907回目:【文化】インド人と日本人の根本的な違い
2024年03月04日の備忘録
2019年から始まったインド駐在。私が、コロナ禍で1年半ほどインドに居なかったにせよ、インド国内出張をした数は80回を超える。3日に1日はどこかに居る計算となる。私の部下は直下で12人、会社全体では26人を超え、弊社でも大所帯の海外現地法人だ。そこで4.5年もの月日を共にし、インド人と仕事してきた私の経験から、簡単にインド人と日本人の考え方や、仕事の向き合い方を比較したいと思う。
【1】仕事は自分のキャリアアップ
インド人対象にアンケートを行った結果、インド人の仕事のスタンスとして、仕事で最も大事なことは「高い賃金・充実した福利厚生」が全体の過半数を占め58.8%らしい。同質問に対して日本人は39.0%。自分の能力を発揮し、自己成長し、成功したいと思っているインド人はたくさんいる。
一方、日本ではチームプレーだったり、個よりも体を重んじる考えの方が少なくないが、インドでは、自分の成長、能力向上、キャリアアップ、つまり個人プレーを中心にしてるため、日本ではあまり聞き馴染みのないジョブホッパー(転職)という言葉がある。目標として、自分のスキルアップ・キャリアアップを通して給与を上げたいと考えるインド人は多い。
仕事における価値観は至って個人主義的だと言われているか、そのイメージは決して、「単独行動」、「自分のことしか考えていない」のようなネガティブではない。「自分でなんでもやりたがる」気持ちが、日本人よりもとても強いような印象だ。なので、私が部下に仕事の指示をする場合、「あなたに任せた!」という言葉が、逆に彼らの心をくすぐるワードであることも気がついた。
更に、日本人は自分の仕事を後輩へ、そしてまた後任へと引き継いでいくことが当たり前のように行われている。しかし、インドでは、自分が携わっている仕事を他人に渡すことを極度に嫌うように思える。それは、自分の仕事を他人に取られた、つまり、それは屈辱的なもの、更には、自分のキャリアアップのための仕事やチャンスが、他人に渡ったという考えに至る。
【2】しかし、競争心があまりない
先の文章では、インド人は、日本人に比べて、個人プレーを重視すると記載した。ただ、それは個人の仕事への向き合い方であって、ビジネスや会社内で他人と競争しようとしているかといえば、それも少し違う。インドでは、自分のキャリアに重きを置くものの、他人の成功も尊重し、集団の成功や社会的な価値観も重視する傾向がある。そのため、相手を蹴落す個人的な競争よりも協調性や共同体のために努力することが重要視される。出世競争の雰囲気も、日本のようにあからさまには表に出てこない。
また、短いサイクルで仕事を変える割には、勤務中の会社への忠誠心は、日本人よりも、むしろ、インド人の方が強いかもしれない。なので、転職文化が比較的少ない日本人というのはむしろ、会社の忠誠心が特になく、ただ働いているだけで、結果的に勤続年数が長いだけで、忠誠心があるように見えているだけと言う逆の見方もできる。さらに、部署の垣根を超えて互いに情報交換が活発で、仲間にヘルプが必要な際には、率先して助けようとする気概もある。自分の仕事を他人に取られるのは御法度だが、他人の仕事を助けようとするホスピタリティはとてもある。
インドの文化や宗教には、相手を傷つけない、相手の面子を損なわない、他人の意見を尊重するなどの価値観が含まれており、競争に対して積極的ではない。
【3】いい意味で楽観的。日本人からみたら「嘘」に聞こえる
インドはここ数年急速な経済成長を継続し、特に、IT産業を中心に数多くのスタートアップが誕生している。インド人は個人主義で、常に上段階を目指す傾向があるものの、楽観的な一面もある。
例えば、「これ出来ますか?」と聞いたら、ほぼ100%「はい出来ます」と答えるのがインド人。「これ出来ますか?」と聞いたら、「いやぁどうですかね?」と含みを持たせるのが日本人。インド人は、仕事において「できる!」といったものの、どうやったらうまくいくのかを後から、もしくは同時にその場で考える。日本人は、プロジェクトを進めるにあたり、想定リスクや失敗した時にはどうフォローするかなど、リスクを中心に考える。一方、インド人はあまり想定リスクを気にしない。成功すれば次の手を、失敗すれば打開策を、常に起きたことを元手に、その場で挽回行動に移る。
よって、インド人から言われた納期スケジュールは、常に「最速の場合」が、枕詞に隠れているのだが、余裕を持ったスケジュールで無難に考える日本人はその枕詞が隠れていることに気がつかない。なので、インド人から言われたスケジュールが、実際遅れた場合、「インド人は時間が読めていない」と苦言を呈すようになる。しかし、本当に最速で完了する時も多々あるため、実は「あれこれ考えて、余裕を持ってスケジュール設定をしている日本人」の感覚では、インド人のスピード感についていけなくなることもある。よって、楽観的であることはインド人の強みとも言える。
当初のスケジュールが変わり、それに憤慨した日本人が、インド人に対して、「あの時出来るって言ってたじゃん!」と真剣に言っても、残念ながら何も心に響いていない。彼らにとっては、「今の現状はこれ。しょうがない。後は次に何をするか考えよう。」と思っている。
「できる!」と積極的になり、悲観的にならずに、常に前向きな点は、お尻が重くなりがちな日本人も真似すべき点かもしれない。
【4】パワーバランスの思想
インドの文化は、社会的な階層制度があり、特にカーストが非常に強く根付いてる。大都市ではカーストはあまり関係なくなってきているが、基本インド人の深層心理には「階層」はかなり根付いている。一方、日本では、社会的な階層は比較的緩やかで、権力格差もそれほどない。
また、インドでは、権力者や上級階層が持つ権力に対して敬意を払うことが一般的であり、権力者が権力を行使することに対して批判的な見方をすることはあまりない。しかし、日本では、権力者に対しても公正さや正義を求める傾向があり、権力者による権力の濫用に対して批判的な見方をすることが多い。
ただ、私の私見では、インドでは肩書が高ければ高い方が、かなり仕事をしているように見える。インドの部下からも、高いポストだから、仕事して当然だろうという目線で見られている。故に、それに見合ったリーダーシップや、決定力、そして、統率力が部下から自然と求められる。「若いからそんなの出来ません」とか言っている場合ではない。「リーダーなら、リーダーらしく仕事して当然」。人の上に立つ人は、それを自覚する必要がある。
さらに、インドで働く上で、組織においてトップダウンの指示や承認プロセス、トップ同士の交渉などが重要視されていることは絶対に頭に入れておく必要がある。例えば、インドで営業する際に、決定権のない人物と会話をしてもほぼ意味がない。あれこれと、好き放題言われ、情報が錯綜する。それに気がつかない日本人は、それを真実のように本部へ報告しがちである。
【5】時間の概念
インドの文化では、伝統的な価値観や信仰体系が強く根付いている。しばしば過去の経験や教訓にもとづいて行動し、未来に対する長期的なビジョンや計画よりも、「現在の状況や即時のニーズ」に焦点を当てる傾向がある。なので、「10年後は必ず元取れるけど、投資金額が高い商品」になりがちな日本の商品は中々説得が難しい。インド人は、「10年後とかではなく、今得するか損しないか」を考えている。
一方、日本の文化では、「長期的な視野や持続可能な発展への取り組み」が重要視されている。過去の経験や歴史から学びながら、将来に向けて計画を立てることに注力する傾向がある。長期的な安定や経済的な成長、技術革新への投資などが重要視され、組織や企業、個人の行動にも反映されている。
地図を書かないと山に登れない日本人と、地図がなくても取り敢えず山に登ろうとするインド人と言ったところか。
日本とインドの間での納期に対するこだわりの違いは、長期的思考か短期的思考かという指標が要因であると考えられる。
【6】不確実性への向き合い方
インドでは、不確実性を受け入れ、自然の摂理に従って生きることが重要視されている。インドの宗教や哲学には、万物は常に変化し、不確実なものであるという考え方があり、人生の不確実性に対しても受け入れる傾向がある。だから、起きたことはどうしようもない、何か次の一手はないかと簡単に受け入れる。
一方、日本では、不確実性を回避し、安定した状態を求める傾向がある。日本の社会や経済システムは、安定や予測可能性を重視しており、不確実性に対するリスクマネジメントが重要視される。計画的で合理的な行動を好む傾向があり、不確実性に対しても可能な限りの対策を取ることが求められる。さらに、不確実性な事態が生じた場合、その対処が遅れるのが日本。実は、「不確実性の回避を好む指標」が世界基準でも高い日本。
インドでは、「ジュガード」と言う言葉が、日本の「大和魂」と同じような立ち位置で、ほぼ全員の心の中に根付いているマインドがある。「ジュガード」とは、「臨機応変な対処」と言う意味。日本人から見たら、「場当たり的な対処」とも取れる。インド人は、過去にイギリスによる統治や、コロコロ変わる政治の世界で生きていているため、古くから「変化に順応」せざるを得ない生活をしてきた。なので、「長いスパンで色々考えてもどうせ変わるから今考えても意味がない、だから取り敢えずやってみて、何か起きたらその時に考える」と考えがちだ。
【7】最後に
まだまだ発展途上であり、インフラが完全には整っていないインドでは、日々予測不可能な事態に遭遇する。長期的で綿密な計画(ウォーターフォール式)を立てずに、仕様や設計の変更が当然あるという前提に立ち、短期的でラフな計画(アジャイル式)を好むのも国のフェーズや思想が反映されている。納期を当たり前の自然に守れる日本人の感覚と、常に起こりうるトラブルに対して、多くの選択肢と寛容に対処する余白を持っているインド人が、それぞれの良いところを発揮することで、更に良い仕事ができる可能性がある。これが、インド人と日本人がタッグを組む最大のシナジー効果と言えるのではないか?