政府による「ポスドク問題解決の解決」に必要なのはいかなる取り組みか

去る1月23日(木)、政府の総合科学技術・イノベーション会議が開催され、2021年度に始まる第6期科学技術基本計画などで、博士課程の大学院生のうち、希望者に1か月につき15-20万円の生活費相当額を支給するなどの対策が決定されました[1]。

大学院博士課程あるいは博士後期課程を修了した後も大学の教員や企業の研究職などに就職できないいわゆる「ポスドク問題」[1]が社会問題化しているのは、周知の通りです。

そして、「ポスドク問題」が、1990年代に始まった国立大学の大学院重点化政策と文部省が高等教育政策の重心を学部から大学院に移したこと[2]が主たる原因の一つであるということも、広く知られるところです。

その意味で、ほぼ30年前に導入された政策の課題について、30年後に解決策が図られるという状況は、ある政策を制定する際、期待される成果と実際の結果との照合には一定の時間が必要であることをわれわれに教えます。

一方で、「ポスドク問題」に象徴される大学院のあり方や大学院生の研究の環境などが議論される場合、しばしば理科系の事例に焦点が当てられ、文科系に対する取り組みの扱いが軽んじられがちであると言えます。

例えば、「今、世界規模で知の競争が繰り広げられている。科学や技術の力で新産業を生み出し経済成長につなげるもくろみは妥当といえる」[3]というとき、具体例として「リチウムイオン電池やがん免疫薬、青色発光ダイオード(LED)といった社会に豊かさをもたらす革新技術は、研究者や科学者の発案による基礎研究がベースになる」[3]ことが挙げられている点は、少なくとも日本の学術研究を論じる際に理科系を中心とする考えを前提とする人がいることを示唆します。

しかし、大学院を含む日本の教育や研究が理科系のみではなく、文科系をも包摂することは自明です。

また、現在は「科学」と翻訳されるscienceが知識全般を指すラテン語のscientiaに由来することも、「科学」が単に理工系と呼ばれる分野に限定されるものではないことを推察させます。

従って、「ポスドク問題」を考える際に「イノベーションの創出」などを指標として対策を考えることは、問題の一部分を解決することにはなっても、問題そのものを解消するためには不十分とならざるを得ません。

もとより、何らかの指標を定めることは政策を立案する際に重要ですし、問題の解決のために対応策を順位付けして取り組むことも必要です。

それでも、あらゆる研究分野に共通する単一の指標を設けることが容易ではないとするなら、ある特定の指標に基づいて政策を定めることは評価の尺度に当てはまらない分野を等閑視することに繋がりかねません。

それだけに、当局者には幅広い視野を持ちながら問題の解決を進めることが求められるのです。

[1]「ポスドク」総合対策決定. 日本経済新聞, 2020年1月24日朝刊4面.
[2]内山弘美, 建設系学科における環境冠学科の設置メカニズム. 環境システム研究論文集, 30: 233-239, 2002年.
[3]イノベーションの土壌作りこそ国の役割. 日本経済新聞, 2020年1月27日朝刊2面.

<Executive Summary>
What Do We Want to the Council for Science, Technology and Innovation to Solve the "Post-Doc Problem"? (Yusuke Suzumura)


The Council for Science, Technology and Innovation held the meeting and decided to introduce a new policy to solve so-called "post-doc problem" on 23rd January 2020. It might be an important step for Japanese society to solve the problem but such kind of policy is not the only solution. Since there are many research fields and it might be impossible for us to evaluate these fields with one index.

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