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誤解を通して考える政治家石橋湛山

去る9月29日(日)、山梨日日新聞朝刊3面の「時標」欄に私の論考「誤解を通して考える政治家石橋湛山」が掲載されました[1]。

本論では、石橋湛山の政治家としての活動を概括するとともに、現在広く理解されている政治家石橋湛山の像を通して、その姿を検討しました。

そこで、今回は本論の内容を一部修正した上で、以下にご紹介いたします。


誤解を通して考える政治家石橋湛山
鈴村裕輔

戦前は言論人として活躍し、戦後は閣僚を歴任した後に首相を務め、退任後は日中国交正常化などに尽力したのが石橋湛山です。

しかし、言論人としての石橋の活動についての研究に比べ、石橋の政治家としての取り組みへの理解が進まなかったり、誤解に基づく議論がなされたりするのも実情です。

第一の誤解は、石橋の代表的な議論として知られるいわゆる小日本主義と政治活動の関係です。

しばしば小日本主義は武力に基づく植民地主義の時代にあって植民地の放棄を唱えた先進的な主張と考えられます。

しかしながら、実際には石橋の主張は世論の多数派を形成できませんでした。これは石橋にとって大きな挫折であり、自らの主張を実際の政治に反映させるため、戦後に政界に進出する動機となりました。

石橋にとって小日本主義は成功しなかった議論であり、その失敗がなければ政界を目指すことはなかったのです。

第二の誤解は、石橋の対米関係に関する議論です。

確かに第一次吉田茂内閣で大蔵大臣に就任して以来、一貫して米国への政治的な依存の度合いを減らし、自律的な政策の実現を施行していると考えられたのが石橋です。日本の占領時代にはそうした理解が石橋の公職追放にも繋がりました。

そして、首相就任に際して石橋が「向米一辺倒になることはない」と主張したのですから、当時だけでなく今も対米関係よりも対中関係を優先するとか、対米自立を目指すといったいった理解がみられるのも無理からぬところです。

ただし、特に首相就任後の石橋の発言を確認すると、あくまで日米関係を基軸とし、両国の立場をより対等なものにすることを目指したのであり、決して米国と決別することを意図していなかったことは明らかです。

その意味で、対中、対米を含む石橋の外交政策は、本人の考えとは異なる受け止められ方をしていました。記者会見のたびに石橋が対米関係の重視を強調したのは、そうしなければ誤解が事実として定着することを懸念したためでした。

第三の誤解は、石橋が病気により六十五日で対峙しなければその後の日本は変わったという議論です。

もちろん、石橋がその後の岸信介や池田勇人のように三年以上にわたり政権を担当すれば、日本の経済発展はより早い段階で訪れたかもしれません。ただし、日米安全保障条約の改定問題に取り組むのも石橋政権となります。

国民の支持率の高かった石橋内閣であり、戦前からの自由主義者として知られた石橋であれば、岸信介内閣の時のように国論を二分する安保闘争は起きなかったでしょうか。

石橋内閣の外務大臣は岸信介でした。外交政策に疎い石橋が安保改定問題を主導するのではなく、岸が外相として対米交渉を担うことになれば、後に岸が目指した日米が双務的となる内容での改定が進められることになります。

その場合、石橋は首相として国民から批判され、現在のような名声を保てなかったと考える方が妥当でしょう。

これら三つの誤解をみるだけで、政治家としての石橋は実際の姿とは異なる形で理解されていることが分かります。

むしろ実際の政治における石橋は、日本の国民の福祉の向上や国家の利益の増進のためには現実の問題を解決する必要があることを誰よりも熟知した、現実主義者でした。

われわれは石橋のこうした姿に注意を払ったうえで政治家としての事績を評価する必要があります。

そして、新たに自民党総裁となった石破氏も、石橋湛山を理想の政治家の一人として挙げています。

それだけに、石破氏は、党の先達としての石橋湛山の現実主義に学ぶ必要があると言えのです。


[1]鈴村裕輔, 誤解を通して考える政治家石橋湛山. 山梨日日新聞, 2024年9月29日朝刊3面.

<Executive Summary>
Statesperson Ishibashi Taznan Seen from the Three Misunderstandings (Yusuke Suzumura)

My article "Statesperson Ishibashi Tanzan Seen from the Three Misunderstandings" was run on the Yamanashi Nichinichi Shimbun on 29th September 2024. On this occasion, I introduce the article for the readers of this weblog.

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