「9.11」が米国と米球界に与えた影響

去る9月13日(月)、日刊ゲンダイの2021年9月14日号27面に私の連載「メジャーリーグ通信」の第100回「「9.11」が米国と米球界に与えた影響」が掲載されました[1]。

今回は、今年9月11日に米国での同時多発テロの発生から満20年を迎えたのを機に、いわゆる「9.11」が米国の社会と球界に与えた影響を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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「9.11」が米国と米球界に与えた影響
鈴村裕輔

世界を震撼させた米国同時多発テロ、すなわち「9.11」の発生から20年が経った。

「唯一の超大国」の米国が現地時間の1941年12月7日の真珠湾攻撃以降では初めて本土を攻撃されたのは、米国史上の痛恨事となった。それだけでなく、世界の政治、経済、文化の中心地のひとつであるニューヨークの中でもひときわ目立つ世界貿易センタービルが倒壊したことが、とりわけ米国の人々に与えた影響は大きかった。

2004年から2013年まで放送された人気テレビドラマ『CSI:ニューヨーク』の主人公マック・テイラー(ゲイリー・シニーズ)は、「9.11」で妻を失ったという設定である。また、昨年4月に8シーズン目で終了した『ホームランド』では、物語の初期の準主役であったニコラス・ブロディ(ダミアン・ルイス)はアフガニスタンで8年間戦争捕虜だった海兵隊員として描かれる。

あるいは、医療ドラマの最高峰として日本でも広く親しまれた『ER』の主要登場人物であったマイケル・ガラント(シャリフ・アトキンス)は、シカゴのカウンティ総合病院を離れて陸軍の軍医としてイラクに赴き、現地で戦死する。

こうした設定は、作品や登場人物への視聴者の関心を集めることだけを目的として用いられるのではない。むしろ、「テロとの戦い」や「イラク戦争」、「アフガン戦争」が米国の人々にとって身近な出来事であるため、これらの話題を織り込むことで作品の真実味をより増す効果を持っている。

事情は米国の球界も同じで、「9.11」の前後で様々な変化が現れた。

ヤンキー・スタジアムでは、記者証を携帯していても専用の入り口で手荷物の検査を毎回受けなければ入場することができなくなった。

3日間も通えば「今日も君か」と係員も検査の手順を簡略化するようになるとはいえ、「9.11」前には行われなかった措置が導入されたことは、野球場が劇場や博物館などと同じく、不特定多数の来場者が出入りする一方で警備が手薄になりやすく、テロの対象となりやすい「ソフトターゲット」であることを示している。

また、「9.11」を境として、外国籍でマイナー契約の選手や、マイナー球団の外国人職員などに対する就労ビザの発行が厳格化されたことも記憶に新しい。

「日本人初の大リーグ審判」まであと一歩と迫った平林岳が、就労ビザの発給が遅れにより渡米の時期の変更を余儀なくされたことなどは、テロ後の審査の厳格化がもたらす厳しい現実を象徴する出来事の一つである。

このように考えれば、「9.11」は今も米国の人々に大きな傷跡を残しているだけでなく、球界にとっても見逃せない影響を与えているのである。
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[1]鈴村裕輔, 「9.11」が米国と米球界に与えた影響. 日刊ゲンダイ, 2021年9月14日号27面.

<Executive Summary>
What Are Influences of the "September 11" for the US Society and the MLB? (Yusuke Suzumura)

My article titled "What Are Influences of the "September 11" for the US Society and the MLB?" was run at The Nikkan Gendai on 13th September 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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