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911回目:【ESG】インド脱炭素対策~アダニ・グループとグリーン水素~
2024年03月10日の備忘録
本日は、世界を取り巻く脱炭素の世界、その中でも現在二酸化炭素の排出量世界第三位のインドの事情を深堀りしていこうと思う。2022 年 11 月 15 日、世界の総人口は80 億人を超えた。国連によれば、インドの人口は2023年には、14.28億人になり中国を追い抜いた。これは、世界全体で見ると100人に17、18人がインドの人になるということ。更にこれからも人口が増えると言われているインドは、今後も経済産業発展が予想される。しかし、それと同時に、二酸化炭素の発生を抑制しなければならないのが、この国が抱えている大きな課題だ。
下記の情報は、2024年03月10日時点で、インドの政府ホームページや各企業のプレスリリースを徹底的に調べ挙げ、それを元に、私なりにまとめたものになる。
【1】アジアにおけるエネルギー転換の重要性
アジアは世界の人口の約60%を占め、世界のエネルギー需要の急速な増加を牽引している。国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、2040年までに世界のエネルギー需要の4分の3がアジアで発生すると見込まれる。アジア各国は経済発展段階やエネルギー資源の保有量において大きな格差が存在する。中国は既に世界最大のエネルギー消費国であり、インドも急速にエネルギー需要を拡大している。一方、東南アジア諸国はエネルギー資源に乏しく、エネルギー安全保障が課題となっている。
【2】インドの現状と責任ある成長への道
インドはアジアにおけるエネルギー転換において重要な役割を担う。人口14億人を超え、高い経済成長率を維持するインドは、今後数十年間、世界のエネルギー需要増加の主要な要因となる。インドの一人当たりのエネルギー消費量は世界平均の半分以下であり、累積排出量に占める割合もわずか3%と、先進国と比較して排出量は非常に少ない。発展途上国であるインドは気候変動の影響を受けやすく、責任ある成長を目指すことが求められる。先進国は資金や技術を提供し、インドが経済成長を犠牲にすることなく気候変動対策を進められるよう支援する責任がある。
【3】中国との比較とインドの目標
中国は急速な経済成長によって国民の生活を向上させたが、単純に中国とインドを比較することは適切ではない。中国は2000年から2013年にかけて急速な工業化を行い、現在の世界排出量の24%を占める。インドは経済発展途上であり、一人当たりの電力量やセメント消費量も中国の4分の1に過ぎない。2025年までに5兆ドル経済を目指すインドには、エネルギーシステムやインフラ整備に8000億ドル以上の投資が必要であり、不可避的に排出量が増加する。インドは排出強度削減と再生可能エネルギー比率向上という2つのNDC(国別約束実行計画)に注力しており、パリ協定の義務を果たすべく順調に進んでいる。
モディ首相は2021年8月の独立記念日に国家水素ミッションを発表し、この可能性を示唆した。この野心的な計画は、2030年までに450GWの再生可能エネルギー導入目標を土台とし、肥料や製油などの分野での需要喚起、水素燃料電池自動車の開発促進などを目指している。2022年11月には、COP26で約束した2030年までに再生可能エネルギーが全設置容量の半分を占める目標を、2040年までに50%から55%に引き上げることを発表した。
【4】アダニグループの取り組みと責任ある運営
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アダニグループは、インドを代表する複合企業体であり、港湾、空港、エネルギー、資源、不動産など幅広い事業分野を展開している。特に近年は、再生可能エネルギー分野における投資を積極的に進めており、世界最大規模の太陽光発電事業者として成長を遂げている。
(ただし、アダニグループの時価総額は、2023年1月に約2000億ドルまで上昇していたものの、その後はHindenburg Researchによる不正疑惑レポートを受けて下落を続した。今後もアダニグループの時価総額は、疑惑の真偽や、インド経済の成長などによって変動する可能性がある。)
グループ会長は国家建設ビジョンを掲げ、責任ある成長を指針としている。2021年のJPモルガン・インド投資サミットで、会長はインドの排出強度削減目標を超えるとの約束を表明した。アダニグループは、再生可能エネルギー事業に注力しており、計画より4年早い2025年には25GWに達する見込みである。
さらに、グループ傘下のアダニ・グリーン・エナジーは、2030年までに世界最大の再生可能エネルギー企業になることを目指している。アダニ氏は、インドの排出強度削減目標を超えるだけでなく、2070年までにネットゼロを達成することを目指していると表明している。さらに、グループの資本支出の75%をグリーン事業に充て、今後10年間で再生可能エネルギー、グリーン部品製造、インドのエネルギーシステムにおける再生可能エネルギーの受け入れを可能にするインフラ整備に200億ドルを投資する計画を表明している。
【5】基盤となる火力発電の課題とグリーン水素の可能性
インドは今後10年間、再生可能エネルギー容量を世界トップクラスに引き上げ、必要なインフラや産業能力を高めていくが、安価で信頼できる基盤となる火力発電が必要である。インドは国内に豊富な天然ガスを持たず、輸入LNGは発電には高すぎる。ウランも輸入に頼っており、水力の大幅な拡大は生態系への影響や住民の移転を慎重に検討しなければならない。このため、蓄電技術やグリーン水素などのコストが下がるまでは、今後20年間は石炭が基盤となる火力発電の重要な構成要素であり続けるだろう。アダニグループは責任ある運営を行い、火力発電設備の排出量はインド平均より7%低く、世界でも最も効率的だ。さらに排出強度を下げるため、石炭とバイオマスを混焼させる計画や、水素とグリーンアンモニアの混焼、CO2回収・利用のパイロット事業に取り組んでいる。(アダニグループ会長ブログより)
【6】グリーン水素は、排出ゼロのクリーンエネルギー源
ゴータム・アダニ氏のブログ記事「ネットゼロへの道のりでグリーン水素を活用するための鍵:コスト削減」の中で、アダニ氏は、グリーン水素が化石燃料の重要な代替手段としての可能性と実現可能性について考察している。水素は潜在的なエネルギー貯蔵媒体として知られており、燃料電池で電気を生成することができる。その際の唯一の廃棄物は水である。
【6-1】コスト削減と垂直統合による最適化
アダニ氏は、グリーン水素の更なる普及には、生産コストの削減が不可欠であると指摘している。現在の1キログラムあたり3-5ドルから、広く普及させるためには1ドル以下に低減する必要がある。また、サプライチェーン全体を網羅した垂直統合アプローチを採用することで、グリーン水素を手頃な価格にすることが重要であると主張している。
アダニ・エンタープライゼス・リミテッド(AEL)傘下のアダニ・ニュー・インダストリーズ・リミテッド(ANIL)は、世界競争力のあるグリーン水素とその関連する持続可能な派生品を生産するためのエンドツーエンドのソリューションを開発している。ANILの最初の100万トン/年(MMTPA)グリーン水素プロジェクトは、グジャラート州で段階的に実施されており、初期段階は2027年度までに生産を開始する予定。市場状況によっては、ANILは今後10年間で約500億ドルの投資により、グリーン水素の生産能力を最大3 MMTPAまで拡大することを目指している。
【6-2】日本企業K株式会社とアダニグループ、カーボンニュートラル関連事業における包括業務契約締結
2023年12月26日 、K株式会社は、インド最大級の複合企業体であるアダニグループの中核企業群、アダニ・エンタープライジズ、アダニ・パワー、アダニ・ポート&SEZ、アダニ・グリーン・エナジーおよびその関連会社との間で、カーボンニュートラル関連事業を推進するための包括業務契約を締結したことを発表した。本契約締結により、K株式会社はアダニグループとの協業関係を強化し、脱炭素社会実現に向けた革新的なビジネスソリューションの創出と事業拡大を目指します。具体的には、以下の分野において協働していくと述べた。
グリーンアンモニアバリューチェーンの構築:シンガポールに合弁会社を設立し、インドで生産される再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニア、肥料、メタノールなどの派生商品を取り扱う。将来的には日本や台湾を中心としたアジア市場への販売活動を展開し、フェーズIとして2028年をめどに年間100万トンのグリーンアンモニア販売を目指す。
アンモニア混焼技術の開発・実証:石炭火力発電におけるCO2排出量削減に向け、アンモニア混焼技術の開発・実証を推進する。2022年3月に締結したアダニ・パワー、IHIとの3社共同実証事業を推進し、アンモニア20%混焼の実現を目指す。
次世代燃料・リチウムバッテリー搭載電気推進タグボートの建造:環境負荷低減とエネルギー効率向上を目的とした次世代燃料・リチウムバッテリー搭載電気推進タグボートの開発・建造を推進する。
次世代型太陽光モジュールの生産:高効率・低コストな次世代型太陽光モジュールの開発・生産を推進し、太陽光発電事業の拡大に貢献する。
アダニグループとの強固なパートナーシップ:今回の包括業務契約締結は、興和とアダニグループの強固なパートナーシップを象徴するものであり、両社の持つ技術力、ノウハウ、市場リソースを結集することで、カーボンニュートラル関連事業の飛躍的な発展を目指す。
【7】インド政府、グリーン水素・グリーンアンモニア生産加速化に向けた新たな奨励制度導入
2030年までにグリーン水素年産能力500万トンを目指し、インド政府は2024年1月16日、グリーン水素・グリーンアンモニア製造のための新たな奨励制度を発表。本制度は、従来の制度(モード1)と比較し、以下の点が特徴である。
規模の経済によるコスト削減: 集約された需要に基づく入札制度により、規模の経済を実現し、グリーン水素・グリーンアンモニアの生産コストを大幅に削減することを目的としている。
技術革新の促進: 技術基準を満たすことが条件となるため、技術革新を促進し、高効率な生産技術の開発を加速化させる。
グリーンアンモニア市場の創出: グリーンアンモニア製造への奨励金支給により、新たな市場を創出し、国内におけるグリーンアンモニアの利用促進を図る。
【7-1】具体的な制度内容①グリーンアンモニア:
実施機関: インド太陽光発電会社 (SECI)
奨励金: 生産開始から3年間、1kg当たり8.82ルピー (初年度)
入札可能量: 年間55万トン (トランシェⅠ)
利用例: 肥料、化学製品、燃料、発電
【7-2】具体的な制度内容②グリーン水素:
実施機関: 石油・ガス省選定
奨励金: 生産開始から3年間、1kg当たり50ルピー (初年度)
入札可能量: 年間20万トン (トランシェⅠ)
利用例: 製油所、鉄鋼、モビリティ、発電
【7-3】期待される効果:
コスト削減: 規模の経済と技術革新により、グリーン水素・グリーンアンモニアの生産コストを大幅に削減
市場拡大: 奨励金と需要創出により、国内市場を拡大
雇用創出: 新たな産業分野の創出により、雇用を創出
国際競争力強化: コスト競争力のあるグリーン水素・グリーンアンモニアを生産することで、国際市場で競争力を強化
【7-4】政府は、今回の制度導入により、2030年までに以下の目標達成を目指す。
グリーン水素・グリーンアンモニアの生産量: 年間500万トン
CO2排出量削減: 年間5,000万トン
投資額: 約3,554億円
新規雇用創出: 約100万人
【7-5】今後の見通し:
更なる制度改善: 市場動向を踏まえ、制度を改善
民間投資促進: 投資環境整備により、民間投資を促進
国際協力: 国際的な技術協力や共同研究を推進
インド政府は、グリーン水素・グリーンアンモニアを国家戦略と位置づけ、積極的な政策展開を進めている。今回の制度導入は、インドにおけるグリーン水素・グリーンアンモニア産業の発展を加速化し、世界の脱炭素化に貢献することが期待されている。
【8】参考資料
アダニグループ公式サイト: https://www.adani.com/blogs/green-hydrogen-holds-strong-promise-for-india-energy-self-reliance
アダニグループブログ: https://www.adani.com/blogs/the-future-of-infrastructure-is-green
アダニグループブログ:https://www.adani.com/blogs/green-hydrogen-will-be-a-game-changer
日経新聞(2023年9月14日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM149DR0U3A910C2000000/
ESG Journal https://esgjournaljapan.com/world-news/13060
【9】用語解説
カーボンニュートラル: 温室効果ガスの排出量と吸収量を同等にすること
グリーンアンモニア: 再生可能エネルギー由来の水素を用いて合成されたアンモニア
アンモニア混焼: 石炭火力発電における燃料の一部をアンモニアに置き換えること
次世代燃料: カーボンニュートラルな燃料
リチウムバッテリー: 高エネルギー密度を誇る二次電池
電気推進タグボート: 電気推進システムを搭載したタグボート
次世代型太陽光モジュール: 高効率・低コストな太陽光発電モジュール