『クラシックの迷宮』の特集「春の“超人”音楽祭」が示した二つの視点

昨夜のNHK FMの『クラシックの迷宮』は「春の“超人”音楽祭」と題し、リヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはこう語った』や『アルプス交響曲』、あるいはマーラーの交響曲第3番、第8番などが取り上げられました。

今回は、19世紀末にニーチェが『ツァラトゥストラはこう語った』の中で示した「超人思想」を手掛かりに、19世紀末から20世紀初頭の音楽と思想との関わりを検討するという第一の視点と、「超人は神になりきれないから敗れるが、再び立ち上がる点に『超人幻想』がある」という第二の視点からマーラー、リヒャルト・シュトラウス、リスト、宮内國郎、冬木透、ジョン・ウィリアムズ、マイケル・ドハティの作品を考えるという、実質的な2部構成が採用されていました。

前者についてはマーラーやリヒャルト・シュトラウスの作品を例示すれば、多くの聴取者の同意を得ることは難しくないでしょう。

一方、これらの作曲家に宮内、冬木、ウィリアムズ、ドハティが加わえられることは、ややもすれば奇を衒う試みであるかのように思われるかもしれません。

しかし、能力の点で人間を超え、限りなく神に近づいた存在であるものの、最後まで神の領域に入ることが出来ず、そのために敗北を喫し、それでもなお再起するという「超人」の特徴を明瞭に定義することで、一面においては『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』あるいは『スーパーマン』という作品にとって「敗北」が重要な位置を占める理由を明らかにし、他面において「超人思想」に基づいて作品を作り上げた後期ロマン派の作曲家たちの系譜が20世紀後半から21世紀の現在にまで受け継がれていることが示されました。

こうした構成は音楽と思想の関係とともに、思想と作品、さらに作品を通した人的な繋がりについて、一つの視点を聴取者に提供するものです。

何より、20世紀後半以降、映画やテレビが作曲家にって重要な創作活動の場となったという事実を踏まえた選曲は「クラシック」の枠組みの広がりを伝えるものでもあります。

そのような意味でも、今回の特集は音楽を複眼的に捉え、多様なあり方を丹念に追及する片山杜秀先生らしさがひと際よく表れていたと言えるでしょう。

<Executive Summary>

"Labyrinth of Classical Music" Shows Aspects of "The Overman" in Music (Yusuke Suzumura)

A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcasted via NHK FM featured the idea of "The Overman" in music on 2nd April 2022. It might be a meaningful opportunity for us to examine aspects of the concept of "The Overman" and its variations in classical music not only in symphonies and tone poems but in music of movies or TV programmes.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?