府調整 中国禁輸でホタテなど. 日本経済新聞, 2023年8月25日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA255WE0V20C23A8000000/ (2023年8月28日閲覧).
<Executive Summary>
What Is a Problem of Minister of Agriculture, Forestry and Fisheries Tetsuro Nomura's Comment on China's Emergo? (Yusuke Suzumura)
Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries Tetsuro Nomura pointed out that Chinese Government's decision to emergo Japan's seafood by the result of Japan's release of "treated water" at the press conference of 25th August 2023. On this occasion, we examine a meaning of Minister Nomura's comment.